「顧みられない人々」を真ん中に考えよう 2025年に取り組むこと
2025年、世界は、私たちは、どこに向かい、何に取り組むべきなのか。with Planetの竹下由佳編集長がつづります。

2025年、世界は、私たちは、どこに向かい、何に取り組むべきなのか。with Planetの竹下由佳編集長がつづります。
世界の保健医療分野の課題に向き合う「グローバルヘルス」や低中所得国の開発課題を伝えてきた「with Planet」。紛争、気候変動、感染症、災害、差別.....。世界は多くの課題を抱えたまま2025年を迎えました。私たちが今年、何を見据え、何に取り組むのか、竹下由佳編集長から伝えます。
2024年、with Planetでは120本以上の記事を配信しました。その一つが様々な課題を抱える海外の現場を直接取材し、報じるルポです。
たとえば、日本から1万キロ以上離れたアフリカ・ウガンダで生きる若者たちに密着したもの。14年にわたって取材を続ける、写真家の渋谷敦志さんが伝えてくれました。
病気や災害などで親を亡くした子どもたちは、あっという間に「貧困の沼」に沈んでしまいます。ウガンダでは長年、3大感染症の一つであるエイズが広がり、2023年も2万人が命を落としています。エイズで親を失った「エイズ遺児」の子どもたちに学びの場を提供し続けていたのは、日本の支援団体でした。
渋谷さんは、この教育支援を受けていた当時7歳の女の子に再会します。21歳になったドーリーンさんは、イギリスの大学への留学が決まっていました。実現できた背景には、支援団体のほか、教育費の負担を減らす奨学金や大学による学生支援制度の存在があったといいます。もちろん本人の努力がありますが、渋谷さんはこう指摘しています。「貧しい家庭の子どもたちは多くの場合、本人の力だけでは圧倒的な社会的不利を変えられない」
貧しい家庭の子どもたちをとりまく環境はもちろん、世界には、紛争、気候変動、感染症、災害、差別など、生まれた環境や状況によって「圧倒的な社会的不利」を生み出す問題であふれています。そのなかでも、国際社会の関心が高く注目される問題と、そうではない問題があります。
with Planetは2025年も、こうした「顧みられない問題」に目を向け、報じ続けたいと思っています。ウガンダのドーリーンさんが、周囲の支えを力に道を切り開いたように、食料や教育、医療、テクノロジーなどを届けることで「圧倒的な社会的不利」を覆し、救える命を救い、状況を少しでもよくする取り組みを応援します。
2025年は、「顧みられない問題」について、より力を入れて報じ続けなければならないという危機感を抱いています。
理由の一つは、1月20日に米大統領に就任するドナルド・トランプ氏の動向です。「自国第一主義」を掲げるトランプ氏の再登板は、多国間協調や国際協力への大きな影響が予想されています。特に、世界の多くの人々の命に関わるグローバルヘルス分野への影響を懸念しています。
ワクチン懐疑派として知られるロバート・ケネディ・ジュニア氏を保健福祉省(HHS)の長官に指名したほか、英紙フィナンシャル・タイムズは先月22日、新政権発足の初日に世界保健機関(WHO)からの脱退を表明する可能性について報じました。
トランプ氏は1次政権でもWHOからの脱退を国連に通知しましたが、その後の大統領選で勝利したジョー・バイデン氏が撤回しました。アメリカは世界第1位の拠出国で、もし脱退が現実のものとなれば、保健医療分野の課題解決に中心的な役割を果たすWHOが、様々な緊急事態への対応に苦慮することになるのではないかと危惧されています。
新型コロナのように、ひとたびパンデミックが起きれば、世界中の誰もが影響を受けます。だからこそ、日頃から世界の人々が健康でいられるよう、すべての国がグローバルヘルスの課題に取り組むことが重要ではないでしょうか。世界の大国であるアメリカが目を背けてしまうかもしれないグローバルヘルスの課題について、日本からその重要性を発信することがますます求められると感じています。
つい1カ月ほど前、アフリカ中部にあるコンゴ民主共和国で「原因不明の病気が流行した」と報じられました。その後、一部の患者はマラリアに感染していたことが判明していますが、さらなる原因特定に向けた調査が進んでいます。
