解けるヒマラヤ氷河が警告する「飢えの時代」 私たちは備えられるか
北極、南極に次ぐ膨大な量の氷を抱え、「第3の極」と呼ばれるヒマラヤ山脈。その山岳氷河が急速に解け出しています。悪化する地球の健康状態を現地から報告します。

北極、南極に次ぐ膨大な量の氷を抱え、「第3の極」と呼ばれるヒマラヤ山脈。その山岳氷河が急速に解け出しています。悪化する地球の健康状態を現地から報告します。
ヒマラヤ山脈が「第3の極」と呼ばれていることをご存じだろうか。北極、南極に次ぐ膨大な量の氷を貯蔵するからだ。地球温暖化により、そのヒマラヤの氷が急速に解け、20億人の生活と自然環境に壊滅的な影響を与える恐れが指摘されている。山岳氷河が解けた時、そこで何が起きるのか。私たちはどのように備えればいいのか。ジャーナリストの舟越美夏さんが、ネパールから報告する。
世界一美しい渓谷。5月末に訪れたヒマラヤ山脈中部のランタンは、聞いていた通りだった。氷河が削ったU字谷を4千メートル付近まで登ると、冠雪したランタンリルン(標高7234メートル)と周囲の山々が、空の青の中で厳然と佇んでいた。氷河から流れ出る水の轟音と風の音。人の姿はない。この風景の前で、大自然に畏れを抱かない者はいない。
呆然(ぼうぜん)としていると、案内してくれた建築家の中原一博さんがつぶやいた。「山が黒くなったな」。14年前から度々、ランタン渓谷を訪れている彼には、氷河の後退と積雪の少なさは一目瞭然だった。
「世界の屋根」ヒマラヤ山脈とそれに続くヒンドゥークシ山脈は、北極、南極に次ぐ膨大な氷を貯蔵し、「第3の極」とも呼ばれる。アフガニスタンとミャンマーの間に広がる約3500平方キロの山岳地域には5万を超える氷河があり、アジアの数々の大河の水源となって多様な文明と生態系を育んできた。今も約20億の人々と、動植物がその水を頼っている。
だが氷河と雪は、主に人間の活動に起因する温暖化と、気候変動により、科学者たちの予想をはるかに上回る速さで消えている。世界気象機関(WMO)は、「アジアの山岳氷河の融解は2022年に過去最高水準に達した」とし、食料と水の安全保障、生態系への大きな影響を警告した。打撃を最初に受けるのは、社会的に弱い立場の女性や子どもたち。さらに社会不安や紛争に形を変えて悪影響は広がる。それでも国境を越えた連携は進まない。
警告を発する「第3の極」とその周辺で、未来へ社会をつなごうと模索する人々を訪ねた。
ヒマラヤ山脈とヒンドゥークシ山脈は、アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ミャンマー、ネパール、パキスタンの国々にまたがる。この8カ国がつくる政府間機関「国際総合山岳開発センター」(ICIMOD、ネパール・カトマンズ)は地域の氷河や雪、生態系の変化を監視し、急激に変わる環境への適応策を研究・提言してきた。
「地球のパルス(脈拍)」。ICIMODはこの山岳地域をそう呼ぶ。脈拍は、健康指標だ。世界で最も高い位置にあり、水循環など地球のメカニズムの調整役である「第3の極」の健康状態は地球全体に影響する、というのだ。しかしヒマラヤの変化は、これまで大きく注目されなかった。
6月下旬、ICIMODは「水と氷、人間社会と生態系」と題した報告書を発表し、科学的データに基づき、ヒマラヤ地域の雪氷圏の変化が「20億人の生活と自然に壊滅的な影響を与える」可能性があると警告して注目された。
・氷河は、2011年から2020年にかけての10年間に、それ以前の10年間より65%も早く消滅した。温室効果ガスの排出量を抑えられなければ、今世紀末までに最大80%の氷河が消える可能性がある。
・永久凍土が前例のない速度で減少。そのために地滑りが起きやすく、標高の高い場所のインフラが影響を受ける。
・局地的な豪雪は増えるが、降雪の頻度は減る。河川の水量は、今世紀半ばにピークを迎え、その後減少する。
・氷河や永久凍土を元の状態に戻すことは、ほぼ不可能である。
