イスラエル軍とパレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスとの戦闘で、ガザでは死者が3万人を超えた。戦闘が始まってから3月7日で5カ月が経ち、ガザでは食料不足や感染症の蔓延(まんえん)など、深刻な状況が続いている。この人道危機に、日本や国際社会は何ができるのか。大学生らと国会議員、現地で活動するNGOが直接話し合うイベントが3月6日、東京・永田町で開かれた。 

3月6日夕、東京・永田町の衆院議員会館。

大学生ら約20人のZ世代が、国境なき医師団のメンバーや国会議員らの話に耳を傾けていた。

開かれていたのは、深刻化するガザでの人道危機に日本や国際社会がどう向き合うかについて考えるイベントだ。主催したのは、世界経済フォーラムの若年層コミュニティー「Global Shapers Community」の東京ハブのメンバーたち。Z世代が直接、NGOや国会議員と語り合う場を設けようと企画した。

「医師も殺されている」

イベントではまず、国境なき医師団日本の会長で医師の中嶋優子さんが現地で従事した医療活動について報告。「ガザの戦争では子どもたちが桁違いのレベルで亡くなっています」「派遣を終えて、メンタル的に(自分への)影響があるのは今までで初めて」。医療施設への攻撃についても、「桁違いに多い。国境なき医師団のクリニックも攻撃され、医師団の医師も殺されている」と訴えた。

国境なき医師団日本の中嶋優子会長(中央)=2024年3月6日、東京・永田町、筆者撮影

国境なき医師団日本の村田慎二郎事務局長は「国際人道法で順守されるべきことが、ことごとく無視され、無意味になっている」と述べ、一時的な休戦ではなく、「持続的な停戦」の必要性を強調した。

複数の職員がイスラエルへの奇襲に関与した疑惑が浮上し、日本を含む10カ国以上が資金拠出を停止した国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)をめぐっては、「ガザでの人道危機は最悪のレベルで、どのような追加の制裁もより多くの民間人の苦しみと死に直結する」と指摘した。

空爆を受けて倒壊した建物の跡で協力して片付ける付近の住民たち=2024年2月16日、パレスチナ自治区ガザ地区ラファ、朝日新聞社

停戦に向け、「世論形成を」

参加した国会議員の一人、自民党の石破茂元幹事長は、国会における即時停戦決議の必要性に言及した。「どっちがいいだの悪いだの言っても仕方がなくて、とにかく停戦というものを、少なくとも主権国家たる日本国の意思としてはっきり示すということが一番大事なことなんだろうと思っている」

イベントを主催し、司会を務めた早稲田大学法学部4年の茶山美鈴さんは、医師でもある自民党の国光文乃衆院議員に対し、「停戦に向けて交渉する中で、私たちにできることは何だと思うか?」とたずねた。

国光議員は、「やはり世論形成だと思う」と回答。政治家の行動や政策の意思決定に世論が影響を与えるとした上で、「皆さんにお願いしたいこと」として、こう訴えた。「この課題を忘れずに、色んなレイヤー(層)で発信する、意思決定に近い立場にコミットするということをぜひお願いしたい」。NGO・NPOの活動への参加やサークル活動、SNSなどでの発信を呼びかけた。

オンラインで参加した早稲田大法学部の古谷修一教授(国際法)は、2022年12月まで国連自由権規約委員会副委員長を務めるなど、国際人権法や国際人道法を専門とする。「国際人道法は、ルールはあるけれども、それをどう履行させるのかという措置については弱いものだと言われている。しかし、ルールがあるかないかは非常に重要なこと」と述べ、ルールがあるからこそ当事者を非難できる、と指摘。国際人道法を広め、普及していくことによって「世論が動く」とし、「この問題が国政の争点にならなければいけないんだろうと思う。日本が内向きで、日本のことだけ考えていればいいという状況ではなく、国際社会のなかで日本が何をするのかということを決定するのが国会議員であり、国会議員を動かしているのが国民だ」と若者たちに語りかけた。

会場からも様々な質問が飛んだ。将来、国連で働きたいという女性は、「国境なき医師団など、国際的な機関における日本のプレゼンスはどのようなものか?」などとたずねた。中嶋会長は「現地で医療活動をしていると、日本はすごく受け入れられている」と感じるといい、医師団の組織内でも「日本のプレゼンスは高いが、もっと上げる余地はある」と語った。

国会議員らに質問をする参加者たち=2024年3月6日、東京・永田町、筆者撮影

UNRWAへの資金拠出をめぐり、「日本が一日でも早く人道支援を再開したり、十分な支援をしたりすることが必要だと思うが、そういった決定を日本政府がするために議員として何ができるか?」との問いには、国光議員が「個人的にはすぐに再開したい」としつつも、「UNRWAのガバナンス強化の取り組みを待っている段階」と述べ、UNRWA以外の国際機関への支援をしている状況を説明した。

イベントの最後に、茶山さんはこう締めくくった。「大学生に限らず、若者全体で何ができるのか、世論を突き動かしていくにはどういうことができるのかということを考えて、これからも議論していくことが大事なのかなと思っています」