再生パソコンで雇用創出 「難民」と共に生きる社会へ
難民受け入れに消極的といわれる日本で、母国を逃れた人たちと共に働き、生きるための方法とは? ピープルポート株式会社の青山明弘さんがつづります。

難民受け入れに消極的といわれる日本で、母国を逃れた人たちと共に働き、生きるための方法とは? ピープルポート株式会社の青山明弘さんがつづります。
日本は難民の受け入れに消極的といわれます。出入国在留管理庁によると、2024年の難民申請数は1万2373人。同年に難民認定されたのは190人で、補完的保護や人道配慮により在留を認められた人を含めても2186人です。そこには、制度や受け入れ態勢などさまざまな課題があります。そんな日本で、母国を逃れた人たちに雇用を創出し、共に生きる社会に近づこうとしている人たちがいます。2017年に創業したピープルポート株式会社の青山明弘さんがその思いをつづります。
「この国でも、ぼくたちは人間じゃないみたいだ」
その言葉を聞いたとき、私はかける言葉が見つかりませんでした。
数年前、まだピープルポート株式会社を立ち上げる前。友人を通じて出会ったアフリカ出身の青年がいました。日本語はまだ片言だったけれど、彼は真っすぐに私の目を見て、自分の思いを話してくれました。「生きていくために安定した仕事がしたい。今働いているところは、給与をちゃんと払ってくれない。でも他に受け入れてくれる場所がないから自分には選択肢がない」
彼は日本で難民申請中の身で、紛争や迫害から逃れ、日本にたどり着きました。でも、ここでも「受け入れられていない」という現実に直面していました。住む場所も、食べるものも、明日の見通しもない。私は彼を強い人間だと思いました。でも、その強さを支える場所がありませんでした。
私自身、紛争予防や紛争被害者の支援に関心を持っていました。大学では国際的な枠組みでどう戦争・紛争を防いでいくのかを学び、昔内戦の激戦地だったカンボジアの地雷原も訪れました。
彼に出会ったころ、私は「ボーダレス・ジャパン」という社会的な課題をビジネスで解決することを目指す会社で働いていました。私自身、起業家タイプの人間ではないと思っていましたが、彼との出会いで自分の中に火がつきました。
そして2017年、「難民」という立場にいる人たちと共に働く会社「ピープルポート株式会社」を設立。彼らが安心して働ける場所を提供するために、中古パソコンを回収し、再生して販売する「ZERO PC(ゼロピーシー)」というブランドを立ち上げました。
日本の難民認定は非常に険しい道のりです。難民申請手続きにかかる平均期間は2年11カ月です(2024年)。ただ、これは平均であり、実際にピープルポートで働くスタッフには申請してから5年以上経つのにまだ結果が出ていない人もいます。本人たちを苦しめているのは、審査のプロセスが見えないということです。いつ審査のためのインタビューに呼ばれるのか、今月なのか来月なのか、来年なのか、はたまたもっと先なのか。本人にも、誰にもわかりません。インタビューが終わった後も、先が見えない結果を待つ日々が始まります。
難民認定を待つ間、就労許可を受け取ることができるケースもあります。ただし、働く許可を得られるというだけで、仕事を探すことはまた別の問題で、難航するケースが多いのです。ピープルポートで現在働いているスタッフも様々な経験をしています。
まず仕事を見つけること自体が難しく、運良く見つかったとしても、日本語が話せないとなると肉体労働の仕事が多くなります。何とか働き始めたとしても、大きなけがをしてしまったり、病気になったりして継続して働くことができなかったという話も聞きます。さらに人手不足の調整弁のような雇われ方をしていたケースも多く、毎月の収入が安定しないという人もいます。こういった状況から抜け出そうと思っても、より安定した仕事に移るだけのスキルを身につける機会も少なく、日々の仕事で身体を削りながら、希望を失っていくーー。そんな人たちがこの日本にいるのです。
私たちは、中古パソコンを回収し、再生して販売する仕事をつくりました。安定して働ける場所を作るためになぜパソコンを選んだのか? それには大きく三つの理由があります。
一つめは、パソコンの技術は万国共通で、日本語がまだ話せなくても学べるということ。
二つめは、もし将来、彼らの母国が平和になって帰ることができるようになった時に、母国で生かせるスキルが身につくこと。
そして三つめは、「電子ゴミの削減」という日本の課題に貢献できることです。難民当事者が働いて給与を得るだけでなく、一緒に暮らすこの地域の課題解決に貢献をしていく。それこそが共生の道を開いていく方法なのでは、と考えたのです。
最初の仲間は、またアフリカの別の国から逃れてきた男性でした。彼も会った当時はやはり「働く場所がない」状態でした。さらに以前勤めていた仕事ではちゃんとお給料をもらえていませんでした。
