地球規模の課題解決に最前線で取り組む人たちに、with Planetの竹下由佳編集長がその思いを聞きます。今回は、途上国などでワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」(本部・ジュネーブ)の資金調達局長、マリアンジュ・サラカヤオさんです。

爆発的な人口増加が予測され、ビジネス界からは「最後のフロンティア」などと注目されるアフリカ。

その一方で、気候変動の影響による異常気象や感染症の蔓延(まんえん)など、命に関わる課題も抱えている。

予防可能な感染症から命を守るため、低中所得国に低価格でワクチンを提供してきたのが国際組織「Gaviワクチンアライアンス」だ。先進国が主要なドナーとなり、2000年の発足以降、10億人以上の子どもに予防接種を実施。18億回分のワクチンを供与してきたという。アフリカは、生まれてからワクチンを1回も接種したことのない子どもが他の地域よりも多く、気候変動による影響に脆弱(ぜいじゃく)な国を多く抱えている。

アフリカが抱える健康の課題は、日本に暮らす私たちにどうつながりがあるのか。Gaviでワクチン提供に取り組んできた担当者は、アフリカの現状をどのように見ているのか。来夏に横浜で開かれる、アフリカの開発を考える第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を前に、8月末のTICAD9の閣僚会合に合わせて来日したGaviの資金調達局長、マリアンジュ・サラカヤオさんに聞いた。

アフリカにはたくさんの「機会」がある

――アフリカの人々の命を脅かす、健康の課題についてどのように捉えていますか?

アフリカには「課題」というよりも、むしろたくさんの「機会」があると考えたいと私は思っています。

その「機会」とは、アフリカが非常に「若い大陸」であるということから生まれます。アフリカの人々の60%以上が25歳以下とされています。日本とは状況が大きく違いますね。

若い人たちが健全に成長し、アフリカの発展に積極的に貢献できるようにすることが、私たちの重要な優先事項の一つです。

「健全な成長」にはまず、保健サービスにアクセスができることが重要です。私たちはこれまで、特に予防接種を受けることで病気にならなくなり、学校に行けるようになり、教育を受け、社会に貢献できるようになった若い人たちを目の当たりにしてきました。

膨大な数の若年人口を抱えるアフリカの国々では、予防に重点を置くことが非常に重要です。だからこそ、私たちGaviの活動の一つは、予防接種へのアクセスを提供するというものなのです。保健機関、民間組織、研究機関の知見を結集し、各国政府と緊密に協力することで、現地の人々の発展を支援するプログラムを展開しています。「アフリカ」と一言で言っても54カ国あり、それぞれの国で状況は違うので、その違いを知ることも重要です。

Gaviでは、5歳未満の子どもたちへの定期的な予防接種に重点を置いています。アフリカの多くの国では、日本のように医師が多くはいません。ですから、早い段階で、費用対効果の高い方法で予防することが非常に重要なのです。

子どもたちへの予防接種の重要性を訴えるGaviワクチンアライアンスの資金調達局長、マリアンジュ・サラカヤオさん=2024年8月、東京都港区、筆者撮影

――アフリカの女性たちの健康の状況についてはどうでしょうか?

女性としても、母親としても、そして彼女たちの子どもの命が守られることも重要です。子どもたちの健康のために、最前線に立つのは彼女たちです。

特に憂慮されているのは、子宮頸(けい)がんです。世界で2分間に1人がこの病気で亡くなっているという傾向にあります。だからこそ、私たちは、子宮頸がんに非常に有効とされるHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンを積極的に展開しています。Gaviでは、2025年末までに8千万人以上の女児にHPVワクチンを接種することを優先課題とし、昨年は2千万人以上の女児に接種しました。

私たちの健康はお互いにつながっているからこそ

――世界の保健医療の課題に向き合う「グローバルヘルス」は今、どのような困難に直面していると考えますか?

