いつ起こるか分からない災害。それに対応するための国際機関が、日本のNPOの呼びかけで2012年に発足しました。日本、インドネシア、韓国、スリランカ、バングラデシュ、フィリピンの6カ国が協力して災害対応について学びあい、連携する国際機関、アジアパシフィックアライアンス(A―PAD)。各国は災害対応やその備えに協力を続けています。A―PADのメンバーでもあるスリランカでは近年、洪水や地滑りが多発しています。子どもや学生に焦点を当てた取り組みの現場を取材しました。

災害対応を学び合う多国間枠組み

アジアパシフィックアライアンス(A―PAD)は、日本、インドネシア、韓国、スリランカ、バングラデシュ、フィリピンの6カ国が協力して災害対応について学びあい、連携する国際機関だ。日本のNPOが各国に呼びかけて2012年に発足し、日本政府も毎年1.5億~4億円を拠出している。

各国のA―PADは政府とNPO、企業をつなぎ、一緒になって災害対応や準備にあたるための調整役を果たしている。未曽有の災害が起きれば、国境を越えて助け合うために救援に赴くこともある。

子どもたちを対象にしたプログラム

スリランカでは近年、気候変動の影響とみられる洪水や地滑りが多発しているが、そこで多くの被害を受けるのが子どもたちだ。A―PADスリランカは子どもや学生に焦点をあてた災害対応や備え、意識醸成の活動をしている。

スリランカの中央部に位置する高原地帯のヌワラエリヤ。標高は1800メートルを超え、熱帯に属する同国の中でも涼しい気候だ。世界有数の紅茶の産地として知られ、山を切り開いた斜面に茶畑が一面に広がり、製茶工場も点在している。紅茶は同国の主要産業だ。日本で量販されているペットボトル入りの紅茶も、スリランカ原産のものがある。

ここヌワラエリヤでも豪雨が頻発している。特に季節風の時期である56月には豪雨で家から出られなかったり、地滑りが発生したりするという。

シャンティプルスクールの教室で学ぶ上級生たち=2025年2月、スリランカ・ヌワラエリヤ、筆者撮影

2月初め、A―PADスリランカのメンバーが6歳から16歳の子どもたち154人が通う学校、シャンティプルスクールを訪れた。スポーツウォッチ、バドミントンやクリケットなどのスポーツ用品と、ちょっとしたけがなどの応急手当てをするための救急箱を寄付するためだ。これらの品を購入した原資は日本政府からの資金のため、パッケージには日本の国旗と「From the People of Japan」の文字が。制服を着た子どもたちが出迎え、贈呈式が行われた。

シャンティプルスクールの校長(右端)と教師たち=2025年2月、スリランカ・ヌワラエリヤ、筆者撮影

この学校で教えて30年以上だという校長のニーラマン・カルナラットゥヌさん(51)は、「本当にありがたい」と喜ぶ。「最近は雨が多くて、子どもたちは家に閉じ込められてしまうことも多い。このスポーツ用品があれば、晴れた日には子どもたちが体を思う存分に動かして練習し、地域の学校対抗の大会にも出られる。ずっと出たかったんですが、スポーツ用品がないために練習もできなかった」

救急箱も本当に役立つのだという。「このあたりの病院はとても遠いし、親には子どもを病院に通わせる経済的余裕もない。家にも救急箱はなく、少しのけがが悪化して深刻な状況になってしまうこともあるんです。日本には本当に心から感謝しています」

豪雨で登校できないときに使う、自宅用の学習教材も

A―PADスリランカの代表、フィルザン・ハシムさんは「災害が起きて、一番被害を受けやすいのは子どもたち。そこで、私たちの活動の中心の一つが、子どもや学生に焦点をあてること。彼らを支援し、災害に備える意識も持ってほしいと思っています」と話す。

続いて訪れたのは、茶園の中にある学校、オリファント・エステート・スクール。このあたりの茶園は巨大で、茶園の中に多くの人が住み、学校も備えている。6歳から10歳までの子どもたち120人が通う。ここにもスポーツ用品と救急箱を寄贈。子どもたちの自宅用学習教材を贈ったこともあるという。「豪雨で学校に来られないこともあるので、家での勉強が非常に重要ですから」とハシムさん。