私たちは一緒にパソコンを解体し、掃除し、OSを再インストールする作業から始めました。最初はミスもありました。ネジがうまく外れずに壊してしまったり、なかなか起動しなかったり。でも、彼の目はどんどん明るくなっていきました。「必要とされている」と感じることが、こんなにも人を変えるのかと思った瞬間でした。
「誰かにとっての不用品が、誰かにとって必要なものに変わり、その過程で人の未来を創っていく」。「ZERO PC」の考え方の根本はそこにあります。大量に廃棄されているパソコンを回収し、修理・整備して、再び社会に送り出す。そしてそのプロセスで、難民として日本にたどり着いた人たちに働く機会を提供する。
ZERO PCで扱っているのは、法人や個人から引き取った不要パソコン。私たちのオフィスで一台一台手作業で整備し、内部データを完全に消去したうえで、新しい命を吹き込みます。
もちろん他にも同様の仕事をするパソコン屋さんはたくさんあります。新しい価値を届けないとお客様に選んでもらえません。再生パソコンを商店街で売ったり、オンライン販売を始めたりしました。どうしたらいいか、一生懸命考えます。パソコンを買っていただけることが、スタッフの人生を左右するのですから。
安定して働けるようになると、人生が変わっていきます。一人のスタッフがある日こう言いました。「働けるようになって、毎日3食食べられるようになった。好きな服も選べるようになった。住みたいところにも住めるようになった。人間として当たり前の生活ができるようになった」と。
さらに当事者本人だけでなく、家族の生活もポジティブに変えていきます。あるアフリカ出身の男性スタッフは母国で迫害にあい、日本に1人で避難をしてきました。しかし彼の避難後、母国に残った彼の妻にその迫害の矛先が向きました。妻も別の国に逃れ、家族離れ離れの生活が約4年続きました。しかしピープルポートで安定した生活ができるようになり、彼は妻を日本へ呼び寄せることができました。私も彼が成田空港へ迎えに行く際に同行したのですが、彼の奥さんがゲートを出て来て、お互いを見つけた時の顔、抱き合う時の表情は今でも忘れることができません。
今、ピープルポートには5カ国以上から来た仲間がいます。宗教も言葉も文化も違う。でも、彼らが共通して持っているのは、「自分の人生を選びたい」という願い、そして「同じような境遇にいる人たちのために、より良い社会をつくっていきたい」という強い思いです。
誤解されることもあります。「難民って、本当に働けるの?」「文化が違うと、トラブルになるんじゃない?」「外国人を安い給料で雇ってもうけているんでしょ?」。そんな声を聞くたびに、私たちは実績で応えるしかないと思います。実際、ピープルポートで働く仲間たちは、毎日真剣に手を動かし、より良いプロダクト、サービスを届けようと一生懸命がんばっている。その姿は、どんな言葉よりも説得力がある。もちろん、すべてが順調だったわけではありません。法制度の壁、言葉の壁、心の壁。乗り越えるべき課題は今もたくさんあります。でも、彼らの「働きたい」という思いと、「社会に貢献したい」という気持ちが、私たちを前に進ませてくれます。
最近では、パソコンの回収をさせてもらったり、ZERO PCを購入いただいたりした企業や学校から「こんな取り組みがあることを初めて知った」という声をいただくことが増えてきました。再生パソコンという選択が、「安さ」や「環境配慮」だけでなく、「母国を逃れてきた人たちの人生を応援する」選択になるということを、少しずつでも伝えていけたらと思います。
読者の皆さんがこの活動に参加できる方法も、いくつかあります。たとえば、ご家庭や会社で使わなくなったパソコンを提供いただくこと。公式サイトから申し込めば、無料で回収をさせていただきます。あるいは、ZERO PCを使ってみることも応援のひとつです。日常のパソコン使用が、誰かの人生を支える行動になるとしたら、少し誇らしいことではないでしょうか。
また、SNSや口コミでこの活動を広めていただくことも大きな力になります。「難民の人たちが働く現場が、こんなふうに日本にもあるんだ」と知ってもらうこと。それが偏見や無理解を少しずつ改善し、彼らにそそがれる社会の視線を変えていく第一歩になります。
私がピープルポートを通じて伝えたいのは、「誰もが、社会の一員として迎え入れられる社会は実現可能だ」ということです。難民の人たちが「支援される側」にとどまるのではなく、対等な「仲間」として共に働ける場所をつくりたいと思っています。
「この国でも、ぼくたちは人間じゃないみたいだ」。あの日の彼の言葉を、私は忘れません。
でも、だからこそ、私たちは変えていきたいと思っています。希望を持って新たな人生を歩めるように。