私はグローバルヘルスへの認識は高まってきていると思います。それはつまり、私たちの健康はお互いにつながっているという認識です。明らかに、感染症はすぐに広がります。

二つの側面があると思います。一つは、信じられないような進展が見られることです。Gaviは、低中所得国で20年以上にわたって10億人以上の子どもたちに予防接種を実施してきました。そのほぼ半分はアフリカの子どもたちです。それは一つの大きな進歩だと思います。これまでにポリオ、コレラ、日本脳炎などのワクチンを提供してきましたが、私たちの基本的な予防接種の指標では、多くの国で予防接種率が80%近くに上ります。ですから、非常に前向きな側面です。

もう一つの側面は、実際に起きていることとして、世界は変わりつつあるということです。新たな課題がたくさん出てきています。例えば、気候変動に伴って、コレラやマラリア、黄熱病など、より多くの病気がより速く蔓延しています。そのため、私たちは同時に、予防接種のペースを上げなければなりません。

さらに、感染症の感染爆発(アウトブレーク)もより多く起きており、新しいワクチンの開発について、科学者たちとの共働を急ぐ必要があります。新型コロナウイルスの感染が広がった時もそうでしたが、最近ではエムポックス(サル痘)の感染拡大も起きています。気候変動もそうですし、(世界の国々の)相互の結びつきも強くなっています。そのため、新しいウイルスが生まれやすく、ウイルスの拡散も速くなっていると思います。

しかし、素晴らしいのは、科学者たちが新しいワクチンを開発しているということです。例えば、アフリカで最も人々を衰弱させ、多くの命を奪う病気の一つであるマラリアのワクチンが開発されました。私たちの新しい戦略では、5千万人以上の子どもたちにマラリアの予防接種を行う予定です。

ケニア西部ビクトリア湖にあるムファンガノ島の病院で、2歳の女の子がマラリアワクチンの4回目の接種を受けていた=2024年1月4日、ケニア西部ムファンガノ島、荒ちひろ撮影

気候変動の影響で蔓延しているデング熱に対しても、マラリアや結核などと同様、新しいワクチンで対処できることを期待しています。解決策は、これらをこれまで以上に迅速に人々に届けることです。

例えば、私たちはドローンを使って、以前よりもずっと速くアフリカ各地にワクチンを届けています。また、日本企業のNECと協力して生体認証技術を導入し、予防接種を受ける子どもたちの登録や記録の管理を、以前よりも迅速にできるように取り組んでいます。ですから、新しい課題に対処するには、より多くのリソース(資源)が必要ですが、解決策はあるのです。これは非常に有望なことだと思います。

――なぜ日本を含む先進国は、アフリカの人々の健康課題など、「グローバルヘルス」に取り組む必要があると考えますか?

世界は相互につながっていて、私たちの健康はすべてお互いにつながっているのです。ですから、「相互責任」とも言えると思います。

第一に、アフリカの国々は、自分たちの国民の健康に関心を持っています。ですから、Gaviの取り組みのモデルでは、アフリカの国々自身がまず資金を投入しています。グローバルヘルスに投資するのは日本のような先進国の政府だけではありません。(次の5年間において)Gaviのモデルでは、アフリカ諸国は、自分たちの予防接種のコストの40%を自ら賄うことになります。彼ら自身が貢献しているということは非常に重要なことです。もちろん、低所得国からの拠出なので、より豊かな国からの助けも必要です。

新型コロナが世界を駆け回ったように、これは世界的な問題です。そして、日本にとってはよい機会でもあると思います。日本は主要7カ国(G7)の中でもかなり早い時期から感染症対策のリーダー的存在でした。今でこそ各国が健康安全保障について話し合っていますが、日本はそれをリードしていたのです。

「ワクチンへのアクセスは経済政策である」と言われています。健康に問題があれば、最終的には経済に影響を及ぼします。新型コロナ下で国境が閉鎖された時、経済も停滞しました。

日本にとってよい機会であるというのは、日本にはワクチンの研究開発に多くの投資をしている企業や資源があるからです。デング熱ワクチンに取り組んでいる武田薬品工業がありますし、世界とビジネスができるテクノロジー企業もあります。つまり、人々の健康は守られ、日本の技術の影響力を世界中に広めることができるというウィンウィンの状況なのです。

しかし、なにより重要なのは、グローバルヘルスは誰しもに関係があり、すべての国が関係しているということです。

ワクチンは、最も効果的な投資の一つです。私たちは、ワクチンに1ドル投資すれば、(医療費の削減や病気による低賃金の向上、労働生産性の向上などで)54ドルに相当するリターンが得られると試算しています。

先ほど申し上げたように、Gaviの取り組みのモデルでは、低所得国自身も貢献していますし、国が豊かになるにつれてGaviの支援から脱し、完全に自己資金で賄うようになります。私たちは当初、73カ国を支援していました。現在、このうち19カ国が完全に自立しています。そして、2030年までには、(現在Gaviが支援する78カ国のうち)4カ国に1カ国が完全に自立できるようになると考えています。

――日本政府にはどのような行動を期待しますか?

