近年、水資源に関する新たな取り組みに注目が集まっています。気候変動などによる干ばつ、ハリケーンや洪水、きれいな水がいまも手に入らない地域の問題まで、解決には官民連携のイノベーションが求められていると言います。世界経済フォーラム(WEF)で、水の問題に取り組む取締役ギム・フエイ・ネオさんに現状と課題を聞きました。

水は多すぎるか、少なすぎるかという問題が生まれている

――国連でも「水会議」が開かれていますが、いま問題になっている「水」の課題とは何ですか。

近年、気候変動によって、水は多すぎるか少なすぎるかという問題が生まれています。ある地域では、極端な干ばつが起き、別の地域では極端なハリケーンが起きるといった状態です。大都市のインフラは過去の歴史的な気象パターンを元に作られていますが、最近の気候は、過去とは大きく断絶したものになっています。100年に1度起きるような天気に合わせて、建物の規制などもまったく新たに書き換える必要が出てきているわけです。

水不足の管理は、貯水インフラのシステムを見直すことでもあります。ただ、多くの国や都市で使われているシステムはエネルギー効率が悪い。水が海に流れ出れば、それを戻すのには多くのエネルギーが必要になります。

ただ、解決策はあります。まだ商用化されていない技術が多い炭素の削減と違い、水の技術は大昔からあります。もっとも、いいイノベーションはたくさんあるのに、まだ大規模に使われてないところに問題があります。それは、水は蛇口をひねれば出てくると思われていて、水資源が無料の資源として扱われがちだからです。食品や健康分野などの企業トップと会うと、水に関する関心の高さを感じますが、まだまだ少数派です。

――一方で、WHOは、20億人がいまも飲料水が手に入らない土地に暮らしているという報告もしています。これをどのように解決していけばいいのでしょうか。

懸念すべきなのは、極端な気候の変化によって、これまでの進歩を後退させてしまう可能性があることです。過去20年間の進歩は、気候変動によって、振り出しに戻る可能性があるのです。

そこでまず、私たちは水を資産として考えるべきでしょう。企業は、投資可能な資産として水をとらえるべきで、単なる人道支援の問題として扱うべきではありません。

水はSDGsの17の目標の一つですが、水自体がSDGsを可能にするものでもあります。水があれば、衛生環境が保たれるからです。気候問題も「青(水)」なしに「緑(自然)」は語れません。その一環として、経済活動を活性化させ、より良い健康をもたらす方法として、水への投資について考える必要がでてきます。

途上国では適切な政策とリスクの枠組みがないために、水に長期的な投資がされてきませんでした。投資家が積極的に投資してこなかったのもそれが一因です。世界的に水は公共財と考えられてきたため、投資案件として正当化するのが難しかった面もあります。

そこで、より包括的に考え、官民パートナーシップを拡大する必要があると思います。グローバルな対話だけでなく、地域や地方で行動に移すことが必要です。

世界経済フォーラム(WEF)で、水の問題に取り組む取締役ギム・フエイ・ネオさん=筆者撮影

求められる官民連携と日本の役割

――官民のパートナーシップの重要性を説かれていますね。

多くの人は、水を政府、あるいは開発機関の問題だと考えがちです。そして、企業はまだ、自分たちが水問題の解決策の一翼を担っているとは思っていないかもしれません。しかし、一部の企業は非常に積極的です。IT企業はデータセンターで大量の水を使用するため、非常に早い段階から水に関する取り組みを行っています。農業分野では水のやり過ぎが問題になります。節水という観点だけでなく、農作物にとって最適な水の量にする意味でも、テクノロジーが使える場面が多くあるわけです。

ただ、インフラ開発の資金調達は長年の課題です。技術の導入を考える場合、その一部として、長期融資を考える必要があると思います。20年、30年という単位ではなく、もっと長期のものです。新興経済国の場合、それは助成金と開発資金、民間資本を組み合わせるやり方も考えられます。

――日本の役割は。

日本には非常に専門的なエンジニアリングの知識を持つ複合企業体があります。こうした企業が、技術的な解決をもたらすことができるはずです。また、インフラの資金調達は、投資家の関心が高い部分です。土地の修復や保全活動への投資では、投資した何倍もの経済的利益がもたらされるとの報告もあります。そして、その経済的な恩恵は、広く人々に広がるのだということを強調したいと思います。