広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて、様々な分野から課題を投げかけたり、政策を提言したりする「エンゲージメント・グループ」が活動しています。その中で、女性やジェンダーをめぐる課題に取り組む「W7(Women 7)」について、W7ジャパン2023の共同代表を務める、アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長でSDGs市民社会ネットワーク共同代表理事の三輪敦子さんに質問しました。

首脳たちへ提言する九つのグループが誕生

ーーG7サミットが5月に広島で開催されます。これに合わせて、「エンゲージメント・グループ」による会合や、首脳たちへの提言が実施されるとのことですが、「エンゲージメント・グループ」とはなんですか。

2023年は日本がG7サミットの議長国を務めます。近年、様々な分野のステークホルダー(関係者・団体)が、G7やG20の議論に自分たちの関心や課題を投げかけ、G7あるいはG20サミットの宣言や声明に反映させるよう求める活動が活発になっていて、G7やG20のプロセスに公式に位置づけられる形で活動するエンゲージメント・グループと呼ばれるグループが生まれています。

G7については、現在までに、B7(Business 7)、C7(Civil 7)、L7(Labour 7)、S7(Science 7)、T7(Think 7)、U7(Urban 7)、W7(Women 7)、Y7(Youth 7)が立ち上がっています。今年は、日本の当事者団体の方たちの努力により、LGBTQI+(性的マイノリティー)の課題を議論するP7(Pride 7)という新たな動きも生まれています。

ーー三輪さんが中心的にかかわっていらっしゃる「W7」は、女性やジェンダーをめぐる課題について提言をするようですね。具体的にはどんな方たちが、どんなことをしているのでしょうか。

W7は、G7の議論にジェンダー平等と女性の権利に関する課題を反映させることを目的として集まった女性団体・市民社会組織で構成されるグループです。W7として提言をまとめ、G7の首脳に提出し、G7の首脳会合や様々な分野の大臣会合でジェンダー平等に関する課題が十分に話し合われ、G7サミットの宣言や声明でジェンダー平等の実現に向けた明確な意思が示され、その実現のために必要な政策や施策が具体的に実行されることを目指します。

W7が女性団体・市民社会組織のメンバーにより構成され開催されるようになったのは、カナダがG7の議長国を務めた2018年が最初です。残念ながらG7サミットの開催に至らなかった2020年の米国を除き、2019年にはフランス、2021年には英国、2022年にはドイツで開催されました。W7の運営と開催は、基本的に、その年のG7議長国の団体や組織に任されていて、今年は一般社団法人「SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)」のジェンダー・ユニット(幹事団体:ジョイセフ、JAWW〈日本女性監視機構〉)が事務局を務めます。

グローバルサウスからの参加者を重視

ーーW7の活動にはどのような特徴がありますか。

2018年のカナダに始まるW7の歴史のなかで特筆すべき点は、一貫してグローバルサウス(新興国)からの参加者を重視してきたことです。G7各国のGDPをあわせると、全体で世界のGDPの4割強を占めます。また、多くの多国籍企業が本部を置く国々でもあり、G7各国の政策や行動は、世界全体の経済、環境、社会に大きな影響を及ぼします。

W7カナダ2018では、南米からの参加者が、カナダに本部を置く多国籍企業の操業により先住民族が暮らすコミュニティーの環境や生活が多大な影響を受けており、なかでも先住民族女性が被っている被害が深刻であることを訴えました。

G7が、G7参加国だけでなく、地球温暖化や気候危機への対応、パンデミックからの公正で平等な回復、紛争や自然災害などによる人道危機への支援をはじめとする諸問題と、それらが顕在化させているジェンダー課題に目を向け、解決を図る責任は大きいのです。

W7ジャパン2023のキックオフミーティング

ーー今回のW7ジャパン2023は、どんな理念をもって提言をまとめようとしているのでしょうか。

W7ジャパン2023の全体メッセージでありスローガンとなっているのは、「フェミニストは求めます、平等、公正、平和な未来の構築を(Feminist Demands for Building an Equal, Just, and Peaceful Future)」です。

ここでのフェミニストは、米国のブラック・フェミニスト、ベル・フックスの定義にならい、「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動に参加する人」という意味であり、性の多様性を考慮し、すべての人を含みます。W7ジャパン2023がLGBTQI+の課題を主流化することを理念として掲げていることをも踏まえ、「女性」ではなく「フェミニスト」という言葉を選びました。

また、グローバルサウスからの参加、LGBTQI+の課題の主流化に加え、W7ジャパン2023の運営と開催にあたり、実行委員会が大切にしてきたのは以下の3点です。

1. 全ワーキンググループを横断するテーマとして、性と人種、障害、民族など複数の属性が絡み合って差別や不平等がさらに深まってしまう「差別と不平等の交差性・複合性」
2. ユース(若い世代)の参加の保障
3. 上げられない声、聞こえにくい声を聞くための最大限の努力

W7がG7に求める五つの柱とは?

