グローバルヘルスやジェンダー問題、人権問題や食料不安。世界にも、日本にも、これらの課題を解決すべく活動している人がいます。with Planetでは、NGOをはじめとする「現場で働く人」をゲストに迎えたポッドキャスト「地球で働く!」を、2月21日(水)にスタートしました。第1回のゲストは、「国境なき医師団」の白根麻衣子さんをお招きしました。聞き手は、この春から大学生になる東京都の亀田青空(そら)さん(18)と、with Planetの竹下由佳編集長です。ぜひ、ポッドキャスト本編をお聞きください。 

国境なき医師団」の一員である白根麻衣子さんは、実は医療従事者ではなく、「人事・財務のプロ」です。アドミニストレーターやプロジェクトコーディネーターとして、NGOの現場での活動に欠かせない重要な役割を担います。

昨年、イスラエルとハマスの衝突が激化するガザ地区で活動し、11月に帰国してからは、様々なメディアで現地の過酷な状況を訴えてきました。

2016年に国境なき医師団に入団し、人事や財務を担う「アドミニストレーター」として活動を続ける白根さんは、ウクライナやアフガニスタンなどで「生命の危機」を感じたことはなかったのでしょうか。

本日から配信スタートしたwith Planetのポッドキャスト「地球で働く!」は、with Planet編集部の竹下由佳編集長が聞き手となり、NGOをはじめとする組織で活動している方とともに「地球のためにできること」を探るトーク番組。番組にはさらにこれからの地球を担う10代、20代も参加し、ゲストに対して率直な質問をぶつけます。今回は東京都在住でこの春から大学生になる亀田青空さんが参加しています。

ポッドキャスト本編では、白根さんがこの仕事を生業に選んだ理由ややりがい、さらにはそもそもこの仕事でどれだけの収入を得て、どんな自身の未来を描いているのか、という質問にも答えていただいています。記事では本編の一部を、読みやすいように編集してお届けします。

「恐怖」を感じたことは一度もない

──国境なき医師団の派遣先には危険な国や地域が多い印象があります。白根さんは、ご自身の安全について不安を感じたことはありませんか? 

私が訪れたアフガニスタンもウクライナもガザも、何も分からないまま行くとなれば恐怖を感じるかもしれません。しかし、国境なき医師団は、活動を始める前に当地の安全について入念な分析・調査を行っています。さらに、その地域に関係する利害関係者、軍や政府、さらには反政府武装勢力ともコミュニケーションして、医師団はあくまで中立な立場で医療活動をするのだと徹底して事前説明がなされています。

ですから、皆さんがイメージするような、紛争地の銃弾が飛び交う中に飛び込んでいく、なんてことは一切ありません。私自身も、派遣を前に恐怖を感じたことは実は一度もないのです。

──ある種の「覚悟」をもって現地に向かうものだと思っていました。

国境なき医師団では、出発する前にリスクなどが分析された大量の資料を受け取ります。本部からの説明も受けますし、希望すれば今まさに現地で働いてる人と直接ビデオ電話を通じて現地の状況を聞くこともできます。あらゆる情報を得た上で、最終的に現地に行くかどうかを自分で決めることができるのです。

──派遣先は、紛争地域だけではないのですか。

医師団の活動の40%以上が「安定した地域」と呼ばれるところで行われています。医師団の役割は紛争地だけにあるわけではありません。「顧みられない病気」であったり、貧困によって医療を受けられない人たちに医療を提供することも含まれています。例えばC型肝炎や結核など、治療すれば治るのに治療ができない地域、あるいは薬の供給がままならない地域での活動もあります。

with Planetのポッドキャスト「地球で働く!」の収録風景=2024年1月、東京都中央区、with Planet編集部撮影

医師団の仕事は「医療行為」だけではない

──医師団には、安全を確保するためにリサーチするスタッフがいるのですね。

はい。その役割を主に担っているのは「プロジェクトコーディネーター」と呼ばれる人たちです。すべての安全管理について責任をもっています。「ロジスティシャン」と呼ばれる物流を担うスタッフと一緒になって、どんな活動ができるかを常に分析しています。

もちろん、事前の分析だけで終わるわけではありません。活動している間も状況は大きく変化します。

私がウクライナに派遣された当初は、今あるようなロシアとの衝突は激化していませんでした。状況が変わっていくと、スタッフの行動範囲や活動できる地域も縮小したり、あるいは場所を変えたりと変化していきます。安全管理を担当するスタッフの役割は、とても重要になってきます。

──現地に行き、そこで働く皆さんはどんなモチベーションを持っているのでしょうか。

私が最もやりがいを感じるのは、人との出会いです。他の何にも変えがたい出会いがたくさんあります。

派遣される地域によって、世界中からいろいろなチームが集まっています。さまざまな国から来た人たちが一つになって働けるのは本当に楽しいですし、それぞれがどんな経験を積み、どんな経緯で国境なき医師団に参加するようになったのかを知ると、世界ってこんなに広いんだと感じさせられます。

いざ現地に行って働くとなると、貧困や紛争、自然災害に直面することになり、そこでの活動は決して容易ではありません。でも、その環境にあっても強く、明るく生きる同僚たちに出会えるのは、本当に私にとって「生きる糧」になっているのですよね。

白根麻衣子さん

大学卒業後、銀行にて個人営業に従事。退職後、日本とイギリスで修士課程修了。インターナショナルスクール勤務を経て、2016年、国境なき医師団日本事務局の人事・総務担当として入職。2017年より、アドミニストレーターとして海外現場での活動に参加。これまで、ウクライナ、パレスチナ・ガザ地区、アフガニスタンのプロジェクトで活動。(国境なき医師団HPより)