社会課題を動画で発信する「RICE MEDIA」とwith Planetがコラボ。ショート動画を4本、SNSで配信しました。RICE MEDIA代表の廣瀬智之さんが、インドネシアでの取材の裏話や思いをつづります。第4回はバリ島の「ろう者の村」についてです。

今回は、インドネシアのバリ島北部に位置するブンカラ村を取材した。この村への訪問を、準備段階からとても楽しみにしていた。

最近、「ダイバーシティー(多様性)」や「D&I(ダイバーシティー&インクルージョン〈包含〉)」という言葉をよく聞くようになった。私自身も関心があり、RICE MEDIAでもこれまでにいくつか動画を配信してきたテーマだ。今回の取材前、インドネシアについて情報収集をしていた時、「世界一ろう者の割合が高いといわれる村」があると知り、非常に関心を持った。特に、健聴者もろう者も別々ではなく、一緒に暮らしているという村の在り方に関心を持ち、現地に足を運ぶことにした。

これまで私も、学校や仕事場でろう者と関わったことがある。初めは積極的に関わろうとしてみるが、徐々に気軽にコミュニケーションが取れないことが障壁となり、会話の数が減ってしまったという経験があった。この村では、どのように健聴者とろう者がともに生きているのか、その実態を知りたくなった。

村人みんなが使える独自の手話

ブンカラ村はバリ島中心部から車で北に4時間ほど走った場所にある。ちなみにブンカラ村は、ろう者や手話を学ぶ人たちからは知られた場所のようだが、インドネシア人の間ではそこまで知られていないようで、連れて行ってくれたドライバーも初めて聞く場所だったようだ。

「世界一ろう者の割合が高い」といわれる村、ブンカラ村。ここでは約3千人の村人が暮らしているが、そのうち1.4%、42人がろう者だ。村人のほとんどが手話を使えるブンカラ村だが、そのかぎは「カタッコロ手話」という村独自の手話。一般的な手話よりも簡単な仕組みで、比較的覚えやすいのだという。

この日の手話通訳をしてくれた男性は学校の先生ということで、まずは学校を案内してくれた。教室では健聴者もろう者も一緒に授業を受けていた。授業の中でも手話通訳がつき、また生徒も手話を知っているようで、コミュニケーションに問題はないようだ。「それじゃあみんな手話だけで会話してみよう!」。先生がそう話すと、生徒みんなが次々と手話で話し始めた。音はしないが確かに盛り上がっているーー。そんな空間がとても新鮮に映った。

違いを超えて理解し合う

村人の家や仕事場にもお邪魔したが、どこにいってもみんな手話で、静かに盛り上がっている。「そろそろ次に行きたいんだけど」と声をかけなければ、ずっと手話で会話をし続けてしまうほど、みんな会話をするのが大好きなようだった。何を話しているかはわからなくとも、ろう者、健聴者にかかわらず、心が通っていることを感じさせた。違いを超えて自由に対話し、理解し合う。何だかひとつの理想の社会像を見ているような感覚だった。

ブンカラ村で見た多数派と少数派が分け隔てなくともに暮らす社会。日本で同じ状況を作り出すことは簡単ではないかもしれない。しかしブンカラ村のようにともに生きる社会を目指していきたいと強く感じた取材だった。