ICIMODの副事務局長、イザベラ・コジエル氏は「この地域を救う時間はまだある。だが温室効果ガスの大規模な排出削減が、今すぐに開始された場合だけだ」と述べ、各国の指導者に対し、早急に行動を起こすよう呼び掛けた。
「私たち山の民には、自然の変化がよく分かるんです」。ランタン渓谷の標高3400メートル付近にあるランタン村。ロッジを経営するニマさん(43)は言う。
緑の草地が美しいランタン村は実は一度、壊滅した。2015年4月25日、ネパールを揺るがした大地震が引き金となって、村近くで大規模な雪崩と共に爆風が発生。トレッキングに来ていた外国人観光客らを含め村にいた約300人が死亡し、数キロに渡って木々がなぎ倒された。冬に降った百年から五百年に一度という豪雪が、被害を大きくした。犠牲者の半数の遺体は、見つかっていない。村はずれには、爆風で崩壊したロッジの瓦礫(がれき)が今も残る。
妻と両親だけでなく、地域の文化や財産をも失った深い痛みを抱えながら、ニマさんは生き残った人々と村を再建している。
「ここ6、7年は冬に雪が降りません」。以前は秋に森で薪拾いをして冬には家に閉じこもったものだが、今は冬に森に行くことができる。冬の日中に、半袖シャツを着るほど気温が上がったかと思うと、春間近になって真冬のような日が来る。モンスーンの時期には、標高の低い町で降るような激しい雨に見舞われる。農作物の作付けが1カ月も早まった。
村からのぞむ6千メートル級の山々は、かつては6月でも雪に覆われていた。「今は、山の半分が黒いでしょう?」。雪は山々の頂上付近に残っているだけだ。
ニマさんの証言は、ICIMODの調査とも重なる。
ICIMODは、日本の研究者たちが1970年代から蓄積してきたデータを基に、ランタンの氷河などの調査を年に2度のペースで続けている。
ランタン渓谷では1988年から2008年の20年間だけで、気温が1.7度も上昇した。氷が解けて後退し細る氷河はもとより、生態系の変化も顕著だ。花が咲き作物が実る時期が変わり、標高3800メートル付近にあった木々が、4千メートル以上にならないと見られなくなった。以前はいなかった害虫が木々の内部をむしばみ、3千メートル付近で田畑を荒らしていたイノシシが、4千メートル付近でも目撃されている。
同じような現象が、ヒマラヤ地域の各地で起きている。パキスタンでは14種類のチョウが絶滅したという。
2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で採択された「パリ協定」は、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるという努力目標を設定し、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減をすべての国に義務づけた。
「1.5度」は重大な変化が起きる分岐点で、局地的な大雨による洪水や豪雪、熱波による山火事、干ばつ、食糧不足などの深刻な災害の可能性が高まると、科学者たちは指摘する。ランタン渓谷ではこの1.5度の分岐点を越えた1.7度の上昇がみられているのだ。「地球温暖化は人為的なものではない」などの懐疑論が消えない中、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は2021年、「人間の活動が温暖化に影響してきたことに疑いの余地はない」と報告書に明記した。
科学者や国際機関が危機を訴えても、環境問題には国益と企業利益などが絡み合い、国境を越えた協力は遅々として進まない。ヒマラヤ地域の8カ国の中には、インドと中国という大国を始めとして、緊張関係にある国々が少なくない。「水」は、死活問題であり、対立と紛争の原因にもなってきた。
こうした中で2020年10月、8カ国の閣僚級会合が実現し、「あらゆるレベルで地域協力を強化する」などとする6項目に各国が合意したのは画期的だった。温暖化で増大する災害を防ぐためには国境を越えた協力が不可欠、という強い危機感を共有した結果だった。
