若者版TICADを開催へ 「30年後」に思いはせ:アフリカと私
第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を前に、アフリカ大陸に情熱を傾ける人たちに思いをつづっていただきます。第4回は若者からの政策提言に取り組む齋藤杏実さんです。

第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を前に、アフリカ大陸に情熱を傾ける人たちに思いをつづっていただきます。第4回は若者からの政策提言に取り組む齋藤杏実さんです。
今年8月、アフリカの開発課題をテーマにした国際会議「第9回アフリカ開発会議」(TICAD9)が横浜で開かれます。冷戦終結後、アフリカに関する関心が薄れつつある中、日本政府の主導で1993年に始まったTICADは、日本とアフリカ諸国がともに行動する場として、30年以上たった今も続いています。地理的、歴史的、文化的には決して近いとは言えないアフリカですが、かの地に魅入られ、起業や支援、交流などの活動を重ねている人たちは確実に増えています。世代を超えた交流や協働を進める企業「GENERYS」の分科会の一つ、アフリカワーキンググループ(AWG)は、こうした人たちのネットワーキングの場となっています。TICAD9に向け、AWGの参加メンバーに「アフリカと私」というテーマでアフリカとの関わりや寄せる思い、将来の夢などを書いていただきます。第4回は、一般社団法人Africa Asia Youth Nestを立ち上げ、若者からの政策提言に取り組む齋藤杏実さんです。
1993年、「TICAD1」が開催された年に生まれた私は、仙台市で育ち、アフリカとは無縁な人生を過ごしていました。しかし17歳の時、私にとってアフリカは突如無視できない存在になりました。
きっかけは、母に勧められた「職業は武装解除」(2011年、朝日新聞出版)を読んだことでした。本の内容は「武装解除人」である瀬谷ルミ子さんの自伝であり、ルワンダ、シエラレオネ、ソマリアといったアフリカの紛争地域に赴いて活動する中で、日本人の女性であることが現地の当事者にとって敵意を与えない有利なポジションであることが書かれていました。
日本人女性という自分と同じ属性を持って、これほどまでに強く、かつポジティブに闘っている彼女に完全に感化され、彼女のような人になりたいと強く思いました。そして、心理的にも距離的にも遠いアフリカの問題が、急に「私にも何かできるかもしれない」という身近な問題に変わりました。
私が大学1年生だった2013年、「TICAD5」が横浜市で開催されました。
当時、ソーシャルネットワークサービスが身近になり始め、大学を超えて同じ興味を持つ友人と簡単に出会えるようになった環境の中で、アフリカへの情熱を燃やし続けていた私は、TICAD5に参加できる大きなプロジェクトに出会いました。それは、TICAD5に向けた提言書を若者を中心に作成するプロジェクトでした。
主導していたのは大学生で、驚くほどのスピード感でアフリカと日本の多くの学生を巻き込んでいました。私は喜んでプロジェクトに加わり、活動しました。気づけば、アフリカの留学生と将来を語り合う親友になり、彼らと共に何かをすることが自分にとって自然なことになっていました。
この経験が基となり、「トビタテ!留学JAPAN」の1期生として西アフリカ・ガーナに渡り、孤児院でのボランティア活動に取り組むなど、ガーナにどっぷり関わってきました。そして2018年からはガーナにおける農業事業(KAMBANG Farms & Supplies)の運営にプロボノとして関わるようになりました。この事業を起こした友人はすでにガーナに移住し、ガーナ人スタッフを雇い持続可能な農業を実現するべく、多方面から取り組んでいます。
ガーナにおける事業に取り組むかたわら、私はTICAD5で経験したアフリカからの留学生との出会いや「共創」の経験を、より多くの若い世代に届けられないかとずっと考えていました。
社会にインパクトを与える結果をもたらす、という目標を持って取り組める政策提言立案は向上心のあるユースにとって刺激的な場になります。
そこで、「トビタテ!留学JAPAN」でアフリカ諸国を経験したことのある休場優希さん(Africa Asia Youth Nest共同代表)や他の仲間と一緒に、Africa Asia Youth Nestという団体を立ち上げ、ユース政策提言プロジェクトを始めました。今は、複数の団体や後援団体と一緒に活動しています。
提言書は初めから国連開発計画 (UNDP) などの国際機関の助言を受けながら、より多様性の受容に配慮しつつ、日本人とアフリカ諸国の人々とが対等な立場で話し合いながら作成しています。アンケート調査で300人の若者から集めた意見を土台として、彼らが思い描く「30年後の未来」の実現に今何が必要かを考える「フューチャーデザイン」の方法で、さらに私たち若者の望む未来の実現に必要な政策を深掘りしました。
2025年2月時点で完成した政策提言書「Youth Agenda 2055: The Future We Want」は社会、経済、文化、平和とガバナンス、サステナビリティー、テクノロジーとデジタルイノベーションの六つの柱に関連する政策提案と、私たち自身が数年以内に実行可能な行動計画を含めたものです。提言書は、TICAD共催者を始めとする多くの関係者に届けられ、関係者との対話によってブラッシュアップされた後、一部の行動計画の実現に向けて動き始めています。
このプロジェクトの運営に携わる中で、出会ったアフリカ諸国の若者から気付かされたことがあります。彼らはいずれも将来、国を牽引(けんいん)するリーダーになる人たちです。彼らには「オールアフリカ」の意識がありました。
アフリカ連合という国際組織が、アフリカとして共通の目標である「Agenda 2063」を公表していることも強く影響していると思いますが、30代前後のリーダー的立場にある人たちがその意識をさらに醸成して、自発的に国を越えたコミュニティーを形成しています。彼らは、毎年のようにアフリカ諸国による数百人規模の国際的なフォーラムを企画し、国を越えて協力しているのです。
彼らの情熱と実行力から、日本の若者は学ぶべきことが多くあり、彼らと協調して仲間になることができれば、さらに大きなチャンスがあるように感じます。アフリカ諸国はこれからの30年でますます人口が増え、国の壁を軽々と越えていく若者たちも増えていくでしょう。彼らのようなアフリカ諸国の若者が世界で頭角を現すとき、日本人の若者は、どれだけ彼らを知り、対等に話し、歩調を合わせて共創していけるでしょうか?
TICAD5以降、「ABEイニシアチブ」奨学金などを通して、アフリカから日本への留学生は増えており、彼らの多くは日本の環境を好んでくれている印象があります。
私は、日本がこれから30年間、人口減少に伴う経済の担い手不足や貧富の差の増大など多くの問題に直面するだろうという認識を持っています。そのような時に、離れていても、手をとって一緒に考えてくれる友人がアフリカにいたら、どれだけ心強いことかと思うのです。
8月のTICAD9では、アフリカ諸国や日本全国から若者を集めて第1回目の若者版TICAD「Youth TICAD」を開催します。この記事の読者である日本人の高校生や大学生、若手社会人にもぜひ参加してもらい、アフリカ諸国の大学生や若者のパワフルさを感じていただきたいと思っています。
Youth TICADは2025年以降毎年開催することを想定しており、私たちの望む日本とアフリカの未来の実現に向けた政策や行動計画を共創する場として機能するでしょう。また、現在アフリカと日本の架け橋となる活動をする若者の「はじめの一歩」をより具体的に後押しするような新しい枠組みも構築している最中です。
TICAD9を皮切りに、日本とアフリカに関わる若者を増やし、ともに情熱を燃やし、実際に行動を起こせるような動きを作っていきたいです。