気候変動の深刻な影響を受ける子どもたち ユニセフ事務局次長に聞く
「気候変動は子どもたちの危機」として、国連児童基金(ユニセフ)は、国際社会の支援と関心を呼びかけています。事務局次長が来日したのを機に話を聞きました。

「気候変動は子どもたちの危機」として、国連児童基金(ユニセフ)は、国際社会の支援と関心を呼びかけています。事務局次長が来日したのを機に話を聞きました。
巨大サイクロンや深刻な干ばつ、気候変動の影響は世界中で起こっています。国連児童基金(ユニセフ)は、気候変動の深刻な影響を受ける開発途上国の子どもたちへの支援を訴えています。来日したキティ・ファン・デル・ハイデン事務局次長に、子どもたちに何が起こっているのか、私たちに何が求められるのか、聞きました。
――いま起こっている気候変動の問題は、世界の子どもたちにどのような影響を与えているのでしょうか。
干ばつや洪水、ハリケーン、山火事、化石燃料の燃焼による大気汚染など、さまざまな形で、約10億人の子どもが気候変動による極めて高いリスクに直面しています。世界の子どもの人口の半分にあたります。
昨年、ドバイで開かれた第28回気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で、私たちは初めて子どもの独特な脆弱(ぜいじゃく)性について報告しました。これまでは、気候変動と子どもたちの関係については語られてきませんでした。
子どもは、大人と違う脆弱性をもっています。その子どもたち、特に開発途上国の子どもたちが、コロナや世界中に広がる紛争と並んで、気候変動による深刻な影響を受けています。
――具体的にはどんな形で子どもたちは危機に直面しているのでしょうか。
大規模な洪水が起こると、子どもたちは泳げないので、大人を頼らざるを得ません。水害で最初の犠牲になるのは子どもです。
洪水が起こると、病原菌や寄生虫によって引き起こされる疾患が急激に増えます。マラリアやデング熱、コレラ、下痢などです。
洪水はアジアで多く起きています。一方、アフリカは干ばつに苦しんでいます。雨があまり降らず、雨期も短くなっています。雨が少ないということは、作物がとれなくなるということです。
5歳未満の子どもたちが十分な栄養を得られなければ、発育阻害(Stunting)と呼ばれる状態になります。慢性的な栄養不足が身体的、精神的発達を阻害し、子どもは脳の認知能力を十分に発達させることができなくなります。
私が数年住んでいたエチオピアでは、干ばつが頻繁に起こって、子どもの約4割が発育阻害の状態です。
気候変動は、世界の天候を変えているだけではなく、子どもたちの人生、子どもたちの肺、子どもたちの脳機能などを変えてしまうのです。子どもたちから尊厳ある生活も奪ってしまいます。
――気候変動によって発育阻害が引き起こされることが多くなり、子どもたちに生涯にわたる影響を与えてしまうのですね。
生まれる前から子どもたちは影響を受けていると言えます。たとえば、長期間の熱波にたびたび襲われることによって気温が上がり、妊婦の出産の時期が早くなっています。その結果、低体重で生まれる赤ちゃんが増えています。
同時に、干ばつや熱波で、母乳の質や量も変化しています。当然、生まれてすぐの赤ちゃんが影響を受けます。
また、赤ちゃんは大人の2倍の早さで呼吸をしているので、山火事のほか、化石燃料の燃焼による大気汚染の影響をより受けます。汚染された空気を吸い、肺機能への悪影響も心配されます。
生まれたばかりの赤ちゃんは体温調節をうまくすることができません。熱波がくると、体温を下げられず、腎機能に障害を負うこともあります。
――健康被害以外にも子どもへの影響はありますか。
気候変動によって人々は経済的な打撃も受けます。洪水が起こり、移動ができなくなり、仕事を失う。農地で作物はとれず、野菜を売ることもできない。そうした状況の中で、貧困に苦しむ家族が生きていくためには、家族の人数を減らす、口減らししかありません。
その結果、18歳未満の子どもを強制的に結婚させる児童婚が増えています。児童婚は子どもの権利の侵害であり、子どもの成長発達に悪い影響を与えます。女の子は妊娠・出産による妊産婦死亡リスクが高まるほか、暴力、虐待、搾取の被害も受けやすい。学校を中途退学することも多いです。