懸念される災害の一つが「内陸の津波」と呼ばれる「氷河湖決壊洪水」である。
氷河の先端には、氷河が削った岩くずなどが丘のように堆積(たいせき)している。氷が解けて氷河が後退すると、丘の背後に雪解け水が溜まり、湖ができる。丘は、頑丈なものもあるが、もろいものも多く、地震などで湖水に圧力がかかって丘が決壊すれば、水や土石流が鉄砲水のように下流域を襲う可能性が高い。多数の住民が下流域にいる場所の氷河湖が決壊すれば、大災害になりかねない。1994年10月、ブータン北部のルゲ氷河湖が決壊し、土石流が90キロにわたって流れて歴史的建造物を破壊し、21人が死亡した。
ICIMODの2020年の報告では、面積が3千平方メートル以上の氷河湖は、ネパール、中国のチベット高原、インドだけで3624カ所あり、そのうち「厳重な監視が必要」とされる氷河湖は47カ所ある。エベレスト山の南側で拡大を続けていたイムジャ氷河湖は、下流域にトレッカーら観光客が多いことなどから注目され、2016年、国際社会の支援で湖水の水位を下げるための排水路を設置する大規模工事が行われた。
だが、氷河湖の動態は分かっていないことが多い。ネパールやブータンで氷河湖を調査研究してきた名古屋大学大学院の藤田耕史教授(地球環境科学)は「氷河湖決壊を予測するのは不可能。水位を下げても効果があるかどうかは分からない」と指摘する。
ヒマラヤ地域8カ国の合意事項は、残念ながら履行されていない。合意から間もなく、ミャンマーとアフガニスタンで政変が起きたからだ。その間にも温暖化は進んでいる。
日本ではこの夏も、局地的な豪雨や熱波による犠牲者が出た。遠いヒマラヤの変化に構っている場合ではない、という声もあるかもしれない。
しかし、ICIMODの雪氷圏の専門家、ミリアム・ジャクソン氏は、ヒマラヤ地域の変化は「日本にも影響する」と断言する。指摘するのは、氷河融解による海面上昇といった問題だけではない。「飢え」「移動する人々」「紛争」という気候変動に連鎖する悲劇が及ぼす影響だ。
気候変動により、作物が実らず、豪雨や山火事で住む場所を失えば、移動を迫られる人が増える。その数が多いほど社会は不安定になり、紛争につながる可能性が高まる。
ジャクソン氏は「シリア内戦が一つの例です」と指摘する。400万人が難民となったシリア内戦の背景にも温暖化による干ばつがあったと、米国の気候科学者が研究論文で発表している。
国内避難民監視センター(IDMC、ジュネーブ)によると、自然災害が原因で住む場所の移動を強いられた人は2022年、世界で3260万人。このうち2260万人がアジア地域の人々だった。
20億人の水源であるヒマラヤ地域の変化は、世界人口の4分の1に影響しかねない。「これがアルプスなど氷河がある他地域と異なる点です」とジャクソン氏は言う。
被害を抑えるには、変わる気候への適応策が不可欠だ。しかし温暖化の速度は速く、国際支援がなければ途上国の適応策は進まない。
ネパールでは、農業分野の適応策として、天候の変化や病気に強い在来種を栽培する試みが始まっている。適応策を実施するのは主に女性たちだが、試みを進める過程で社会的地位が低い彼女たちの環境が変わりつつあるという。
どういうことか。観光と農業以外に基幹産業がないネパールでは、人口の1割以上が外国に出稼ぎに行っており、その大半は男性といわれる。農業を守るのは女性たちで、彼女たちの協力なしには、適応策の実践は不可能なのだ。
農家の大半は、多収穫を目的に人工的に交雑したハイブリッド種を種苗会社から購入している。しかし天候の変化や病気に強いのは、その土地に受け継がれてきた在来種の作物。ネパールでは気候変動への対応策として、在来種を保存して記録に残し、種子を農家に配って栽培する試みが始まっている。
