農村で「ぶつかり合う」国際協力の現場 伊能まゆさんが語るベトナム
「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト「地球で働く!」。第19回のゲストは、特定非営利活動法人「Seed to Table」の伊能まゆ代表です。

「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト「地球で働く!」。第19回のゲストは、特定非営利活動法人「Seed to Table」の伊能まゆ代表です。
グローバルヘルスやジェンダー問題、人権問題や食料不安。世界にも、日本にも、これらの課題を解決すべく活動している人がいます。NGOをはじめとする「現場で働く人」をゲストに迎えるポッドキャスト「地球で働く!」。第19回では、特定非営利活動法人「Seed to Table」の代表である伊能まゆさんに、NGO活動を通した国際協力や、自身のキャリアについてお話を伺いました。ポッドキャスト本編はApple Podcast、Spotifyで配信しています。
特定非営利活動法人「Seed to Table」は、ベトナムの農村で貧困に苦しむ人々に有機農業を教え、利益を生み出すノウハウを伝えるNGO。伊能まゆさんは、首都ハノイでの留学経験を経て2009年にSeed to Tableを設立し、以来代表として現地の人々と一緒に課題解決を進めてきました。
人口の約6割が農業に携わる農業国である一方で、都市部と農村部の経済格差が拡大しているといわれるベトナム。伊能さんはwith Planetへの寄稿でも、「近年の気候変動や世界経済の影響は、ベトナムの農村にも確実に及んでいる」と指摘しています。逆にいえば、Seed to Tableのベトナムの農村での活動を通して、地球規模で進む気候変動をはじめとする大きな変化をうかがい知ることができそうです。
収録には、ベトナム渡航を控えていた大学生の亀田青空さんが参加。ポッドキャストは2回に分けて配信しますが(後編は10月23日配信予定)、前編である今回は、ベトナムの社会文化の特徴や、日本との価値観の違いもお聞きしました。また、「地球で働く」という番組コンセプトに沿って、ベトナムでの国際協力や現地の人々との協力の難しさ、そしてその中での達成感や困難についても伺いました。
この記事では本編の一部を、読みやすいように編集してお届けします。
──ベトナム人と日本人ではやはり価値観が異なると思いますが、伊能さんご自身はどんな違いを感じますか?
ベトナム人は、概してとても楽観的で明るいですね。話していて朗らかな方が多く、一緒に働くのはとっても楽しいです。ただ、計画を立てることは苦手なようで、非常に急。私は1997年以来ベトナムに住んでいますが、来越当時、「明日結婚式をやる」という招待状が届くことも当たり前にありました。
国レベルでみると計画を立てるのが大好きなようで、かなり細かなプランがつくられています。ただ、いったん遂行されたら満足してしまい、継続していくことがあまり重要視されない印象です。行政機関の会議の日程もコロコロ変わるんですよ。
──そのベトナムで、もう何十年も活動を続けているわけですね。
国内のさまざまな地域の方々と関係性を築くには、まずその地域の文化や人の暮らしを理解することから始めます。そして、彼らの考え方を理解していくと、地域の課題もわかってきます。農業に従事する人たちが、何をどうしたいのかがわかってくる。そのうえで、私たちは有機農業をはじめとする農法などを提案します。提案しながら、一緒にやっていきましょうと呼びかけるのですが、その過程ではやはり「ぶつかり合い」がいっぱい出てきます。
──ぶつかり合い、ですか。
地域全体でやっていこうと言ったものの、自分だけは早くもうけたいという方もいますよね。あるいは、化学肥料を使わない有機農業をしようと決めたものの病害虫が出てくるからやっぱり使おうという話になってしまったり、有機野菜が高く売れるからといってそうでない他の野菜を混ぜて売ってしまう小売業者が出てきたり。
そんなことが日常的に起きるので、向き合いながらみんなで知恵を出し合って解決を見つけようとする毎日です。けんかして仲直りして、ぶつかり合いながら手を取り合って、手を取り合いながらひとつの問題を解決していくわけです。
──一朝一夕には進まないですよね。
最終的な目標は、「みんなで暮らしをよくしていく」こと。消費者によいものを届けていくことで、生産者の暮らしもよくしていくことです。つまりは、助け合いの輪を広げていくということ。
それらを目指していく過程では、人間の欲もぶつかり合います。やはりきれいごとでは済まないこともあります。現地の方に傷つけられ嫌なことをされることもあれば、同じベトナムの人たちがそれを一緒に解決してくれて、癒やしてくれて、手伝ってくれて、励ましてくれるのです。そうした一つひとつの絡み合いのなかで日常を過ごしている感じですね。
──国際協力の現場で働く方というと、さまざまな国で活動している方が多いように感じていました。一方で伊能さんはベトナムで活動し続けていて、温かみや丁寧さを感じます。
いや、腐れ縁ですよ。
とはいえ、常に人の顔を見て活動しているからこそ、相手をむげにできない、無責任なことはできないと感じます。そういう感情で、ここまで来たのではないでしょうか。
世界中どこにいても、解決しなければならない課題はあります。何なら東京のど真ん中に住んでいる人もさまざまな問題を抱えているわけで、解決策を一緒に考え、取り組む仕事は、どこにいたってできるのでしょう。
そのうえで、どこか特定の地域を訪れ、そこで暮らす人たちと何かに取り組むのは、そこに何かしらの縁があったということだと思います。そんなご縁に恵まれたことはとてもありがたいことだと思っています。(続きはPodcast本編で。Apple Podcast / Spotify)
伊能まゆさん
特定非営利活動法人Seed to Table代表。1997年にベトナム・ハノイに留学。日本のNGOに勤めた後、2009年にSeed to Tableを設立。ベトナム北部の山岳地域やメコンデルタで農家と共に在来種の保全、環境保全型農業の推進、農産物加工と市場開拓、子供たちへの環境教育などに取り組んでいる。気候変動の影響が農業、農村、農家に顕著にみられるようになり、悩める日々を送っている。