「子どもの声を届け、社会を変える」 高井明子さん:前編
「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト。今回のゲストは「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の高井明子さんです。

「地球のためにできること」に従事する方々にお話を聞くwith Planetポッドキャスト。今回のゲストは「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の高井明子さんです。
グローバルヘルスやジェンダー問題、人権問題や食料不安。世界にも、日本にも、これらの課題を解決すべく活動している人がいます。NGOをはじめとする「現場で働く人」をゲストに迎えるポッドキャスト「地球で働く!」。第39回からは「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」専務理事・事務局長、高井明子さんにお話を伺いました。ポッドキャスト本編はApple Podcast、Spotifyで配信しています。
今回と次回は、公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」専務理事・事務局長の高井明子さんをゲストにお迎えします。
100年以上の歴史を持つセーブ・ザ・チルドレンは、日本を含む世界120カ国で子ども支援を行う世界最大級の国際NGOです。紛争や災害時の緊急人道支援をはじめ、貧困や教育、防災などの分野で活動を展開しています。
能登半島地震やウクライナ、パレスチナ自治区ガザなどへの緊急支援も行っていますが、同団体の最大のミッションは「社会のシステムを変えていくこと」。国内外のパートナーや多様な人々と協働しながら、子どもの権利の実現を目指しています。
聞き手を務めるのは、国際関係学を専攻する国際基督教大学教養学部4年の久世実子さんです。第39回から第41回までの内容を前編として記事でもお届けします。
前編では、高井さんの経歴に関するエピソードや、セーブ・ザ・チルドレンが日本で行う活動についてお伝えします。
今回が初対面だという高井さんと久世さんですが、2011年の東日本大震災が共に大きな転機になりました。
岩手県内陸部で被災した久世さんは当時7歳。「3月11日はまだ寒い時期でしたが、電気が使えませんでした。父は電気関係の仕事があり不在で、母と姉、弟とロウソクを囲んで静かに話して過ごしました」と振り返ります。
高井さんがセーブ・ザ・チルドレンの活動に参加するきっかけも、東日本大震災でした。
1994年に米国の大学を卒業した高井さんは、エイズ患者を支援する団体に所属し、横浜で開かれた国際会議では通訳ボランティアも経験。その後、東京大学大学院で国際保健学と公衆衛生を学びます。タイでの調査研究を経て、外務省の制度で国連人口基金に入り、HIV(エイズウイルス)専門チームの立ち上げのサポートに従事。イエメンに赴任後、情勢悪化により国外退避していたタイで、東日本大震災の報に接しました。
東日本大震災での活動については、後編でご紹介します。
ここで久世さんが、高井さんのこれまでの経歴に関するいくつかの質問を投げかけます。
最初の質問は、「米国での留学生活の中で、一番楽しかったこと」。留学先はリベラルアーツカレッジの名門として知られるグリネル大学です。
「アイオワ州グリネルの当時の人口は約8千人で、ラッシュアワーといっても車が2台通る程度という、本格的な田舎。アメリカ中西部の田舎で人々がどのように暮らしているのかを肌で感じられたことは、非常に良い機会でした」
「学生生活も面白かった」と高井さん。「学生は勉強も遊びも全力。大学のミッションとして『ソーシャル・ジャスティス(社会正義)』を掲げていることもあってか、自分と似たような、少し変わったタイプの学生がたくさんいました。『自分はマイノリティーじゃない、仲間がいるんだ』と思えたことが、印象に残っている」と振り返ります。
これまで訪れた国の中で、「自分の常識が覆されたという意味で面白かったのは、国連人口基金の仕事で滞在したイエメン」だったといいます。
「日本は電化製品などが普及していて裕福な国だから、『石油がたくさん取れるのだろう』と、何人もの人に聞かれました。彼らにとって裕福な国は、石油が出る国。もちろん、すべての人がそう考えているわけではありませんが、文化の違いを実感しました」
現在の職に就いて良かったと思える瞬間は、「HIV感染予防の分野で当事者の声と社会をつないできた経験が、困難な状況にある子どもたちの声を社会に届ける今の仕事に生かせると感じた瞬間」だと答えます。
