女性の自立や社会参加の支援として重視されがちなジェンダー平等政策は、実は環境にもよい影響を与える可能性を秘めている。持続可能な資源の利用や、多様な視点を持った保全策につながることがあるからだ。インドの現場の取り組みを取材した。

有機農業で広がる女性の自立と収入

インド東部オリッサ州の、水田に囲まれた村の施設に、30~50代の女性6人が待っていてくれた。床の上に敷いたござに座って、話をしてくれた。

収入を安定させるため、野菜の栽培と販売をしている女性団体のメンバー=2025年5月24日、インド・オリッサ州、杉浦奈実撮影

同州では、複数の女性自助グループが野菜の有機農業に取り組む。もともと、女性たちは稲作のみを扱う農家だった。行政やNGOなどの女性支援策を受けて、トマトや青唐辛子、カシューナッツなどの栽培や販売を始め、現金収入が得られるようになった。

自助グループ「カナカ・ドゥルガ」の代表、ニシリ・シャフーさん(50)は「以前は薬の入手などにも事欠いていたが、今は子どもを私立の高校に通わせることもできるようになった」と話す。

チリカ湖では、船でイルカを見るツアーが人気を博している=2025年5月26日、インド・オリッサ州、杉浦奈実撮影

環境負荷を抑えながら暮らしを改善

この地域はインドで最初にラムサール条約に登録された汽水湖「チリカ湖」の上流にあたる。化学肥料を使わない農業は湖への環境負荷を抑えつつ、家事などの無給労働に従事してきた女性たちが社会に出るきっかけにもなっている。

市場で魚を処理する女性=2025年5月25日、インド・オリッサ州、杉浦奈実撮影

インドの報道機関「ニュー・インディアン・エクスプレス」も、同州の女性への給付金がきっかけになり、女性自助グループが川の清掃や浚渫(しゅんせつ)に取り組んだと報じた。

給付金は環境活動に使い道を限ったものではなかったが、女性たちは話し合った末、受け取った資金の一部を漁業や農業など、村のくらしを支える川を再生することに決めたという。川は土砂の流入でよどんでおり、行政に改善を求めても対処されなかったことも背景にあった。

自力で川を再生させたあと、メンバーの一部は魚の養殖に活用する計画を立て、科学的な訓練を受け始めたという。

チリカ湖で船を操る漁師=2025年5月26日、インド・オリッサ州、杉浦奈実撮影

国連報告が示すジェンダーと生物多様性の関係

国連開発計画(UNDP)は、2024年に出した報告書で、生物多様性の保全に女性がかかわると効果的であることが多いことを指摘した。

例えば、発展途上国の女性は水や食料、燃料などにかかわる作業を請け負うことが多く、生物多様性の劣化に最初に気づきやすい▽意思決定に女性を含めると保全成果の改善に貢献する▽女性にも平等な土地の権利があると、栄養失調が12~17%減る可能性があり、劣化した土地の回復や干ばつへの耐性強化につながる――といった研究結果があるという。

チリカ湖岸の市場で魚を処理する女性ら。漁業、農業など、直接、間接的に自然にかかわる女性は多い=2025年5月25日、インド・オリッサ州、杉浦奈実撮影

生物多様性に関する国際条約に基づいて採択された2030年までの世界目標でも、ジェンダー平等が重要な視点として盛り込まれている。天然資源の管理や農林水産業といった自然に深く関わる仕事で女性が重要な役割を果たしており、意思決定についてジェンダーの側面を考慮することが、生物多様性にとっても好ましい結果につながるという考えからだ。

「土地を所有・管理する女性は、家族を養い、生計を安定させ、地域社会に投資する能力も向上し、健康状態と教育水準の向上につながる」として、土地や天然資源に対し、女性に男性と平等な権利やアクセス権を与えるよう求めている。

生物多様性の喪失が女性に与える影響

一方、生物多様性が失われると女性や子どもがより大きい被害を受けがちとの指摘もある。

湿地の保全や利用に関するラムサール条約のムソンダ・ムンバ事務局長=条約事務局提供

湿地の保全や利用に関するラムサール条約のムソンダ・ムンバ事務局長は、事例を挙げながら、説明する。海岸のマングローブが失われて大きな津波被害を受けた際、男性は移住したり別の仕事を探したりするといった選択肢が多いが女性は少ない▽干ばつが発生すると水くみを担当する女性が長距離を歩いて水を探す必要がある▽水汚染で病気になった子どもや高齢者などを世話するのは女性が多い――といったことが知られているという。

ムンバ氏は「女性が立法の場に参加しなければ、こうした問題について議論する時に誰も女性が対処しなければならないことについて考えないでしょう」として、意思決定の場に女性がいることの重要性を強調した。