人道支援のライフライン「国連の翼」 運んでつなぐ命の現場
人道支援従事者や救援物資を運ぶ、国連が運営する航空サービス(UNHAS)。ケニアの首都ナイロビと南スーダン国境に近い難民キャンプとを結ぶ便に乗って取材しました。

人道支援従事者や救援物資を運ぶ、国連が運営する航空サービス(UNHAS)。ケニアの首都ナイロビと南スーダン国境に近い難民キャンプとを結ぶ便に乗って取材しました。
国連が運営する運航サービス(UNHAS)は、治安やインフラの問題から行きづらいけれど、人道上ニーズの高い場所に就航しています。アフリカを中心に幅広いネットワークを持っていて、NGOスタッフら民間の人道支援従事者も利用できます。予約フローも洗練されていました。まさに人道支援を下支えするロジスティック。ケニアの首都ナイロビと南スーダン国境に近い難民キャンプとを結ぶ便に搭乗し、UNHASが現地でのどのような支援につながっているのかを取材しました。
まだ日も昇らない朝5時すぎ、ナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港にはUNHASの搭乗を待つ人たちが集まり始めた。民間航空会社に並び、国連の世界食糧計画(WFP)のロゴとUNHASの文字が掲げられたカウンターが開かれていた。
パスポートと数日前に送られてきたEチケットを提示すると、チェックインは完了。民間機に搭乗するのと変わりはない。「ボーディングパス」と記されたプラスチック製の板を渡された。
WFPが運航するUNHASが就航するのは、民間機はないが、人道上航空便の必要性が高い路線。2023年にはアフリカを中心に400カ所以上に就航した。
NGOも所定の手続きを経て利用登録が認められれば、「国連ブッキングハブ」というシステムを通じて予約できる。国連カラーの水色をあしらったサイトで、アフリカ大陸の地図の中からケニアを選択すると、グラフィックが動いてケニアの地図が表示される。国内で就航する3路線が線で表示され、飛行機のアイコンがゆっくりと動く。
予約時に路線ごとのフライトスケジュールや値段も確認でき、民間の航空会社の予約サイトと変わらない。英仏の2カ国語に対応し、スマートフォンやタブレット向けのアプリも用意されている。
この日のナイロビからカクマ難民キャンプに向かう便は、ほぼ満員の35人が予約。双発プロペラ機の真っ白な機体には、WFPの文字が書かれていた。
離陸してしばらくすると、フライトアテンダントからはコーヒーやソフトドリンク、ビスケットの提供があった。乗客はうたた寝をしたり、音楽を聴いたりしてリラックスした様子で過ごしていた。
カクマ難民キャンプはナイロビから直線距離で約600キロ。陸路だけで向かうと2日ほどかかるといい、そこを1時間半ほどで一気に飛ぶ。赤土の滑走路に着陸すると砂ぼこりを巻き上げた。
カクマ難民キャンプは、スーダン内戦を契機に1992年に設置された。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などによると、2024年末時点で南スーダンやソマリア、コンゴ民主共和国、エチオピアなどからの難民約30万人が暮らす。
同じ便に乗っていたジョセフ・ラスルさんは、国際救済委員会(IRC)のカクマ難民キャンプでシニア・フィールド・コーディネーターを務める。休暇を終えて、これから約2カ月間の任務に戻るところだった。「職員の移動の9割はUNHASに頼っているほか、緊急で必要な医療品の輸送にも利用している」と意義を強調する。
UNHASは人員輸送が主だが、貨物輸送を担うこともある。IRCの現地事務所で働くヘルスマネジャーのケファ・オティエノさんは「先週、運営する病院で出産時の大量出血に対応するために、輸血用の血液を輸送してもらった。そのほか、精密検査が必要な患者の検体をナイロビの研究機関に運ぶのにも助かっている」と話す。
IRCが運営する難民キャンプ内のヘルスクリニックを訪ねると、スカーフをかぶった女性や子ども、高齢の男性ら多くの人が詰めかけていた。
カウンセリングルームでIRCスタッフと話をしていたのは、重度の栄養失調状態という女児を連れた女性(30)。南スーダンでの紛争を逃れて3年前からキャンプで暮らしている。女児は1歳半だというが、平均の6カ月ほどの大きさしかないといい、ずっと母親に抱かれたまま、声も発せずにこちらを見つめていた。
クリニックではユニセフから支給されたチョコレート味の栄養補助ペーストが処方されている。女性は「1400グラムの低体重で生まれ、なかなか授乳もうまくいかなかった。このクリニックに来て2カ月ほどになるが、少しずつ体重が増えてきていてうれしい」と話した。
カクマ難民キャンプには、未舗装の道沿いにトタンの家々が並び、理髪店や携帯電話ショップなど商店が並ぶエリアもある。四駆の車で揺られながら10分ほど走ると、学校に着いた。
6歳から14歳まで2038人が学ぶ校舎ではちょうどお昼時。給食が準備されていた。
キャンプでの学校給食をWFPと共同で支援する「ルター派世界連盟」のエリアマネジャー、カロリーン・ワイナイナさんは「子どもたちを学校につなぎとめる上で、給食は何よりも大切なポイント」と話す。
小学1年生のクラスでは、山盛りご飯に豆の煮物をかけた昼食を子どもたちがほおばっていた。
ワイナイナさんは「このような遠隔地にもアクセスが確保されていることがとても大切。UNHASの存在は、ミッションに取り組む職員の心理的安全性を保つ上でも大変助かっている」と話す。
カクマ難民キャンプとナイロビを結ぶ便は2025年1月時点で週3往復が運航されている。カナダや欧州連合(EU)、イタリア、スウェーデン、米国などからの寄付に加え、乗客が支払う1人200米ドルの運賃で賄われている。