オリファント・エステート・スクールで、さまざまな衣装の子どもたち=2025年2月、スリランカ・ヌワラエリヤ、筆者撮影

学校では仏教やイスラム教、ヒンドゥー教にキリスト教とさまざまな宗教を表す服装をした子どもたちが出迎えてくれた。ちょうど翌日がスリランカの独立記念日だったため、それを祝う行事があり、さまざまな宗教を信仰する人が共生していることを表したのだという。

この学校出身で、半年前に英語教師として赴任したというディルシ・クマラーベルさん(23)は、「ここの学校に通う子どもたちは本当に本当に貧しい。こういうスポーツ用品で遊んだこともありません。子どもたちにとっては初めての大切な経験となります」。

保育園を襲った2メートル以上の洪水

最大都市コロンボのコロナワ地区では、2016年、2017年、2024年と豪雨による洪水と地滑りが起きた。約50人の子どもたちが通うリトルローズ保育園は2017年の洪水後、場所を移転して、園長の自宅と寺で運営を続けている。園長の自宅に入るには、子どもたちの身長よりも高い1メートルほどの階段を上がらなければならない。「2018年に、ここに家を新築したんですが、あまりに洪水が多いので床を高くしたんです」と、園長のシャリカ・ペレーラさん(45)。

リトルローズ保育園ではちょうど誕生会が開かれていた=2025年1月、スリランカ・コロンボ、筆者撮影

「2016年の洪水の時は7フィート(約2.1メートル)まで水が来ました。園は何もかもが水につかってしまって、子どもたちの絵本も、遊具も、イスもすべて使えなくなってしまった。でも、A―PADのボランティアの人たちが来てくれて、掃除をして、絵本や遊具も寄付してくれた。子どもたちの家庭も大きな被害をうけて、園の制服やカバン、靴や靴下も使えなくなってしまった家族が多かったんですが、それらも寄付してくれました」と涙ぐみながら話した。

学生との共同プロジェクトも

A―PADは、コロンボ大学と提携して、2023年から大学生が災害をテーマに描いた絵の展覧会のプロジェクトも行っている。プロジェクトの運営にも多くの学生が携わっている。

中心となっている国際関係学科長のチャミンダ・パドマクマラ教授は「参加した学生は、災害の恐ろしさや備えの大切さといった実践的な知識を得るほかに、プロジェクトの運営を通じて、チームビルディングを学び、自信をつけていくのです。多くのことを身につけられる学生支援ともいえます」。

ヨハン・ソイザさん(右)とA―PADスリランカのスタッフ=ソイザさん提供

現在、同学科4年のヨハン・ソイザさん(25)は2023年からプロジェクトに参加している。2024年の展覧会のテーマは「津波から20年後の回復と再生」だった。スリランカは2004年にスマトラ沖大地震・インド洋津波で、35千人を超える死者が出るなど大きな被害を受けた。ソイザさんは、津波に襲われた都市のパステル画を描いた。

「スリランカの人々が自然災害について認識したのはあの津波がきっかけであり、いかに日本の人々が津波や自然災害に対処してきたのかを学びました。日本がスリランカの復興に多く支援してくれたのを感謝しています」

ヨハン・ソイザさんが出品した絵=A―PADスリランカ提供

ソイザさんは、プロジェクトの運営から多くを学んだという。「展覧会は、学校の休みの期間中だったので、多くの学生が帰省していました。運営チームの後輩と共に参加を呼びかけて、作品を募るためにワークショップも開催しました。多くの人に見に来てもらいたかったので、広報にも力を入れました。大変でしたが、チームで働くのはとても楽しかったし、やりがいがありました。人に動いてもらうには、まず相手の意見を聞くことが大事だということもわかりました。将来、リーダーになるために必要な多くのことを得たので、今年のプロジェクトにも参加しようと思っています」

政府にも政策提言、成果も

A―PADスリランカは政策提言も行う。子どもたちに関連する政策提言で実現したものがある。

スリランカでは小中高生が受ける、入試などに相当する全国的な試験が三つある。2018年と2020年には自然災害でそれらの試験を受けられなかった子どもたちが出た。そこでA―PADスリランカは政府に働きかけ、災害の場合には、あらかじめ決められた試験場ではなく、最寄りの試験場でも受験できるようになった。

「今は、災害時に選挙があったら、投票時間を延ばすようはたらきかけています」とハシムさんは語る。