NTDsが「常識」になるように 学生たちから生まれた発想と実践
「顧みられない熱帯病(NTDs)」への若い世代の関心を高めようと、今年も生徒・学生を対象としたコンテストが開催されました。受賞者たちは何を語った?

「顧みられない熱帯病(NTDs)」への若い世代の関心を高めようと、今年も生徒・学生を対象としたコンテストが開催されました。受賞者たちは何を語った?
熱帯・亜熱帯の途上国を中心に蔓延(まんえん)する「顧みられない熱帯病(NTDs)」への関心を高めようと、「顧みられない熱帯病コンテスト」(世界NTDの日2025・日本実行委員会主催)が今年も開催された。昨年に続き、対象は日本に暮らす生徒・学生で、若い世代にNTDsを知ってもらい、課題解決につなげるための自由な発想や提案、取り組みが紹介された。
第2回「顧みられない熱帯病コンテスト」は1月11日、都内で最終審査会が開かれた。コンテストは二つの部門があり、「わかりやすく伝える部門」には中学~大学の6チームが参加した。この部門では、最大3分間の自由な形式の動画の提出が求められており、SNS上での再生数や「いいね」数なども含めて審査された。
もう一つの「日本ができることを考える部門」では、日本の人たちがNTDsに貢献する意義や具体的な解決法などについて2千字以内でまとめて提出することが求められており、最終審査会には中学~大学院の6チームが参加した。
世界保健機関(WHO)が定義した「世界NTDの日」となる1月30日、コンテストの主催者が開いたウェビナーで表彰式があった。表彰式に先立ち、NTDsのワクチンや治療薬の開発を促進するグローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)の國井修CEOはこうメッセージを寄せた。
「NTDsは、世界で10億人以上の人々を苦しめていますが、その名の通り十分に注目されることもありません。しかし近年の地球温暖化で、熱帯病は先進国でもめずらしくないものになりつつあります。他人事ではありません」「だからこそ、私たちはこの課題に光を当て、自分事として分野や世代を超えて力を合わせる必要があります」「知ることは変化の始まり。次のステップである行動に移すことがNTDsの克服に向けたカギになります」
コンテストの表彰式では、受賞者たちがスピーチをした。
GHIT賞を受けた高校生の中村恵菜さんは「わかりやすく伝える部門」に同級生2人とともにチームで応募した。最終審査会では、応募したきっかけについて、新型コロナウイルスの感染拡大によって様々な行事の中止を経験した「コロナ世代」であり、コロナによって身近なテーマとなった「感染症」に関することで社会貢献をしたいという思いがあった、とチームで語っていた。
「このコンテストを通して、NTDsは決して看過することのできない、深刻な社会課題であると実感しました。世界中の多くの人が病に苦しみ、貧困への負のスパイラルに陥ることを強いられており、そのことが日本を含む先進国ではほとんど知られていない、顧みられていない現状に強い危機感を抱くようになりました」「私たちのようにNTDsに少しでも関心を持った人が、どんなに小さなことでも、自分にできるアクションを起こすことが諸問題の解決につながると信じています」
日本製薬工業協会賞を受けたのは、中学生の遠藤最さん。「わかりやすく伝える部門」に応募し、NTDsに含まれる疾患の名前とその特徴を歌詞にしてミュージックビデオのような動画を制作した。ユニークで斬新な発想による表現方法が評価された。
遠藤さんは表彰式で、「NTDsについて調べたら、知らない病気ばかりで驚きました。インターネットで検索して、患者さんのショッキングな画像を見てとても怖くなった病気もありました。日本では簡単に手に入る薬で治る病気で困っている人がたくさんいることを知り、私が健康でいられることは当たり前ではないと思いました。私の動画で少しでも興味を持ってくれる人が増えてくれたらいいなと思います」とのコメントを寄せた。
「わかりやすく伝える部門」で最優秀賞を受けた高校生の速水優惺さんは、同級生2人とチームで応募し、「NTDsー君は『常識』か?」というテーマでクイズ形式の寸劇を盛り込んだ動画を制作した。速水さんは表彰式で、「NTDsはどこか遠い国の話だと心の中で思っていました。しかし調べていくうちに日本では撲滅した住血吸虫症が、もしかしたら再び流行するかも知れないということも知り、全く人ごとではないと気付かされました。私たちの動画を通して、NTDsが『常識』になることを期待しています」と語った。
「日本ができることを考える部門」の最優秀賞は、鳥取大学熱帯医学研究会が受けた。メンバーは住血吸虫症について学び、フィリピン・ミンダナオ島の流行地を実際に訪れたという。裸足で農作業をする住民や野外で排泄(はいせつ)をする子どもたちを目の当たりにし、小学校での感染予防の啓発やトイレの設置など、自分たちにできることを考えたと発表した。
吉川侑也さんは表彰式で「設立してまだ5年で、その間に新型コロナのパンデミックがあり、ようやく海外に行くことができました。みんなで自分たちに何ができるかを話し合いながら活動を進め、ようやく実行に移せるようになり、こうして評価をしていただきうれしく思っています」と語った。