たとえばバングラデシュでは30日以上熱波が続くと、児童婚が増加し、11~14歳で結婚させられる少女たちは5割以上も増えたという調査結果が報告されています。2021年に干ばつがあったエチオピアでは児童婚が2倍以上に増えた地域もありました。
西アフリカのサヘル地域では、女性性器切除(FGM)も増えています。FGMは激しい痛みや大量出血を伴い、感染症や排尿障害、慢性的な合併症に生涯悩まされることも少なくありませんが、大人になるための通過儀礼とされ、結婚の条件とされています。親は子どもを結婚させ、家から出すためにFGMを施すのです。
――このまま地球温暖化に歯止めがかからない状態が続くとどうなるのでしょうか。
そんな状況は考えたくありません。子どもの権利条約は35年前に国連で定められ、日本は30年前に批准しています。子どもたちには生きる権利、健康に育つ権利があります。私たち大人が彼らの安全を確かなものにし、彼らの権利を守らなければなりません。
ユニセフは、2025年のCOP30に向けて各国が新たに取りまとめることになっている「国が決定する貢献」(NDC=Nationally Determined Contribution)、つまり「温室効果ガスの排出削減目標」の中に、「子どもの視点」を入れるよう呼び掛けています。
――なぜ、子どもの視点を入れること、子どもたちの声を聴くことが大切なのでしょうか。
子どもは、大人とは違う独特な脆弱性をもっています。子どもは大人を単に小さくした存在ではありません。生理学的にも行動学的にも大人とは異なる存在です。そのような脆弱性をもった子どもたちがいま、これまでにないほどの危機に瀕(ひん)しています。
一方で、子どもたちは私たちが思っている以上に、柔軟で、レジリエンス(しなやかな強さ)があります。先日訪れたカンボジアの農村で12歳の子どもたちが村の環境をよくするために、ポリ袋を拾い、どうすればプラスチック汚染を減らすことができるか、ゴミの捨て方やプラスチック製品の持ち込みについて考える活動をしていました。72歳の長老が「自分はゴミを拾ったこともないし、環境のことを考えたこともなかった」と泣いて自身を恥じていました。
若者はただの犠牲者ではなく、問題解決の一部になり得ます。多くの子どもや若者たちは気候変動問題に意見をもっていますし、関心も持っています。温室効果ガスの排出削減目標などは、彼らの将来に影響を与える決定ですから、その内容を決める際には子どもたちは参加する権利があります。
私たちは多国間気候変動基金、緑の気候基金などの17年にわたる状況について分析しました。開発途上国の温室効果ガス削減と気候変動の影響への対処を支援するためのこれらの基金のうち、子どもたちに適切な形でプログラムされているのは、たったの2.4%です。
世界の貧困層の50%は子どもたちです。つまり、子どもたちの意見を採り入れるようにと求めていることは、利害関係を持つ少数の人々の話をしているのではないということを理解してほしいです。
もし、子どもたちに対するプログラムに資金を提供することができれば、気候変動に対する子どもたちの対応能力に大きな影響を与えることになります。私たちは国家予算と国際的な支援により、子どもに対応した形で十分な資金が提供されることを求めています。そうすれば、地球の未来だけでなく、子どもたちの未来も変わるでしょう。
子どもたちが世界の気温上昇を1.5度以内に抑える野心的な指標づくりの手助けをすることが非常に重要です。この機会に動かなければ、永遠に私たちはその機会を失うことになるでしょう。
――日本政府に望むことはありますか。
できるだけ高い目標を掲げてほしい。そして、それは子どもたちの参加を得て決めていってほしいと考えます。
日本は組織の能力、技術的な専門知識、財政力もあります。気候変動の時代に世界の子どもたちの安全を守ることができるように、日本政府にも日本の人たちにも、気候変動のリスクや課題に対して、これからもより連携、協力して対応してくださることを心から望みます。