フィリピン産「もったいないバナナ」 規格外産品を廃棄から救え
傷があったり、小ぶりだったり。十分食べられるのに規格外とされたバナナが産地フィリピンで大量に捨てられています。その背景を知るために、ミンダナオ島を訪れました。

傷があったり、小ぶりだったり。十分食べられるのに規格外とされたバナナが産地フィリピンで大量に捨てられています。その背景を知るために、ミンダナオ島を訪れました。
バナナは、日本人に一番人気の果物だ。手を汚さずにすぐ食べられ、朝食やおやつに重宝する。スーパーに入れば、南国を思わせるツヤツヤの鮮やかな黄色がいつも目に入ってくる。品切れを目にすることはほぼない。しかし、日本から遠く離れた産地では、おいしく食べられるバナナが大量に廃棄されている。その背景を知るため、10月下旬、赤道に近いフィリピンのミンダナオ島を訪れた。
まだ青いバナナが廃棄向けの袋に詰まっている。果肉に達するような深い傷があるものは仕方ないが、果皮に少し傷があるだけだったり、小ぶりだったりするだけで、ツルツルのきれいなものも交じる。「あれほど手をかけているのに……」とため息が出る。
日本から南西に約3500キロ。フィリピン南部ミンダナオ島は、日本向けバナナの一大産地だ。フルーツ生産販売大手ドールのパッキング場で、現地スタッフが手際よくバナナの房を切り分け、袋詰めしていた。その過程で、「規格外」はコンベヤーに載せられていく。多くは畑で埋め立て廃棄されるという。
日本のドール生鮮第一本部バナナ部の馬場祐介さん(39)によれば、同社の扱うバナナの9割以上がフィリピン産で、年約20万トンを日本に輸入している。一方、おいしく食べられるにもかかわらず、皮に傷や汚れがあったり、大きすぎたり小さすぎたり、売れやすい4~6本にそろえた後に生じる「端数」であることなどを理由に、現地で廃棄されるバナナは約2万トンにのぼるという。
日本バナナ輸入組合によると、バナナは日本人がよく食べる果物のトップを20年連続でキープしている。だが、それほど身近でありながら、ほぼ100%が海外産ということもあり、栽培の過程をイメージしづらい作物だ。
高温多湿の熱帯気候の島で、放っておけばすくすく育つほど甘くない。
バナナは種を植えるのではなく、健康な株から育てる。菌や病気から守るため、厳重に管理された同社の培養研究施設で手作業で株分けされ、最初は密閉容器に入れられる。苗は大きさごとにグループ分けする。畑に植えたときに同じ成長ペースになるよう考慮するためだ。
日光の当たり方をネットで調整しながら屋外環境に慣れさせ、いよいよ畑に出発。ここまでで約40週間。施設スタッフのシェリル・ガドールさん(43)は「お母さんのおなかに赤ちゃんがいるくらいの間、大切に育てています」と話す。
畑でも重労働がある。日照を考えて等間隔で植え付ける。高いものは4メートルほどになるため、倒れないようロープなどで補強。虫よけの袋をかけたり、バナナ同士がぶつかって傷がつかないよう、早い段階から保護カバーもかぶせたりする。高所の作業が多いので、はしごが必需品だ。
植え付けから約40週間後、ようやく収穫。ナイフを使って房ごとに丁寧に切り取り、トレーに載せていく。トレーにも保護シートがある。
選別とパッキングを経て、週4回、専用船で日本へ向かう。
「プランテーションビジネスというと大規模で効率的な生産オペレーションを想像するかも知れませんが、バナナは独特の形状をしていて、生産過程で傷つきやすい。市場が求める品質基準を満たすため、ほとんど手作業になります」と馬場さん。
青いバナナは日本に着いた後、「追熟(ついじゅく)加工」を経る。追熟は、室(むろ)と呼ばれる温度や湿度を調整できる特殊な部屋で、バナナを熟成させる工程。バナナを入れて3日目の室に入ると、特有の甘い香りが漂っていた。長い月日を経て、店頭に並ぶ日がようやく訪れるわけだ。
丹念に育てたバナナの廃棄をなくすため、ドールは現地の「規格外」を減らす取り組みに着手している。その一つが、「もったいないバナナ」と銘打って流通させる試みだ。
「規格外」の流通は日本で長く続いた商習慣への挑戦ともなる。馬場さんは「フィリピンでスタッフ一丸となって育てるバナナを、少しでも『見た目』にとらわれず消費していただけるような文化や習慣が日本に根付いてくれるとうれしい。皮に傷があったり、見慣れないサイズだったりするかもしれませんが、中身は普段食べるものと変わらない、おいしいバナナです」と話す。
加工に回るものも含めて、「もったいないバナナ」の昨年度の実績は900トン。2万トンにはまだほど遠いが、ドールは数年かけて、5千トンまで増やしたい考えだ。
日本バナナ輸入組合によると、バナナの輸入が自由化された翌年、1964年の1キロ当たりの小売価格は228円だった。2023年は314円で「価格の優等生」ぶりがうかがえる。この間、国産リンゴは111円から706円に、国産みかんは159円から797円に値上がりしているという。
フィリピン政府は2022年6月、日本の小売業界に対し、バナナの値上げを求めた。物価上昇や輸送費の高騰でコストが増えているのに小売価格が長年据え置かれ、産業が維持できなくなる恐れがあるという理由だった。