首都カトマンズからバイクで1時間半。クイケル村は丘の上にある。「以前は雨季でもヒマラヤの山々が見えた」と村人は言う。ここ数年は暑さが増し降雨のパターンが変わった。湿度が上がったことで、ヒマラヤはもやに隠れて全く見えない。
サビトリさん(53)は、村の農家の女性たちで作る互助会のメンバーだ。5年前に35人で結成され、毎月10ネパール・ルピー(約11円)ずつを出し合って積み立て、在来種の作物の種子などを受け取る。サビトリさんは、在来種の栽培のほか、退役軍人の夫と共に、化学肥料や農薬を使わない循環型農業を始めた。将来の農業と健康を真剣に考えるようになったからだ。自宅前の畑でキャベツやナスなど多品目を育て、飼育している牛やヤギの尿を利用して害虫駆除剤を作る。ミミズで有機物を分解し堆肥を作る装置も作った。ドイツのNGOやICIMODのアドバイスを受けているという。
村の互助会の月に一度の会合では、新たな農法の問題や生活の悩みを話し合う。「楽しいことも苦しいこともみんなに話すの。以前は人前で話すことができなかったけど」。サビトリさんは、互助会の書記を務める。「前よりも互いに支え合う力が強くなった」
携帯電話のアプリを通じて、大学の研究者らに有機作物について相談することもある。最近、近隣の2つの村の農家と、有機野菜を売る会社も立ち上げた。これには村に残っている男性たちも参加している。
しかし、適応策は普及に時間がかかる。貧困率が高く脆弱(ぜいじゃく)な山岳地域社会では、職を求めて都会に行く若い女性が少なくない。彼女たちは、人身売買の被害者にもなりかねない。ネパールでは、性的搾取を目的に彼女たちを狙う人身売買ネットワークが、新型コロナの感染が収束した後も活発だ。急速な気候変動が進めば、被害者もさらに増えるだろう。
政府の対策は追いつかないが、女性たちを支援するネパールの女性の組織は力強い。
カトマンズに本部を置く団体「シャクティ・サムハ」は、10代で人身売買の被害に遭った女性たちが1996年に設立した。活動が評価され、2013年には「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を受賞。その活動は大胆で粘り強い。被害に遭っている女性たちの情報を入手し、警察と連携して救出。シェルターで保護し、トラウマを克服して社会へ戻るまでを支援する。
「絶望していたけれど、自分自身を信じることを女性たちから学びました」。17歳の少女は、だまされて連れて行かれたインドで性労働を強要されていた。半年前に救出されシェルターで過ごした後、看護師を目指して勉強をする決心をしたという。「今度会う時は、もっと良い顔をしているはずです」と真っ直ぐな目を向けた。
この団体から、エイズウイルス(HIV)感染者をケアするNGOも生まれた。ゴマ代表は、人身売買によりHIV感染した。14歳で救出されたが、社会からの非難と差別に苦しめられた。過酷な体験を乗り越えられたのは「同じ境遇の女性たちが立ち上がる姿に勇気づけられたから」だという。
2021年には、母子感染した少女らのためのシェルターをカトマンズ郊外に開いた。建設に尽力したのは、ランタン渓谷を案内してくれた中原一博さんと彼のNPO「ルンタプロジェクト」である。
シェルターで暮らす少女たちは明るく、互いへのいたわりがうかがえる。しかし彼女たちが抱える痛みの深さは、笑顔からは分からないのだと知ったのは、シェルターを後にしてからだった。偶然目にした、ある少女のSNS投稿は、心の底からの叫びのようだった。「死は突然、やってくる。生きている間に私を愛して」
ベトナムで伝統農法や自然を守りながら経済的自立を支援しているNPO法人「Seed to Table」の伊能まゆ代表は、ネパールの農村を今年、視察した。自分たちの農業や文化を守ろうと活動する農家の女性たちの熱意に感動した。迫る大変な時代をどう生き延び、未来につなげるかを考えているようだったという。