ーー具体的にはどのようなプロセスを経て、W7ジャパン2023の提言が作成されますか。また、提言の柱はどんなことになりますか。

W7の運営は、その年のG7議長国の女性団体・市民社会組織に任されてきましたが、できるだけ幅広い人たちの多様な声を集めて提言を作成し、またW7の議論に連続性と一貫性を確保しようという動きのなかで、2022年のW7ドイツではアドバイザー制が導入されました。

2023年のW7ジャパンもアドバイザー制を踏襲し、SDGsの国連ジェンダー・メジャーグループ、過去にG7への政策提言やW7運営に携わった団体、国内の様々なメーリングリストなど、実行委員会のネットワークを最大限、活用し、全世界に応募を呼びかけました。その結果、2022年をはるかに上回る250近い応募があり、最終的に87人にアドバイザーをお願いしました。アドバイザーの40%がグローバルサウスからの参加者であり、ユースの参加者が約20%を占めます。

五つのワーキンググループのテーマと提言の主な内容は以下の通りです。そのどれもが日本にとって重要で、喫緊のジェンダー課題でもあります。

1. 女性のエンパワメント、意味ある参加、リーダーシップ
人種主義、植民地主義、家父長制がジェンダー平等と女性の権利実現を阻んでいる。選択議定書を含む女性差別撤廃条約の完全な批准。候補や議席の一定の割合を女性に割り当てる「クオータ制」の導入。自己肯定感を育む教育。ジェンダー状況を把握するためのデータ収集。デジタル技術がもたらす女性と少女へのネガティブな影響への対応。

2. 女性の経済的正義とケア・エコノミー
新型コロナのパンデミック下で、公的支出の不十分さを補っていた女性の無償のケアワークが、格差と不平等をさらに拡大。政策全体にケアワークの価値と重要性を反映させ、公的なケアサービス・システムに投資。女性の無償のケアワーク削減。保健・ケア分野の労働をディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に。インフォーマルセクター(非公式で統計に表れない労働)に従事する女性に留意した社会保護システムへの公的支出。男女間の賃金格差の解消。仕事の世界のハラスメント根絶。生活賃金保障。

3. 身体の自律と自己決定
多様な性的マイノリティーの人たちへの支援を含む、ジェンダーに基づく暴力の予防・保護・処罰・対応などのための国際人権基準にのっとった法整備と施策。オンライン暴力、幼児婚・強制婚、性的マイノリティー嫌悪への対応。包括的性教育の実施。安全な避妊や中絶を始めとする性と生殖に関する健康に関連するサービスへのアクセス保障。中絶に対する刑事罰や強制不妊手術政策の撤廃と適切な対応。

4. 持続可能性と正義のためのフェミニスト外交政策
複合的にジェンダー化された人道危機への対応。差別と不平等の交差性・複合性の理解と人権に根ざして平和、安全保障、人道・開発援助、環境、貿易に統合的にアプローチするフェミニスト外交政策の採用と実施。選択議定書を含む女性差別撤廃条約や国連が採択した移住に関するグローバルコンパクトの十分な実施。軍事費削減。ODAの最低20%をジェンダー平等を主要目的とするものに。気候変動対応への十分な支出。

5. ジェンダー平等のための説明責任と財源調達
ジェンダー平等をグローバルに推進する政策を実施するための差別と不平等の交差性・複合性に留意した性別データ収集への投資。公約・政策への説明責任を確認・検証するためのメカニズム整備。国内・国外両方でのジェンダー平等への資金・財源調達。女性・フェミニスト団体への支援強化。

前回のG7サミットの開催地・ドイツのW7から、W7ジャパンへの引継ぎ式の様子

ーージェンダー関連の様々な指標でG7では最下位を走る日本ですが、皆さんはG7広島サミットをきっかけにどのような変化を世界に、日本に、もたらしたいとお考えでしょうか。

「公約を実行に」「言葉でなく行動を」は2018年以来のW7のメッセージですが、ジェンダー平等に関する説明責任の確保を目的とする2022年のG7エルマウ・サミットの成果として、G7 Dashboard on Gender Gaps(G7ジェンダー格差指標ダッシュボード)の創設が挙げられます。

日本は残念ながら誇れる部分はあまり見つかりません。一方で現在のダッシュボードは、「指標を集めただけ」との指摘もあります。たとえばデータの単純な各国間比較ではなく、進展の度合いをダッシュボードの重要指標として扱うなど、ジェンダー平等の実現に向けたG7の公約の実施と説明責任の確保のために、日本には創造的なリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。

W7ジャパン2023の提言では、世界で最初の原爆投下という非人道的な惨禍を経験した広島の経験を踏まえ、「G7広島サミットは、平和、非軍事化、非暴力を実現するためのまたとない機会」であり、「ジェンダー平等を中心に据えた、平等で公正で平和な未来はすべての人に恩恵をもたらす」ということを強調しています。そのことを実現するために、W7は様々な機会を使って多くの人たちに働きかけていきます。皆さんもぜひ、その輪に加わってください。2023年4月16日には、東京でW7サミットが開かれます。皆さんのご参加をお待ちしています。

〈みわ・あつこ〉

アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長。日本赤十字社外事部(現国際部)、国連女性開発基金(現 UN Women)アジア太平洋地域バンコク事務所、公益財団法人「世界人権問題研究センター」などで、ジェンダー、開発、人道支援、人権分野の様々なプログラムの実施支援や調査・研究に携わってきた。2017年から、一般財団法人「アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)」所長。一般社団法人「SDGs市民社会ネットワーク」共同代表理事。国連ウィメン日本協会副理事長。2018年からW7に参加し、2022年のW7ドイツではアドバイザーを務めた。