地球の課題にどう向き合う? 長谷川ミラさん、江守正多さんと語った
with Planetでは、モデルの長谷川ミラさん、気候科学者の江守正多さんをお迎えしてトークイベントを開きました。その様子をお届けします。

with Planetでは、モデルの長谷川ミラさん、気候科学者の江守正多さんをお迎えしてトークイベントを開きました。その様子をお届けします。
「地球規模の課題に対し、日本はどう向き合っている?」「わたしにできることは?」。そんな議題を語り合うため、with Planetは10月6日、読者を招いたトークイベントを実施した。ゲストに迎えたのはモデルの長谷川ミラさんと、気候科学者の江守正多さん。竹下由佳編集長も交え、地球の課題に対してわたしたちができる第一歩を探った。
記録的な猛暑、豪雨、土砂災害……。日本でも自然の脅威を近くに感じることが増え、気候変動に対する意識の変化が起きている。「日本人は気候変動への危機感が薄いといわれてきたが、最近の調査では不安を感じると答える人がほとんど」。東京大学未来ビジョン研究センターで教授を務める江守正多さんはこう明かした。
だが、日本ではその危機感が「政治的なアクションにつながらない」と江守さんは指摘した。例えば、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの抗議活動をきっかけに、世界各地に広がった気候変動マーチ。欧州では100万人規模のストライキに発展したが、「日本では集まっても数千人」。気候変動で土地を追われる「気候難民」が押し寄せない島国の日本では、その対策が選挙の争点にもなりにくいという。
江守さんはまた、こんな傾向も指摘した。2015年6月に実施された世界気候会議による社会調査では、「気候変動対策は生活の質を高めるもの」と答えた人が世界平均では66%だった一方、日本では6割が「生活の質を脅かす」と回答していたという。「自分の快適な生活を犠牲にして、何か地球にいいことをしなくちゃいけないというイメージがあるのかもしれない」と語った。
これに対し、司会を務めた中崎太郎編集長代理は「冷房は28度、買い物袋をもらってはいけないなど、快適な今の生活を犠牲にして地球にいいことをするイメージが強いのでは」とコメントした。
一方で、明るい兆しも見えている。「地球の健康と人間の健康をセットで考えるプラネタリーヘルスという概念が、新たな潮流になっている」と竹下由佳編集長。米スタンフォード大学では2022年9月、70年ぶりに新たな大学院スクール・オブ・サステイナビリティーが誕生。「プラネタリーヘルスへの貢献」を掲げる長崎大学も同年10月、新たな大学院課程としてプラネタリーヘルス学環を開設した。
「新型コロナウイルスの世界的な流行を経験した私たちは、アフリカや東南アジアといった途上国の保健医療体制を整え、未知の感染症の発生を防ぐことが自分たちの健康に直結することを身をもって感じた世代。だからこそ、地球規模の課題を身近な課題として考えられるのではないか」(竹下編集長)
ただ、大学での講義の経験などから、日本が途上国を支援することに疑問を持つ若者も少なくないとも明かす。これに対し長谷川ミラさんは、「(経済的に)苦しい状況にある若者からすれば当然だと思う。国内にこうした若者がいる事実も忘れてはいけない」と応じた。
テレビ番組や雑誌、ラジオやポッドキャストなどのメディアで社会問題について自らの言葉で発信する長谷川さん。Z世代を起点に多様な世代が安心して語り合えるコミュニティーカフェ「UM cafe」を運営する社長としての顔も持つ。
カフェの原点は、ファッションを学ぶために留学した約8年前の英国での経験にある。欧州連合(EU)離脱問題に揺れていた当時、カップルがカフェで意見を交わす姿を目にした。日本ではほとんど見られない、公の場で堂々と議論する光景に驚いた、という。
大学の授業ではさまざまなルーツを持つ学生らとジェンダーや人種差別、移民問題について話し合った。自国が抱える問題にすら気付けなかったという当時の長谷川さんはこのとき、社会課題を理解して意見を発信することの大切さを痛感した。そんな折に出合ったのが、ファッション業界の裏側にある途上国の過剰な労働を告発したドキュメンタリー映画「ザ・トゥルー・コスト」。価値観が大きく変わった。
こうした経験から長谷川さんは、地球の課題を自分ごとに捉えるために必要なことについて、こう語る。
「まずは課題について知ることが大切。それが次のアクションにつながる。誰もがその分野の専門家になって発信する必要はなく、すでに行動している人の発信に『いいね!』をしたり、コメントをしたりして応援するだけで大きな一歩」
その点に「共感する」と語ったのは、江守さん。「気候変動の解説のおじさん」と自ら名乗り、気候変動に関する話題をわかりやすくX(旧ツイッター)で発信する江守さんは今年8月、国連が発表した「気候変動を解決するための10の行動」についての考えを投稿。温暖化を止めるために最も重要な項目は「10、声を上げる」であり、具体的な行動として、関連するアカウントをフォローする、リポストする、署名やクラウドファンディングの案内がきたら協力するなどの例を挙げていた。
「フォローをきっかけに、今まで気づかなかった情報が手に入る。ウェビナーに参加し、新しい仲間に出会う。そうなると、この問題と自分が徐々に抜き差しならない関係になっていく。この状態をある人は『沼にハマっていく』と表現していた」(江守さん)
江守さんはまた、声を上げるための第一歩は、現状を理解することだ、とXで投稿していた。気候変動を止めるには社会全体のシステムを脱炭素化する必要があるが、取り組みが十分に加速していない、という。「気候変動問題に今はピンとこない人だってもちろんいる。だが自分の関心のある問題を突き詰めているうちに、関連が見つかることも。(フォローするなどして)問題の入り口に立ってみてほしい」
声を上げることで、政治が動き、世界を変えられる。2人はこの点でも同調した。
「(温暖化が進み、後戻りできない地球になるまでの)タイムリミットが迫っている。政治でより大きな力を変えないと」。長谷川さんは、米国に住む友人が発したこの言葉が強く印象に残っているという。
江守さんによると、市民の声が政策に反映された例が日本にもある。2022年6月に改正された建築物省エネ法がその一つ。一時は国会への提出すら危ぶまれたが、法案の審議を望む1万5千を超える署名が力となり、成立した。江守さんは「市民が声を上げることで世界が変わった成功事例を積み重ね、自分が関心を持てば世界が変わると思える人が増えてほしい」と話した。
その意味で、無作為で選ばれた市民が気候変動対策を話し合う「気候市民会議」の取り組みは注目に値する。欧州が発祥とされ、フランスでは市民の意見が具体的に新法に生かされた例もある。日本でも札幌市と川崎市が初めて実施した2020年以降、各地の自治体が開催した。「この取り組みを国の政策に生かせるかが次の課題だ」と江守さんは見据える。
声を上げると大きな影響がある半面、誹謗(ひぼう)中傷を受けるおそれもある。竹下編集長は「学生たちには『政治に参加しよう』『発信しよう』と声をかけるが、あとのことまで責任がもてるのか、考えてしまう」と打ち明ける。
これに対し、「炎上は、多くの人にこの課題を考えるきっかけを作れたものと捉えている」と長谷川さん。意見が異なる人とも歩み寄り、世界を変えることが重要とした上で、「発信しなくても、『いいね!』やリポストでいい。できる人は推し活感覚で政治家の応援アカウントを作ってもいい。できる範囲でやることが大切」と背中を押した。
大きくうなずいた竹下編集長。with Planetが2023年2月にオープンして1年8カ月、「ただニュースを伝えるだけではなく、答えのない課題に向き合うために読者とともに考える場をつくっていく」と今後の決意をにじませた。