ちょうどその頃、東京・永田町の国会内で開かれた顧みられない熱帯病(NTDs)の根絶を目指す議員連盟の会合を取材しました。
NTDsとは、デング熱や狂犬病、リンパ系フィラリア症など、主に熱帯地域の貧困層を中心に流行する病気の総称で、経済的な見返りがないことなどから薬の開発が進みにくく、「顧みられない熱帯病」と呼ばれています。
山際大志郎・会長代行(自民党)は会合の冒頭、コンゴ民主共和国で広がった原因不明の病気について触れ、「一気に人が亡くなるような病気の場合はニュースになる。でも、実はNTDsで亡くなられる方というのはもっと数が多いはず」と指摘。そのうえで、「顧みられないからといって、社会に対してのマイナスのインパクトが少ないわけではない」「日本として何ができるかということについて、もっと議員の関心を引かなくてはいけない」と語っていました。
ニュースとして多くのメディアで報じられず、文字どおり「顧みられない」病気。WHOの「顧みられない熱帯病に関する世界報告書2024」によれば、世界で16億2千万人がNTDsに対する介入を必要としています(2022年)。with Planetではこれからも、顧みられない病気に苦しむ人々の実情や、NTDsに挑む人々について報じていきます。
グローバル化の恩恵を受けられずに取り残された国や地域などを指す「グローバルサウス」。アフリカや中南米など、南半球を中心とした途上国や新興国が多く含まれます。2025年は日本にとって、これまで以上にグローバルサウスの国々との連携が重要となる一年になるのではないでしょうか。
今年8月、第9回となるアフリカ開発会議(TICAD9)が横浜で開かれます。TICAD1が開かれたのは1993年。アフリカの開発について考え、日本とアフリカ諸国がともに行動するための場として30年以上続いてきました。
この30年で、日本の人口は1億2808万人(2008年)をピークに減少を続けましたが、アフリカでは人口が増え続け、2050年には約24億6600万人を超えると予測されています。さらに、アフリカは、人口の60%以上が25歳以下ともされる「若い大陸」です。アフリカ諸国とともに、互いが抱える課題を補い合うような関係を築いてほしいと期待しています。with Planetでは、この30年で急速に変化するアフリカの姿を、日本との関わりを通じて伝えていきたいと思っています。
先月中旬、with Planetは「“見えない地球課題”について考える」と題したイベントを開催しました。作家の角田光代さんといとうせいこうさんに登壇いただき、ミャンマー西部ラカイン州に多く住む無国籍の少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の人々について話し合いました。
ロヒンギャは、ミャンマー国軍による武力弾圧を逃れ、バングラデシュに100万人以上が流入。「世界最大の難民キャンプ」とも言われるバングラデシュ南東部コックスバザールにある難民キャンプをそれぞれ訪問した角田さんといとうさんは、子どもたちは十分な教育を受けられず、感染症の蔓延(まんえん)や恐喝、武装勢力からの勧誘が横行していることなど、その実情を語ってくれました。
なかなか報道されず、世界から「忘れられた人々」とも言えるロヒンギャ。国籍もなく、ミャンマーに戻っても、安全に暮らせる見通しは立ちません。ミャンマーの全権を握る国軍と武装勢力が激しい内戦を続ける中、国軍は2025年に総選挙を実施しようとしています。
国軍主導の総選挙には「見せかけ」との批判がある中、ミャンマーがどのような道を進んでいくのか。with Planetでも注目をしていきます。
顧みられない問題、見えない地球課題、忘れられた人々。いかに可視化し、多くの人の関心を集めることができるのか。簡単なことではありませんが、取り組み続けます。現場に足を運び、話を聞き、その声を伝えること。ニュースになりにくい問題や背景に目を向け、報じること。人数や金額といった「数字」の大きさではなく、その先にいる一人ひとりに向き合うこと。正解はありません。だからこそ、悩みながらも歩みを止めず、試行錯誤しながら、地道に進んでいきたいと思います。2025年もどうぞよろしくお願いします。