セーブ・ザ・チルドレンの新しい取り組みについて聞かれると、高井さんは団体の歴史に触れつつ、こう説明しました。
「セーブ・ザ・チルドレンは(イギリスで生まれた)エグランタイン・ジェブが1919年に創設した歴史ある団体で、彼女が提唱した子どもの権利の理念は(1989年に国連で採択された)『子どもの権利条約』につながりました。しかし、条約で保障された子どもの権利は、今なお多くの国で十分に守られているとは言えません。私たちにとっての新しい取り組みとは、いまだに実現されていない子どもの権利を守り、促進する活動を続けること。アプローチや手法は常に新しい形を模索していますが、取り組みの継続こそが、最も重要な使命です」
このほか、ポッドキャストでは好きな食べ物や趣味、これから学びたいことも語っています。ぜひ本編を聞いてみてください。
第41回の配信では、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの活動について伺います。
1986年に大阪で設立し、来年で40周年。国内外で支援活動を展開しており、日本での活動は、東日本大震災における復興支援を機に拡大しました。
高井さんによると、現在の活動の柱は大きく三つあり、「子どもの貧困問題の解決」、「防災と緊急支援」、そしてより広い意味での「子どもの権利の推進」です。すべての活動の根幹には、子どもたちには教育を受ける権利があるだけでなく、自らその権利を主張し、行使する主体であることを重視する「権利基盤型アプローチ」の考え方があります。
活動を進めるにあたり、地域のNPOなどとの連携が欠かせません。例えば、経済的に困難を抱える家庭を対象に、夏と冬の長期休暇に合わせて各5千世帯に食料品を届ける「子どもの食 応援ボックス」。外国にルーツを持つ子どもを支援する団体などを通じて情報を周知することで、支援を必要とする家庭に確実に届くよう取り組んでいるといいます。
高井さんは「支援を届けた方々からのアンケートなどを通じて浮かび上がった課題を、政策提言につなげる過程でも、他の団体とパートナーシップを組むことがあります。政策を立案・実行する側の方々とも普段から関係を築くことで、当事者の声が届くよう働きかけている」と説明し、「市民団体に対して活動支援金という形で助成を行うこともある」と加えました。
「直接支援するだけでは社会は変わりません。そこから見えてきた課題をもとに政策提言を行い、それが社会に受け入れられるよう、社会全体の意識を高める啓発活動を行います。直接支援、政策提言、社会啓発、この三つを一つのサイクルとして回すこと。これを国内外で実践しているのが、セーブ・ザ・チルドレンの強みだと考えています」
with Planetの藤谷健シニアエディターは「足元を見ても、昨年の能登半島地震もあれば、米価の高騰のため子ども食堂の開催がままならないといった課題があります。中でも、今一番気になっている課題は何でしょうか」と尋ねます。
高井さんは「子どもの置かれている課題を解決しようとする際、当事者である子どもの意見を聞かれる機会があまりにも少ないこと」と指摘。背景には、意見表明の機会が教育制度の中に十分に組み込まれておらず、社会全体として自分の考えを発信することに慣れていない側面があるといいます。
「脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれた子どもたちは、ことさら自分の意見を表明しにくい状況です。そんな子どもたちに意見を聞くときには、『あなたの意見を言っていいんだよ』『あなたの声が力になるんだよ』と丁寧に伝えます。彼らを力づける(エンパワーメントする)機会が必要だと痛感すると同時に、強いもどかしさを感じています」
ぜひ本編を聴いて、考えて、感じたことや思ったことを私たちにシェアしてください!(続きはポッドキャスト本編で。Apple Podcast / Spotify ご感想は #地球で働く をつけてSNSで教えてください)
高井明子さん
1971年、東京都生まれ。1994年、米グリネル大学卒業後、エイズ支援のNPOで勤務しながら、東京大学大学院医学系研究科で国際地域保健学、公衆衛生などを学ぶ。2000年3月、国連人口基金ニューヨーク本部に入局し、HIV感染予防に従事する。その後、ベトナム事務所などで活動。2011年3月、東日本大震災を機にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局し、国内外の「子ども支援」の道へ。2022年3月、事務局長に就任、現在に至る。