援助停止でも児童労働撲滅「あきらめない」ACE岩附由香さん:後編
「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト。今回のゲストは前回に続き、ACE(エース)の岩附由香さんです。

「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト。今回のゲストは前回に続き、ACE(エース)の岩附由香さんです。
グローバルヘルスやジェンダー問題、人権問題や食料不安。世界にも、日本にも、これらの課題を解決すべく活動している人がいます。NGOをはじめとする「現場で働く人」をゲストに迎えるポッドキャスト「地球で働く!」。第33回からは、ACE(エース)代表、岩附由香さんにお話を伺いました。内容を記事でもお伝えする、その後編です。ポッドキャスト本編はApple Podcast、Spotifyで配信しています。
「ACE(エース)」の代表、岩附由香さんをゲストにお迎えしたポッドキャスト。第36回から第38回までの後編では、ACE設立のきっかけとなった「グローバルマーチ」や、途上国の児童労働の現実、実施中のクラウドファンディングについて伺いました。
1998年に行われた「グローバルマーチ」は、児童労働の廃絶を世界に訴える国際的なキャンペーンです。100カ国以上から1千を超える団体が参加し、5大陸・約8万キロの道のりを約6カ月間かけて歩き、児童労働反対の声を届けました。
岩附さんも参加したインドの首都ニューデリーで行われた最大規模のマーチには、約1万人が参加。先頭にはNGOに救われた「元児童労働者」の子どもたちが並びます。フィリピンで漁業に従事していた子、南米の靴工場で働いていた子など、さまざまな背景をもつ子らが「児童労働反対!」と声を上げました。
ゴールは、国際的な労働基準を定める国際労働機関(ILO)の本部があるスイス・ジュネーブ。グローバルマーチの創始者で、後にノーベル平和賞を受賞するインドのカイラシュ・サティヤルティ氏がILOの議場でスピーチを行い、児童労働に関する新たな国際条約の審議が始まります。NGO関係者が議場に入るのは、1919年の創設から約80年(当時)を経て初めてのことだったといいます。
「形式的なやりとりばかりで、本当に意味があるのだろうか」。審議の様子をのぞいた岩附さんはこう疑問を抱きますが、翌年には「最悪の形態の児童労働条約」が採択されます。児童労働の定義が明確になり、政府の関与も強まったことで「国際的なルールをつくる重要性に気づいた」と振り返りました。
岩附さんはその後、設立の目的である「日本国内でのマーチ実施」に向けて動き出します。
「マーチに一番慣れているから、と労働組合の方を紹介され、道路使用許可の申請方法を教えてもらいました。堅苦しくて怖い雰囲気ではなく、にぎやかにしたくて、サンバ隊を引き連れて表参道をマーチしたんです」
東京と大阪でマーチを実現し、手応えを感じた岩附さんは、仕事の傍らACEの活動を続けることに。その後、2002年の日韓ワールドカップにあわせ、サッカーボール産業における児童労働の実態を伝えるキャンペーンを実施。多くのメディアから注目を集めたことで、「日本国内で児童労働の問題を伝える活動に大きな価値がある」と実感し、団体の法人化につながっていきました。
with Planetの藤谷健シニアエディターは次に、途上国における児童労働の現状について尋ねます。
前編でも述べたように、ILOなどが発表した「児童労働の世界推計2024」によると、児童労働に従事する子どもの数は世界で1億3800万人。4年前の約1億6千万人からは減っているものの、高止まりの状況が続いています。岩附さんは「特にアフリカでは、ほかの地域では減少傾向が見られる中で増加が続いている」と指摘しました。
岩附さんによると、要因の一つは国内紛争です。紛争が起きると住民は住む場所を追われ、親は仕事を失い、子も働いて家計を支えざるを得なくなります。さらに、気候変動の影響で思うように作物が収穫できず、生活の基盤も安定しません。自分たちではコントロールできない大きな変化の結果として、児童労働が増えているのです。
「貧しいのだから、家族で支え合うために児童労働はやむを得ない、といった声をいまだに聞くことがあります。でも、我が子を働かせたいと思いますか。他人の子だから仕方ない、ですませていいのでしょうか。子どもの権利条約の中には、子どもが危険で有害な労働から守られる権利や、教育を受ける権利などが明記されています。たとえ自分の子でなくても、大人側には子どもを守る責任があります」
この話を受けて、聞き手を務めた大学4年生の大園祥央(さえ)さんは、「アフリカ以外の地域では働く子どもの数が減少していることに、少し希望を感じます。今後の取り組みによって、一定の進歩が見られるのでは」と話します。
ここで岩附さんは「一つの希望」として、国際協力機構(JICA)とACEがガーナ政府と協力して進める「児童労働フリーゾーン」制度に言及しました。子どもの保護に関する規則が制定されている、子どもが学ぶための環境が整っているなど、児童労働の予防と解決のための仕組みが整った地域を国が認定するものです。
「地域の人々や行政の能力を高め、働く子を地域全体で支援していく」と岩附さん。SDGsに取り組む企業も多く参画しているこの制度を、将来的にはアフリカ全体へと広げたいと考えています。
ただ、途上国援助の現場は今、危機的状況にあります。
米国の国際開発局(USAID)や欧米各国による援助が相次いで停止しており、岩附さんも「これまで児童労働問題に長年取り組んできた米国労働省からの資金提供が止まり、理事を務めるNGO『児童労働に反対するグローバルマーチ』への支援も打ち切られ、非常に困っている」と明かしました。
厳しい状況の中、ACEは「あきらめない。児童労働ゼロ」を掲げたキャンペーンの一環として、クラウドファンディングを実施しています。団体の活動全般に充てるため、7月25日までに1千万円を目標に、協力を呼びかけます。
ACEが現在展開するのは、ガーナのカカオ生産地で危険な労働にさらされる子どもを支援する「スマイル・ガーナ プロジェクト」や、沖縄で子どものウェルビーイング向上を目指し、地域に根ざした実践を広げる「沖縄うまんちゅ子どもの権利推進プロジェクト」。2025年7月にニューヨークで開催される国連会議では、児童労働についてのセッションを行う予定です。
「国際援助が減り、さまざまな課題に直面する中、児童労働撲滅に対する政府の優先順位も下がっています。目標期限を迎えても決してあきらめず、アドボカシーや政策提言活動に一層力を入れていく」。岩附さんはこう意気込みます。
「経済的な支援は止められても、知識を深めていくことは誰にも止められない。そう感じました」。岩附さんのエネルギッシュな姿に、大園さんも背中を押されたようです。
ぜひ本編を聴いて、考えて、感じたことや思ったことを私たちにシェアしてください!(続きはポッドキャスト本編で。Apple Podcast/Spotify ご感想は #地球で働く をつけてSNSで教えてください)
岩附由香さん
米国大学留学からの帰国途中に寄ったメキシコで、物乞いをする子どもと出会い、大阪大学大学院在学中の1997年にACEを設立。国際協力NGOセンター副理事長、児童労働ネットワーク事務局長も務める。