エイズ、結核、マラリア......現状は

世界で多くの命を奪っている、エイズ、結核、マラリアの「三大感染症」。2030年までに抑え込むことが国連の持続可能な開発目標(SDGs)の一つに掲げられています。しかし新型コロナウイルス感染症のパンデミックで感染症対策は大きな打撃を受けました。こうした中、状況を大きく変えると期待されているのが、テクノロジーです。その可能性を議論するセミナーがこのほど開かれ、日本発の技術も紹介されました。

三大感染症とはどんなものなのか、現状についておさらいします。

エイズは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によって全身に起こる病気です。国連エイズ合同計画によると、2021年には世界で3840万人がHIVに感染していて、65万人がエイズ関連の病気で亡くなりました。患者の多くがサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)に集中しています。早期に薬を服用すればエイズの発症を抑えられますが、途上国では薬が手に入りにくい現状があります。

結核は、結核菌によって起こる病気です。世界保健機関(WHO)によると、2021年には約1060万人が新たに発病し、160万人が亡くなりました。患者の多くはアフリカ・アジアに集中しています。ワクチンと薬がありますが、近年は薬が効かないタイプの結核菌が出てきて問題になっています。

マラリア原虫を媒介する蚊に刺されることによって感染するのがマラリアです。WHOによると、2021年の患者数は世界で2億4700万人、死者61万9千人と推計されます。患者の9割以上がサブサハラアフリカに広がっているほか、中南米やアジアの国々でも流行が見られます。

三大感染症対策に取り組む国際機関「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(グローバルファンド、本部・ジュネーブ)の報告書によると、2020年にはコロナ禍によって治療数や検査数が減少するなど、その対策が大きな打撃を受けました。

今回のセミナーは、グローバルファンドのピーター・サンズ事務局長の来日に合わせ、3月1日に東京都内で開かれました。グローバルファンド日本委員会とグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)が共催し、「ゲーム・チェンジャーズ:感染症と闘う日本のイノベーション」をテーマに、国内の関係者もまじえ議論しました。

セミナーで日本発のイノベーションについて議論する登壇者ら=東京都千代田区、筆者撮影

コロナで打撃を受けた対策

登壇したサンズ氏は、コロナ禍による三大感染症への影響について解説しました。

サンズ氏によると、特に大きな打撃を受けたのは結核でした。結核対策を担う研究所や医療機関、呼吸器疾患の専門家らがコロナ対応に回ったためです。「結核では早期の発見と治療の二つが実に重要」(サンズ氏)にもかかわらず、2020年には検査・治療を受けた人数がともに減少しました。患者を早期に発見するため、検査と診断を迅速に行い、長期にわたる治療をきちんと進めることが大切だと強調しました。

マラリアも迅速な診断と治療が重要ですが、コロナ禍の影響で死者が急増しました。地域のヘルスワーカーがコロナ対応やロックダウンに直面し、十分な対応が取れなかったためといいます。

エイズに関しては、薬による治療を継続することはできたものの、予防プログラムは大規模に中断されました。

セミナーで三大感染症の対策について語るグローバルファンドのピーター・サンズ事務局長=東京都千代田区、筆者撮影

日本発のイノベーションへの期待

こうした中、技術開発への期待がますます高まっています。セミナーの後半では、日本の企業関係者や研究者が登壇し、日本発の製品開発の現状について説明、議論を交わしました。

多くの犠牲者を出し続ける結核については、いくつかの成果が発表されました。例えば、富士フイルムが開発したのは、HIV感染者向けの尿による結核の抗原検査キット。従来の結核の検査は、患者の喀痰(かくたん)を調べる方法がメインで、高度な技術や設備が必要でした。特に途上国では、喀痰を顕微鏡で見る低感度の塗抹検査が普及しています。

富士フイルムの検査キットは、患者の尿があれば簡単に検査ができ、設備も不要。さらに結核はHIVとの重複感染が問題になっており、重複感染者では、症状が重篤で喀痰が出せないケースや、肺外結核で喀痰からは結核菌が検出できないケースもあります。そうした人でもこのキットであれば検査が可能です。すでに19カ国での臨床実績を積み、WHOの認証を受けるためのエビデンス(科学的根拠)構築を進めているといいます。

このほか、大塚製薬による多剤耐性結核に対する治療薬、スタートアップ企業「SORA Technology」によるAI(人工知能)とドローンを使ったマラリア対策などが紹介されました。

登壇者のプレゼンを受けたパネルディスカッションで、サンズ氏は今後は特に診断の分野に力を入れるべくWHOなどとの連携を強めたいと発言。「より早く、簡単に、安く診断できれば、闘う対象がわかり、その後の対応が楽になる。診断に関係する企業にはぜひパートナーシップに積極的にかかわってほしい」と語りました。

モデレーターを務めたGHIT Fundの國井修CEOは、新型コロナウイルス感染症では1年弱でワクチンが開発されたことを紹介。「たくさんのお金をかけ、様々な国や企業がパートナーシップを組んだ結果、こんなに早く実現した。やればできることが示された。三大感染症についてもプロセスを加速化し、アクセスデリバリーにつなげていくことが大切だ」と語りました。

イノベーションの加速化がいかに大切かを語るGHIT Fundの國井修CEO=東京都千代田区、筆者撮影