14~50歳くらいの女性であれば、月1度やってくる生理。国籍に関わらず女性を悩ませるが、国によっては生理用品を手に入れるのが大変な地域もある。そんな国の一つ、アフリカのエチオピアで、生理の時にナプキンなどの代わりに使える日本発の吸水ショーツの技術を女性たちに教えるプロジェクトが始まる。「生理についての認識を変えて、社会を変えたい」と関係者は意気込んでいる。

生理になると学校に行けない女の子も

エチオピアはアフリカの東部に位置し、日本の約3倍の広さの国土に、日本(約1億2400万人)とそう変わらない約1億1700万人が住む。農業が主要産業で、1人当たりの国民総所得(GNI)は960ドル(2021年)。最貧国の一つだ。

生理はタブーであり、学校で教わることも少なく、人前で話すことはなかなか難しいという。生理用品は高価で、使い捨ての生理用ナプキンは10個入りのパッケージが現地通貨で70 ~90ブル(1ドル=約56ブル)と、1日分の給与に相当する価格で、なかなか手に入れられないという。生理が来ると、生理用品がないために学校に行けない女子生徒も多くいるという。

このような状況を変えようと、さまざまな取り組みが始まっている。たとえば国際NGOプラン・インターナショナルは2020年から紛争があったティグライ地域などで、思春期の女性向けに「尊厳キット」と名付けた布製の生理用品やせっけん、下着類を提供。生理と健康についての研修を実施した。避難キャンプのトイレが安全な場所となるようにカギやドアなども改修。ミシンを提供して再利用可能な布製のナプキンを女性たちが自分で作れるようにした。

また、エチオピア出身で米国に住んでいた女性が、祖国の現状を知って何とかしたいと布製のナプキンやショーツの製造会社を起業した例もある。

「生理は女性の人権の根本にある」

今回のプロジェクトもそうした状況での試みだ。日本で吸水ショーツを製造・販売するスタートアップ、「Be-A Japan」(ベアジャパン、本社・渋谷区)と、エチオピアで子どものケアや女性の自立支援を担うNGO「セラム・チルドレンズビレッジ」(セラムとは、現地のアムハラ語で「平和」の意味)が、国連工業開発機関(UNIDO)などの支援を受けて始めるプロジェクトだ。

ベアは2020年に日本でいち早く吸水ショーツの製造販売をはじめ、これまでに累計15万枚を売り上げている。代表取締役の高橋くみさんは本業に加え、生理についての正しい知識を伝え、生理がタブーである社会を変えたいと中学校や高校、大学などでこれまで1千人近くに生理のセミナーを実施してきた。受講者は男女両方だ。「生理が快適になるショーツを作るということだけでなく、生理によって女性たちが不自由を感じない社会、生理だからといって何かを諦めない社会を本気で作りたい」

ベアの高橋くみさん(右)と、カセムさん(左)、モルゲータさん(中)。高橋さんの持つショーツの簡易版をエチオピアで作る予定だ=2024年1月30日、東京都渋谷区、秋山訓子撮影

エチオピアとのプロジェクトの話があった時も高橋さんは「生理の前に、まずは人権や貧困などの問題がある、ということも聞きました。でも生理は女性の人権の根本にある。生理のために学校や働きに行けないということであれば貧困にもつながる。誰かが生理の問題を言い始めなければ、目を向けなければいけない」と思い、快諾したという。

正しい知識、意識変革に期待

1月末にはセラム・チルドレンズビレッジから2人の男性スタッフ、ガバイエ・タショム・カセムさんとガザイ・アスフォ・モルゲータさんが来日して、プロジェクトの打ち合わせをした。打ち合わせの中には、高橋さんらの行うセミナーもあった。経血の量や生理痛、一生のうちにいつごろ生理が始まっていつごろ終わるのか、日本ではどのような生理用品が使われているのかといった生理にまつわる基礎知識について2人は耳を傾けた。

エチオピアのNGOリーダーのカセムさん(左端)とモルゲータさん(右端)を招いた、ベアの高橋さん(左から2番目)と中村千春さん(右から2番目)=2024年1月29日、東京都渋谷区、秋山訓子撮影

2人にセミナーの感想などについて聞くと「エチオピアでは生理について人前で話すことはなく、初めて知ることばかり。とても勉強になりました」と口をそろえた。

ただ、カセムさんは妻と生理については家庭内で率直に話し合っているのだという。「生理が来るとどんなふうにつらいとか、妻の話を聞きます。妻の生理痛がひどい時は、私が生理用品を買いに行ったこともあります。でもそれはとても勇気のいることだし、そういう男性はとても少ないと思います」と話す。

そして、「プロジェクトで女性たちは生理や健康についての正しい知識を学び、自分の体についての意識を変革できます」と期待感を語った。

モルゲータさんは「今回のセミナーで生理について学び、認識が変わりました。女性がいかにつらいかもわかったので、今度からは私も家族で話すようにしたい」と話した。生理用品が高価で入手しづらいことは、エチオピアでは深刻な問題だという。

「代わりにくず綿などを使っているようですが、これは体に良くないし、今回のプロジェクトで使い捨てでなく何度も使えるショーツを作ることで持続可能な取り組みになります」と話した。その上で、生理がタブーである文化をも変えたいという。「技術指導を受けた女性たちは起業することもできるし、人生の選択肢が広がると思います。何よりも彼女たちの困難を解決し、生理についての意識を変えることができます」と語った。

「見ざる聞かざる言わざる」を変えたい

高橋さんもエチオピアに行って技術を学ぶ女性たちと交流する予定だ。プロジェクトは今年3月に始まり、NGOの中で15歳から29歳の女性が半年、ショーツの製造技術を学ぶ。

「日本もエチオピアも、世界中で差はあれど、基本的には生理については見ざる聞かざる言わざるだと思います。ですが生理は女性の人権の根本に関わる現象で、エチオピアでの吸水ショーツの普及と共に、生理に対する知識が増え、偏見がない社会になっていくことを心から願っています。『生理がきても大丈夫』とエチオピアの女性たちが日々を過ごせるようになってくれたらと願っています」と、高橋さんは夢をふくらませている。