長い紛争が終わり、ようやく平和と復興への道を歩み始めたはずのアフガニスタンは2年前の2021年、再びタリバン勢力に新しい世界への扉を閉ざされました。中でも女性や女子の学ぶ権利、働く権利は奪われ、人権侵害は深刻な状況に陥っています。さらに、女性だけでなく、国民全体に食料不足など最悪の危機が待ち受けているといいます。シャンティ国際ボランティア会の事務局長でアフガニスタン事務所所長の山本英里さんが、長年にわたり支援を続けるアフガニスタンの現状と、支援のあり方をつづります。

目を見張る復興、そして治安の悪化

私が初めてアフガニスタンの地を踏んだのは2002年の2月。1996年にタリバンが政権を奪取後、アフガニスタンは国際社会から忘れられていました。長期にわたる戦争によりすべてが破壊されたといっても過言ではなく、人々は銃弾の跡が残る家屋、放置された軍用車両、地雷や不発弾に囲まれて生活をしていました。当時のアフガニスタンの状況を一言でいうなら、人々は「生きる権利」さえ奪われてしまっていました。

長年の紛争による教育機会の損失により、識字率は17%程度、女性においては10%にも満たない地域もありました。国の復興にはあらゆる分野で人材が必要になりますが、必要な人材が育成されるには100年はかかるのではないかと気が遠くなるような状況下で、支援活動が開始されました。アフガニスタンの復興支援にあたり、政権内外どちらもその担い手は世界各地に移住し教育を受けたアフガニスタン難民でした。祖国に住んだことのない彼らが復興のキーパーソンとして集められたのです。

学校図書館で絵本を読む女の子たちの様子=2023年8月、アフガニスタン東部地域で。シャンティ国際ボランティア会(SVA)提供

当時を知るものとしては、5年、10年と経過するにつれて、首都や都市部が急速に発展する様子には目を見張るものがありました。携帯電話やインターネットの普及、テレビ番組のチャンネル数は日本より多く、物流も年々豊かさを増し、人々には娯楽を楽しむ余裕ができていました。しかし、急激な発展と比例して、一時回復したかのように見えた治安は年々悪化し、復興から20年近く経過する頃には、国土の半数近くが武力衝突やテロ行為のリスクが高い“hard-to-reach”(アクセス困難)な地域になっていました。

活動するNGOも治安悪化の一路をたどるアフガニスタンにおいて、人々との信頼関係が思うように構築されていない焦りを感じ始めていました。「学校を建てるという活動なのに、なぜ調整にそれほど時間を要するのか」「会議の回数が多すぎないか」「会議への参加者が多すぎないか」など、事業に直結しない「対話」の機会は理解されづらく、すぐに成果に結びつかない活動の優先度はどうしても低くなってしまいます。しかし、長年の紛争で失った相互の信頼や、新参者が活動を行う上での信頼関係を構築し、意見や価値観の相違を乗り越えていくためには、「対話」がとても重要です。武力を駆使しても平和を達成することはできない。「対話」を重視した支援の展開が必要なのではないか。草の根で活動するNGOからは、そんな声が強く上がっていた矢先、2021年8月15日、私たちは「あの日」を迎えたのです。

タリバン政権の復活

現在、タリバン暫定政権は8月15日を戦勝記念日としています。2021年4月に正式に米軍が撤退を決定した直後からタリバンによる各地での反撃が開始されました。「無血開城」で掌握された主要都市も多く、タリバンは短期間の間に全土を掌握し、2021年8月15日、最後に首都カブールが陥落し、政権が奪取されました。

カブール陥落の前日、私たちが長年活動を続けてきたジャララバードが陥落するのですが、陥落当日の市内は不気味なほど平穏だったと報告されています。陥落の翌日から山岳地域を拠点にしていたタリバンの民兵が次々と市内に流入しました。恐怖で震え上がる人、内紛の終了に期待する人、未来に絶望する人、冷静に現実を受け止める人、国外へ退避を決める人。現地から様々な反応が報告されてきました。

政変直後、家を失い、屋外で生活する家族=2021年9月、アフガニスタン東部地域で。シャンティ国際ボランティア会(SVA)提供

タリバンによる政権奪取後、一般の人々の期待もむなしく、米軍・多国籍軍の撤退、各国大使館の閉鎖、国際社会による経済制裁の発動、国際社会からの支援の撤退など、アフガンの人々にとっては、未来が絶たれたような情報が連日報道されていました。娯楽・芸術・音楽や肖像画などの禁止、テレビ番組の廃止など、旧タリバン政権の再来を彷彿(ほうふつ)とさせる通達が次々と発表されました。

また、武装解除を名目とした一般市民の家宅捜査が実施されていました。突如多くの武装警官や軍人が家に押し入り尋問が行われ、中には暴力的行為を受けたり、理由もわからず拘束、連行されたりする事例もありました。タリバンの「内戦で混乱した国内の秩序や治安を回復し、安心して暮らせる社会をつくる」という宣言とは裏腹に、人々にはより一層恐怖や不安が増し、国外脱出を試みる人たちも後を絶ちませんでした。

