気候変動が進む中、健康をどう守る? 政治家、専門家、学生と語った
地球温暖化により、人間の健康が脅かされるリスクが高まっています。私たちに何ができるのか、with Planetのトークイベントで語り合いました。

地球温暖化により、人間の健康が脅かされるリスクが高まっています。私たちに何ができるのか、with Planetのトークイベントで語り合いました。
気候変動によって人間の健康が脅かされるリスクが高まっている。2024年を迎えた今、日本は、私たちは、世界の健康の課題に向き合う「グローバルヘルス」にどう取り組むべきか。衆院議員の国光あやのさん、国際協力機構(JICA)人間開発部の西村恵美子さん、グローバルヘルスへの取り組みを訴える団体の代表で早稲田大学4年の茶山美鈴さんの3人が、with Planetのトークイベントに登場し、竹下由佳編集長を交えて語り合った。
「気候変動は人類が直面する深刻な課題だ」。イベントに寄せたビデオメッセージの中で武見敬三厚生労働相はこう前置きし、日本政府が進めるグローバルヘルス戦略について説明した。
「地球と人類の共存に向け、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す『カーボンニュートラル』の取り組みを加速する。そして、すべての人が適切な保健医療サービスを支払い、可能な費用で受けられる『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ』(UHC)の達成を目指す」
自民党外交部会の副部会長を務める国光さんは「日本は温暖化の原因である温室効果ガス排出量が世界5位。その責任は重い」と指摘する。
「気候変動は単なる環境問題ではなく、経済や社会、安全保障の問題につながる」(国光さん)との考えは、今や世界の共通認識だ。2023年11~12月に開かれた国連の気候変動会議(COP28)では、化石燃料からの脱却を加速すると合意。各国の保健大臣による関連会合も初めて開かれた。
医師でもある国光さんは、長崎大学の医学生の頃からアフリカや中東で医療支援にかかわってきた。「こうしたグローバルヘルスの考え方がここ10年で日本でも急速に広がってきたと感じる」という。
グローバルヘルスへの意識の高まりは、地球温暖化による影響を私たちが身近に感じるようになったことの裏返しだ。国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰」と表現した2023年は、地球温暖化の影響が顕著だった。
世界気象機関(WMO)の発表によると、2023年は世界の平均気温が観測史上最も高かった。7〜9月の日本の平均気温も観測史上最高を記録。世界中で気象災害が相次ぎ、熱波や乾燥で山火事も多く発生した。
JICA人間開発部でグローバルヘルスチーム課長を務める西村さんは、太平洋の島国キリバスを出張で訪れた。目にしたのは、海面上昇の影響を強く受けた光景だった。
「キリバスで唯一の幹線道路の両側が海岸浸食で削られていた。2022年は異常気象による干ばつで食料や水の不足が深刻で、大洋州地域の保健大臣会合では『新型コロナのパンデミックの次にくるのは気候変動の危機だ』と指摘する声もあった」
遠い島国だけの話ではない。健康への影響は日本にいる私たちの身の回りにも及ぶ。グローバルヘルスの推進を訴える政策提言団体「Health for all.jp」代表で早大4年の茶山さんは、2014年8月に東京・代々木公園で感染したと疑われる、蚊が媒介するデング熱患者が見つかった例を挙げた。
「デング熱の感染が確認されるのは主に熱帯・亜熱帯地域。だが地球温暖化の影響で、病原体を運ぶ蚊の生息可能地域が広がっている。気候変動は日本にいる私たちの健康に直結する」と茶山さんは訴えた。
地球の危機への対応が求められる中、私たちに求められる取り組みとは。国光さんは「気候変動をいかに『自分ごと』にできるかがキーワード」だという。
病気や患者と向き合う医師たちにとって、気候変動の影響はすでに「自分ごと」かもしれない。日本医療政策機構と東京大学が日本の医師1100人を対象に実施した2023年の調査では、約8割の医師が「気候変動が人間の健康に影響を及ぼす」と回答している。
「日本のど真ん中、代々木公園でデング熱が発生したときは大騒動だった。近年は豪雨災害の被災者、熱中症の患者も多い。現場の最前線にいる多くの医師が気候変動を自分ごととして捉え、熱中症や疾病予防の健康教育に取り組んでいる」(国光さん)
西村さんは地球の非常事態に対し、「医療従事者だけでなく、研究者や技術者、メディア関係者など多様なアクターがそれぞれの立場でかかわることが必要だ」と主張。日本が経験した感染症対策や公害対策を各国と共有し、学び合うことも大事だと話す。
2024年11月には、プラネタリーヘルスをテーマにした国際シンポジウム「ヘルスシステムズリサーチ2024」(JICAと長崎大学の共催)が長崎市で開かれる。「日本で初めての開催となるこの機会に、様々な国と知見を共有したい」と期待する。
茶山さんは東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携の重要性を指摘した。日ASEAN友好協力50周年を記念して2023年12月に開催された「日ASEAN・Z世代ビジネスリーダーズサミット」に参加した茶山さんは、その場で岸田文雄首相に提言したという。「ASEANの中で、ヘルスケアや感染症に関する新たな投資の枠組みが必要」
茶山さんがこう主張する背景には、感染症のワクチンが世界各国に平等に行き渡らないという課題がある。先進国で新型コロナのワクチン接種が広がる一方、「ASEAN諸国ではワクチンの確保が進まない地域もあった」。タイでは2021年、ワクチンを求める市民らによる大規模なデモが起きた。
「次のパンデミックが起きた際には、各国と情報を共有し、ワクチン開発で連携し、途上国にワクチンを分配する仕組みを構築する。こうした取り組みでは、ASEAN地域で突出したリーダーシップをもつ日本が主導権を握るべきだ」
国光さんは「グローバルヘルス」という言葉が、2023年に改定された政府の途上国援助(ODA)の基本方針となる「開発協力大綱」で初めて明文化されたことに触れ、「グローバルヘルスの推進を訴えてきたユース(若者)が大きな役割を果たした」とZ世代の今後に期待を示した。
気候変動に対して、私たち一人ひとりは何ができるか。竹下編集長が3人にたずねた。
西村さんは2点あげた。一つは身の回りの行動を見直すことだ。食事では肉を減らして野菜を多くとる。車の代わりに自転車に乗る。「気候変動の対策になると同時に健康増進につながる」。もう一つは地球の問題を知り、周りに伝えること。「一人ひとりが少しでも行動すれば現状を変えられる」と話す。
リサイクル素材のスーツを着ていると明かした国光さん。自分にできる身の回りの行動を知りたい人は、暮らしを脱炭素化する30の行動を紹介した環境省のサイト「ゼロカーボンアクション」を参考にしてほしい、と訴えた。
「リユース素材を使った衣類『サステイナブルファッション』を選ぶ、マイボトルを使うなど簡単にできるアクションを紹介している。ぜひのぞいてみてほしい」
茶山さんは「知り続けようとして」と訴えた。グローバルヘルスは様々な課題と結びつく。「自分が関心をもつテーマがグローバルヘルスにつながっているとわかれば、興味がわくはず」。日本政府の取り組みは各省庁のサイトで確認できるとし、「一度目を通し、グローバルヘルスの課題をチェックしてほしい」と訴えた。
「国連、国家、民間企業、NGOなど、すべての動きは世論がベース。自分ができることに関心をもち、アクションを起こしてほしい」(国光さん)
【トークイベントの見逃し配信は以下からご覧いただけます】