私たちの声、届いてる? 男女格差指数125位の日本で議員と語った
男女格差の現状を数値化した2023年の「ジェンダーギャップ指数」が146カ国中125位だった日本。ジェンダー平等のために何が必要か、女性たちが語り合いました。

男女格差の現状を数値化した2023年の「ジェンダーギャップ指数」が146カ国中125位だった日本。ジェンダー平等のために何が必要か、女性たちが語り合いました。
世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している「グローバル・ジェンダー・ギャップ・リポート」。その2023年版によると、男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」で、日本は調査対象の146カ国のうち125位で、2022年の116位を下回り、過去最低の順位となった。
特にスコアが低いのは、「政治への参加と権限」の分野だ。調査当時、衆院議員の女性割合は10%、閣僚の8.3%しか女性がおらず、女性の首相もこれまでに誕生していないことなどが要因だという。
ジェンダー平等の実現に向け、日本で女性の政治参加を推進することはまったなしの課題だ。だが、国際NGOプラン・インターナショナルが昨年実施した調査によれば、世界29カ国の15~24歳の女性約2万9千人のうち、97%が政治に参加することは重要だと考えている一方で、10人に1人が「女性は政治指導者になる資格がない」と思っており、5人に1人が政治への個人的な関与や参加をためらったことがある、と回答している。
男性に比べ、女性が「政治家になる資格がある」と考える傾向が弱い理由について、報告書は「社会的なジェンダー規範によって形成された傾向であることが研究で示されている」などと指摘。「女の子はこうあるべきだ」といった、性別に基づく役割や考え方を押し付けるのではなく、女性たちのエンパワーメント(力づけ)や権利を促進していくことが求められている。
女の子の権利やエンパワーメントの促進を広く呼びかける日である「国際ガールズデー」(10月11日)に合わせ、女の子のリーダーシップと政治参加をテーマに、10~20代の女性たちが女性議員らと直接語り合うイベントを10日、取材した。
開かれていたのは、「ガールズ・リーダーシップ 私たちの声を届けよう」と題したイベントで、公益財団法人「プラン・インターナショナル・ジャパン」が主催した。東京・永田町の参院議員会館の会議室に、10~20代の女性約20人と、現職の国会議員や地方議員、元議員の女性たちが集まった。
参院議員の辻元清美さんは冒頭であいさつし、「私は27年前、36歳で衆院議員に初当選して、そこからずっと活動をしています」と切り出し、女性たちに向けてこう訴えた。
「女性議員をとにかく増やしたい。議員にならなくても、女の子たちが生き生きと、自分の人生を全うできる、その道を少しでも切り開くことができればと思って活動をしてきました。政治は暮らしに直結しています。国政もそうです。ジェンダーバランスが悪いとなかなか社会の課題が解決されない。それによって、経済成長も阻害されていくと思うんです」
オンラインで参加した、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)の実現を目指す「#なんでないのプロジェクト」を始めた福田和子さんは、性教育などを通じて、高校生と接する機会も多いという。「非常によく聞くのが『声を上げても社会が変わる実感がない』という話です。理由を聞くと、大事なことは国会や官僚が決めるから。私の声なんて届かない。何もしてくれない......そんな声が上がりました」。その上で、出席した議員たちを前に、「若い女性、性的マイノリティーも含めて、その声がちゃんと届く政治をやってほしい」と訴えた。
参加者たちの意見交換では、日本における性教育のあり方や女性の政治参加をめぐり、活発なやりとりがあった。
西東京市議の納田里織さんは、23歳と21歳の娘を持つ母親で、性被害当事者が生きやすい社会の実現を目指す一般社団法人「Spring」の幹事も務めている。「包括的に自分の体を守ることやSRHRなども含めた性教育をしていかないと、日本社会は一歩も進んでいかないのではないか」と述べ、高校生や若い世代の参加者に「日本の性教育を進める上で何が一番ネックになっているのか」と尋ねた。
これに対し、プラン・インターナショナルのユースグループに所属している大学3年の女子学生は、「今の性教育は、基本的にテストのための暗記や、覚えるだけの生殖教育のようになっていると感じています。コンドームで避妊できるよと言われても、そのコンドームはどこに売っていて、いくらするのか、使い方などの実践的な教育はない」と回答。高校3年の女子生徒は、「保健体育の授業で、『タブー』な話題に触れようとすると、あえておちゃらけるなど、先生側がそういう対応をする」と語った。
女性の「生理」をとりまく課題に取り組んできた参院議員の伊藤孝恵さんは、「この国の政治家たちは性教育のことを『性行為』教育だと思っていますので、『寝た子を起こすな』と言う人はたくさんいます」「(生理は)生きている人の半分が当事者なのに誰も触ってこなかった、まさに『タブー』だった」と語った上で、課題を報じるメディアを「味方につけて」、国会で質疑を重ね、周囲の理解を得てきたという。
「学校の中でみなさんが生理の教育や性教育をやろうと思ったときに、どんな風を吹かせば地殻変動が起きるのか。保護者なのか、生徒会なのか、誰を巻き込んで動くと、仲間はより増えるのかを考えて」