私たちは、日本政府がGaviへの支援を続けてくれることを望んでいます。

日本は非常に長い間、私たちのパートナーであり続けています。他のドナー国政府とともに、その支援のおかげで、私たちは20年間で10億人以上の子どもたちに予防接種を行うことができました。

しかし今、私たちは、新しいワクチンの開発を加速させ、より多くの子どもたちに、より多くのワクチンをより早く届けたいと考えています。10年以内に、さらに10億人の子どもたちにワクチンを届けたいのです。

そのためには資金が必要です。私たちは次の5年間の新たな戦略に取り組み始めたばかりですが、この戦略を実現するため、ドナーには総額90億ドルの拠出を要請しています。

アメリカ政府はすでに15億ドルの拠出を誓約しています。G7の一員として、日本にもそのリーダーシップを存分に発揮していただくことを期待しています。

第9回アフリカ開発会議(TICAD)閣僚会合を終え、共同記者発表を行う上川陽子外相(右から2人目)=2024年8月25日、東京都千代田区、朝日新聞社

――来夏、日本ではTICAD9が開かれます。どのような議論を期待しますか?

日本とアフリカ諸国との協力が、実際に行動につながることを期待しています。

(8月末に開かれた)TICAD9の閣僚会合でも多くの議論が交わされましたが、最終的に重要なのは行動を起こすことです。

アフリカ諸国は、それぞれの役割を果たしています。自国のプログラムや定期的な予防接種に投資しています。私は、日本が具体的な投資を行い、各国を支援すること。そして、TICAD9までに、Gaviなどへの日本からの新たな投資が行われることを期待しています。

「ぜひアフリカに来てみて」

――アフリカは日本から距離的に遠いこともあり、日本の中には、なかなか身近に感じることが難しい人もいると思います。どうしたらアフリカの健康の問題に関心を持ってもらえると思いますか?

はい、それはもちろん理解しています。

日本はアフリカから遠く離れているように見えるかもしれませんが、アフリカの大きな強みの一つは、先ほど申し上げたように、「若者」。好奇心旺盛な若者たちだと思います。

アフリカで起きている問題は、最終的には日本にも影響を与えます。例えば、今アフリカではエムポックスの流行が始まっていますが、すでにアジアでも感染が広がりつつあります。

ですから、(グローバルヘルスは)相互責任であることを理解する必要があります。私たちは、「同じ惑星」に生きているのですから。お互いを知り、協力し、問題を解決しなければなりません。ぜひ実際にアフリカに来てみてください。とても刺激的で、わくわくすると思いますよ。

――まずはアフリカの国々を訪れて実際に見てみることが大事ですね。

そうです。10億人が住む大陸は本当に活気があり、勢いがありますよ。人々の多くは25歳以下で、本当に次のフロンティアだと思います。発展・成長のチャンスがある場所なのです。

日本の影響力は世界にとって非常に重要です。日本が影響力をさらに拡大するのであれば、アフリカとパートナーになる必要があると思います。アフリカは、今世界で最も急速に成長している地域の一つですから。

「アフリカと女性の健康」をテーマに話し合うセッションが、国際シンポジウム「朝日地球会議2024」(主催:朝日新聞社)で開かれます。「地球と女性の健康な未来のために~アフリカの課題から」と題し、10月25日(金)午後5時50分~午後6時50分、東京ミッドタウン八重洲カンファレンス(東京都中央区八重洲2-2-1)でリアルセッションを予定しています。with Planetの竹下由佳編集長がコーディネーターを務め、公益財団法人ジョイセフ代表理事・理事長の勝部まゆみさん、国境なき医師団産婦人科医の鈴木美奈さんと、アフリカの女性たちの課題は日本に暮らす私たちとどうつながり、私たちに何ができるのか考えます。公式サイトで、参加の申し込みを受け付けています。申し込みの締め切りは10月16日(水)。