チベット高原を源流とする東南アジア最長の川、メコンの下流に位置するベトナムも、気候変動の大きな影響を受けている。川の水位が下がり、魚が捕れない。メコンがつくる豊かな土壌でベトナムは世界第3位のコメ輸出国になったが、ここ数年は塩害と大雨で不作が続く。影響は、マンゴーやココナツなど農作物全体に及んでいる。
「豊かな時代は終わった。飢えの時代が近づいている」と伊能さんは実感している。
外国との戦争や内戦が続いたかつての食糧難の年月を、ベトナムとネパールの人々は山や川の動植物を糧に生き延びた。だがもう、頼れない。開発や気候変動で山も川も荒れてしまった。
7月、世界最大のコメ輸出国であるインドが、コメの輸出を全面禁止にした。気候変動による不作が一因で、国際食糧政策研究所(IFPRI)は「世界の食糧安全保障に対する潜在的脅威」と各国に警告した。
飢えの時代をどう生き抜くか。ハイブリッドよりも変化に負けず生き残る可能性が高い在来種の作物を植え続け、種を将来につないでいくことが重要だと、伊能さんは言う。「種を失うリスクを分散するために、保存に適しているネパールのような山岳地帯と、ベトナムのような平野部が連携し、協力していくことも重要かもしれません」
第3の極からの警告を、どうしたら日本で共有できるだろうか。考えながらカトマンズを歩いていたら、日本の大学生に遭遇した。岸咲良(きし・さくら)さん(21)。大学を休学してネパールに50日間滞在し、コーヒー栽培農家を訪問したりバリスタ学校で学んだりしたという。
「机の上で考えるのとは全く違う、衝撃的な体験でした」
天候や野生動物など予測不可能な農業の難しさ。自分の手でコーヒーの木を植える喜び。日本とは違うネパールの人々の発想。「まだ整理できていませんが、この体験を糧にいつか何かをやりたい」
柔らかな感性で未知の世界に飛び込み、予想外の出来事や人々との出会いに驚き、楽しみ、自身の世界も広げていく。岸さんの生き生きとした日々が伝わった。
彼女を派遣したのは、合同会社「BIKAS COFFEE(ビカスコーヒー)」(東京)。代表の菅勇輝(かん・ゆうき)さん(30)は、広告会社勤務を経て、会社を立ち上げた。森と共生する農法「アグロフォレストリー」で採れたネパールの村のコーヒー豆を販売している。だが売っているのは「理念」だと言う。
18歳の時、ネパール農村部で学校を建設しようと活動し、7年越しで実現した。その喜びが忘れられず、就職後もネパールの教育問題や人身売買の被害女性らの支援などに打ち込んだ。
難しかったのは、自分たちの目標をどう「自分ごと化」してもらうか。街頭募金では同情しか集まらない。「共感」を得てこそ、未来につながるお金も人も集まると思った。「そのためのツールとしてたどり着いたのがコーヒーでした」
コーヒーを飲むという日常の行動を介して、ネパールの農家や地域、社会の発展に関わる。目指すのは、身近な消費者行動を通じて、あらゆる人が社会に貢献できる経済社会だ。そこに未来を見いだす、岸さんのような若い世代がBIKAS COFFEEというブランドに、集まっている。
温暖化と気候変動から地球環境を守るために「残された時間は少ない」と国連環境計画(UNEP)は警告する。異なる分野や世代が連携して、知恵や技術を出し合い、できることから行動していくしかないのだろう。
世界の機関投資家は、気候変動への取り組みを企業の投資判断に入れるようになった。一方で、京都大学などが、温室効果ガス排出削減などが「貧困問題を悪化させる」との研究結果を発表し、「気候変動対策の副作用をどう軽減するか」も重要課題だと提言した。温暖化と気候変動への対策は、一筋縄では行かない。だが、私たちは次世代のために間に合わせなければならない。
今も、脳裏から離れないものがある。雪を抱いたヒマラヤの山々の神々しさ。そしてランタン村のニマさんが語った、大自然の容赦のなさだ。部族に伝わる歌を子どもたちに教え、人々の幸せのために祈りを捧げていた村のお年寄りを一瞬で消した、雪崩と爆風。その巨大な力を想像し、私は身震いをする。