途上国の医療保健体制の構築支援などを求める政策提言団体「Health for all.jp」を立ち上げた大学4年の茶山美鈴さんは、「(学習指導要領など)制度を変えれば、性教育の土壌は整うと思います。ただ、いま学校にいる先生たちは、制度が変わっただけではなかなか変わらない」と指摘。その上で、「たとえば、性教育を行っている団体などと協力して、自分たちが思い描くような性教育について、注意点などをまとめたリーフレットを作り、先生たちに配ってもらう。そうした小さな行動の一つひとつから先生たちの意識も変わっていくのではないか」と提案した。
台東区議の木村佐知子さんには、「議員になって思っていたことと違うことや、ギャップなどはあったか」との質問が寄せられた。
木村さんは4月の統一地方選に初めて立候補し、初当選。それまでは子育てをしながら、弁護士として働いていたといい、「それはそれで大変でした。保育園に入るための情報収集など、『保活』にも苦労しました」と明かした。子育てをしながら働く大変さを踏まえ、「(議員になっても)正直、あまり変わっていない」と語った。
「私自身、政治家になるというハードルを乗り越えるのに、精神的な課題が一番大きかったんです。政治家って、やっぱり男性社会。女性でも二世議員や特別な経歴を持つ方ばかりなんじゃないかと最初は思っていました。働いて自己実現するなら『民間でもいい』と考えていました」。だが、実際に一歩を踏み出し、「私でもやっていけている」との思いから、こう呼びかけた。
「みなさんは何かしら今の社会に疑問を持って、『変えたい』と思って活動をしたり、これからしようと思っていたりすると思うんです。そんなときに一つの選択肢として政治家になるということを思い出していただければ」
江東区議の酒井菜摘さんは、28歳で子宮頸(けい)がんが判明し、不妊治療や子育てを経験したことから立候補を決意した。「議員になろうと踏ん切りがついたエピソード」を問われ、当時の思いを語った。
「結婚をして子どもを持ちたいと思って妊活をしているときに子宮頸がんが分かって、闘病を経験しました。そのときに、頑張って納税してきたけど、社会的なサポートって医療費が高額にならないようにできる制度(高額療養費制度)しかなかったんです。もっとサポートしてほしいと思ったけれど、誰に声を届けていいかもわからなかったし、とにかく闘病に必死でした。そんなときに、選挙がちょうど行われていて、『どの人を選んだらこの課題を解決してくれるんだろう』と考えました。『そもそも区議って何をしているの?』『どんなことが変えられるの?』と調べてみたところ、生活に密着していることを決められて、一つひとつの困りごとを解決できるんじゃないか、ということに気付きました」
現在、アパレルブランドのデザイナーを務める小野田実佳さんは、板橋区議を1期務め、2期目は立候補しなかった。その理由を問われ、自身の経験や思いを語った。
小野田さんは2019年4月、自民党の公認を受けて立候補した。「板橋区では16年間自民党の女性議員がいなくて、私は16年ぶりの女性議員でした。地盤なしで出馬して、全区的に選挙をしたので、(当選直後は同じ党の)男性議員とぶつかるところがあり、大変な思いもしました」
「当選時は44歳でしたが、政治の世界では若いんですね。最初の3年はほとんど発言をさせてもらえない。(区議団の会議では)手を挙げて発言をすると、後から注意されるようなこともありました。『女性だから』というのもあったかもしれません。『期数が低い』ということで、ほとんど発言ができないこともありました」
小野田さんが、議員として自由に質問や活動ができるようになったと感じたのは、「次の選挙に出ない」と決めてからだったという。
包括的性教育や女性活躍をめぐる質問をすることができ、「行政とかみ合って仕事をしている」という充実感や、少しずつ周囲の男性議員から「ちゃんと仕事しているじゃないか」と認められている手応えもあったという。ただ、「(議員と自身のブランドのデザイナーの)どちらかの仕事を選ばないと、両立は難しいという思いがあり、すごく悩みました。その結果、自分の思ったことを100%実現したり、自分の能力や経験を実行でき、直接的に社会貢献ができたりするのは、(20代から携わってきた)アパレルの仕事だと考え、次の選挙には立候補しないことを決断しました。今はデザイナーの仕事に専念しています」と語った。
男性中心の政治の世界に思い切って飛び込み、選挙を経て、ようやく手にした議員の仕事。その中で経験した、思うように仕事ができないという思いーー。まさに「ガラスの天井」にぶち当たった小野田さん。だが、小野田さんはこうも語った。「自民党は与党で、政治は『数』なので、与党内で意見が通らないと結局、国だったら法律、区だったら条例は通らないということがある」「自民党の中で変えていく、というのも一つの方法かなと思います」
小野田さんは現在、自身の運営するモンゴル産カシミヤを扱うブランドで、エシカルな商品の開発を通じて、生産国で働く女性たちに適正な収入が得られる取り組みなどを進めている。区議として働いた経験については、「普通に働いていては、なかなか経験できないようなことをたくさん経験できました。最初はぶつかることもありましたが、自民党の先輩議員からは多くのことを学ばせて頂きました。日本では女性活躍がなかなか進まない中、この経験を生かし、これからも社会貢献をしていきたい」と朝日新聞に語った。
様々な意見や提言、提案が飛び交った女性たちのトークイベント。参院議員の石井苗子さんは最後に、「回数を重ねて、人数も増やして、もっと長時間でもいいですし、オンラインで見てくれる人もいるというような機会も設けて、重ねていこうと思っています」と呼びかけた。
石井さんは、「国会議員というのは、変わりつつある社会に合わせて法律をどう変えていくか、という立法府で働く男女だ」と述べた上で、立場や年代によって、人々が望む「よりよい社会」は違うかもしれないとし、(上司と部下などの立場を逆転して指導する)「リバースメンター」の重要性を語った。「(多様な立場の人々の)訴えを、その目線に立って聞いて、学習するというのが国会議員にも必要だと思います」と語った。