少ない食事を分け合う家族の様子=2022年12月、アフガニスタン東部地域で。シャンティ国際ボランティア会(SVA)提供

女子教育の禁止、奪われる人権

タリバンによる政権奪取後、私たちが懸念していたのは学校教育です。旧タリバン政権下では、モスクにおける宗教教育以外は、男女問わず小学校からすべて禁止されていました。今回は、政権奪取直後に小学校6年生までの男女の学校教育についてはこれまで通り許可される通達を出しました。しかし、中等教育以上の女子の教育や女性の就労については保留とされました。公式通知はなかったものの、許可もないため、実際には行政の方でも様子を見るしかない状態になった、という方が正しいかもしれません。

当初の発表では、中等教育以上の女子の通学については、学校環境(施設が男女別に分かれているか、女性教員、もしくは高齢の男性教員のみによって授業が行われているかなど)を改めて見直したのち、再開すると教育省は説明していましたが、数か月が経過しても再開の目途は立ちませんでした。

アフガニスタンでは3月から新学期が始まりますので、2022年2月半ばからは各学校で女子の通学再開に向けての受け入れ準備が開始されました。正式な発表はありませんでしたが、誰もが再開できると信じていました。

2022年3月23日、新学期初日の朝、多くの女子たちは不安を抱えながらも学校に向いました。しかし、その数時間後にソーシャルメディアを通じて、女子の通学を再開しない旨が伝わりました。校舎に入ろうとする女子に教員や警備員が帰宅するよう促し、正門前は動揺する子どもたちであふれ返っていることや、子どもたちが泣きながら帰路につく様子が各地の学校から報告されました。

アフガニスタンでは過去20年、女性教員は教員数全体の36%にまで増加し、教育現場では多くの女性教員が活躍していました。中等教育以上になると、学校や教室は男女別になるのですが、教員の数が不足しているため、女性教員が男子生徒を教えることは都市部では珍しくない光景になっていました。女性教員の就労が禁止されれば、男子生徒を教える教員の数も不足することになります。再び教育の機会が奪われ、空白の世代が生まれてしまうことが最大の懸念となっています。

子ども図書館の縫製教室の様子=2022年11月、アフガニスタン東部地域で。シャンティ国際ボランティア会(SVA)提供

女性の就労の禁止、権利侵害の深刻化

さらに2022年12月24日、暫定政権は女性の大学など高等教育の禁止、現地NGOおよび国際NGOなどにおける女性の就労の禁止を通告しました。これにより、雇用されている女性職員が影響を受けるだけではなく、彼女たちが担っていた支援の実施が困難となり、その裨益者(ひえきしゃ)およそ1100万人の女性と子どもに影響が出た、と言われています。2023年8月の時点で、女性就労禁止は制限付きで一部緩和されていますが、依然として女性の就労は公式には認められていない状態が続いています。

これまで社会の中で活躍していた多くの女性が、自宅から自由に出ることが禁止され、生きる希望を失いつつあります。この間も、物理的な環境の整備や男性家族の帯同を義務付ける「マハラム制度」の再開などにより、部分的に女性の社会参画が認められている分野もあります。厳しい制限下でも、女性の尊厳を守り、社会参画を可能にすることを根気よく交渉し続けると同時に、彼女たちに就労の機会を提供し続ける努力が必要になっています。

人道支援の新たなアプローチ

女性の権利侵害が深刻になる一方で、アフガニスタン全土では経済制裁や自然災害などの影響により、食料危機などに直面し支援を必要とする人の数は人口の7割とも8割とも言われています。そのうち、約600万人が飢餓の一歩手前であると警告が出ており、アフガニスタンは史上最悪の人道危機を迎えようとしています。そういった中で、国際社会は、現在暫定政権に制裁を科す一方、政権に直接裨益することなく、人々の救済となる人道支援については援助の継続を表明しています。しかし、実際に現地で支援を担うNGOにとっては、これまでにない非常に困難な調整、交渉が必要になっています。

政変から2年が経過し、緊急人道支援の展開と同時に、教育分野においては中長期的に、これまで整備してきた教育制度の維持や機会の保障が必要になってきます。暫定政権の省庁には、いまだにかつての政権下で勤務していた職員が多く残っています。しかし、国際的に未承認政府である以上、私たちは暫定政権との協働は公にはできません。人道支援、援助の原則を守りながらの支援展開はできないとして撤退するNGOも出てきました。

今活動に携わる多くのアフガンの人たちは、タリバン暫定政権による教育や就労の禁止といった女性の人権侵害に対して、国際社会はあらゆる機会において撤回を求めていく必要がある、と訴えています。同時に、アフガン史上最悪の人道危機を前に、支援を継続するためにはタリバン暫定政権とのコミュニケーションを続けていくことが直面する課題の打開策を見出す上で重要だとも考えています。女性就労の制限下でも女性が支援に携わることは必要ですし、女性に参画してもらう「工夫」が必要になっています。アフガニスタンの女性の課題はタリバン暫定政権下だけで生じているわけではありません。女性の権利の侵害や教育の機会の損失といった状況を、「常態化」させないために、人道支援の原則を前提としつつ、これまでの支援の在り方にとらわれない活動継続が不可欠だと考えています。

〈やまもと・えり〉

公益社団法人シャンティ国際ボランティア会事務局長兼アフガニスタン事務所長。2001年にインターンとしてタイ事務所に参加。2002年、ユニセフに出向しアフガニスタンで教育復興事業に従事。2003年から、シャンティのアフガニスタン、パキスタン、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、カンボジア、ネパールでの教育支援、緊急人道支援に携わる。2019年から現職。