ボランティアが担う水難救助 A-PADスリランカって?
多国間で連携して災害対応にあたる国際機関があります。ボランティアを巻き込んで専門的な技術を磨き、災害に備える現場をスリランカで取材しました。

多国間で連携して災害対応にあたる国際機関があります。ボランティアを巻き込んで専門的な技術を磨き、災害に備える現場をスリランカで取材しました。
日本、インドネシア、韓国、スリランカ、バングラデシュ、フィリピンの6カ国が協力して、災害対応について学び合い、協力し合う国際機関であるアジアパシフィックアライアンス(A―PAD)。日本のNPOである「ジャパン・プラットフォーム」が各国に呼びかけて2012年に発足し、日本政府も毎年1.5億~4億円を拠出しています。各国のA-PADは政府とNPO、企業をつなぎ、一緒になって災害の備えや対応にあたるための調整役を果たしています。スリランカのA-PADは、地域やボランティアと共に、プロフェッショナルな活動をしています。水難救助訓練の現場を訪ねました。
ウェットスーツにヘルメット姿のA-PADスリランカ捜索・救助チームが、声を掛け合いながら6人1組でゴムボートでこぎ出していく。しばらく沖に向かってこいでいると思ったら、ボートは転覆。メンバーは海中に投げ出された。海中から立ち泳ぎをしながらボートを元の姿勢に戻して、1人ずつ海中からボートの上にはい上がっていく。
これを何度も繰り返す。激しい水流の洪水の中での出動を想定した訓練だ。水中から被災者を助け出して、陸上に搬送する訓練も行った。さらに、ロープを使って屋外で階上から担架で人を下ろす訓練もあった。
スリランカでは地球温暖化の影響で、近年豪雨が急増し、洪水や地滑りが多発している。そこでA-PADスリランカでは捜索・救助チームを2017年に創設した。チームを率いるのは国際的な資格を持つ専属のスタッフだが、メンバーはみな、他に本業を持つボランティアだ。
ただし、メンバーになるハードルは低くなく、泳げることが必須条件のうえ、テストがあって「落ちる人もいる」。現場に出るためには、第1段階として2泊3日の合宿研修を受けるのが必須で、そのほかに年に数回研修がある。さらにレベルアップするために5日間の研修もある。激しい水流の中でボートを操って捜索・救助にあたる経験を積む。
研修費用は無料だが、現場に出るのはボランティアで、無料の奉仕だ。メンバーは、ライフセーバーや軍人、会社員、医師などと幅広く、総勢160人で、うち20人が女性だ。
アサンカ・ナナヤカラさん(46)はライフセーバー歴31年の大ベテラン。かつてスリランカライフセーバー協会のCEO(最高経営責任者)を務めていたこともある。今は会社員をしながらライフセーバーとして活動し、さらにはこの捜索・救助チームにも所属している。創設と共に参加した。
「もちろんライフセーバーとして長年経験を積んでいましたが、急流の中での救助活動は初めて学ぶことが多かったです」と語る。「日本のおかげで最新の装備をそろえることができて感謝しています」。年に2回は災害現場に出動しているという。
「水流のなかで歩いて逃げようとしていた5人家族を助けたことがあります。渦を巻くような急流でボートが転覆したこともあります。ふだんから研修を重ねていたので落ち着いて行動することができました」
どういう時にやりがいを感じますか?と聞いてみた。「コミュニティーの役にたてていると感じられると、自分を誇りに思います。普段の生活で困難なことが起こっても、自分は他の人のために働いている人間なのだと思うと、エネルギーがわいてきます。これからも続けていくつもりです」
チームには軍隊からも参加者がいる。A-PADスリランカは軍隊との連携に力を入れており、160人中110人は軍隊からの参加だ。エメッシュ・ランガラさん(28)は空軍の中尉、ランディル・ギヤンサさん(35)は海軍の中佐だ。
2人が口をそろえたのは、「普段から訓練を積んでいますが、ここでの捜索救助訓練とは性質が違います。しかし、ここでの訓練が軍隊での活動に役立ちます」ということだ。軍隊からの参加者がスキルを持ち帰って共有し、災害時に軍で被災者の探索や救助にあたることもある。
アサンカ・アンバワッタさん(41)は、スリランカの代表的なビールメーカー、「ライオン・ブリュワリー」の会計士だ。2016年の洪水で、自ら被災したことがチームに参加したきっかけだった。
「本当にひどい経験でした。私の家も洪水に襲われて、1階にあったものをできるだけ2階に上げて、家族でいとこの家に避難しました。私の家だけでなく、会社も被災し、何もかもが流されてしまいました。半年たって何とか立ち直ってきたとき、A-PADスリランカと会社の連携の一環で、誰かチームに参加しようということになったのです。会社の中で希望者の呼びかけがあり、何か役に立てることがあればと応募してみました。昨年初めて洪水の現場に出て、取り残された人を救助しました。本当に自分が人を助けることができて感激したし、うれしかった」
そのほかに、アウトドアやアドベンチャースポーツの会社からの参加者もおり、身につけたスキルで会社の製品を使って独自に救助活動を行うこともあるという。
女性のメンバーにも聞いた。アンジャリー・ビヤンウィラさん(30)は救急医療が専門の医師。2023年から参加した。「人を助けるのが好きなので。医師という職業を選んだのも人助けができるからです。まだ現場に出たことはありませんが、そのときに備えて技術を磨きたい」
A-PADスリランカの特徴は、この捜索・救助チームにみられるように、いざという時に活動に出る多くの人たちと普段から連絡を取り合っていることだ。たとえば、各地の大学や企業などとも協力し合い、洪水などの災害が起きたら出動できるようにしている。
洪水が起きると、専門的なスキルの必要な捜索・救助から、とにかく多くの人手が必要な掃除、片付け、物資配布、炊き出しまで必要な役割は多岐にわたる。災害救援にボランティアは欠かせないのだ。
いざという時に混乱せずに、専門的な救助から人海戦術まで多くのボランティアを手配し、活動できるように普段から調整をしておく。それがA-PADスリランカの役目だ。