援助からの「卒業」 自国予算で医療を提供する取り組み支援の舞台裏
持続可能な開発への取り組みが求められる中、被援助国では、援助依存から脱しようとする動きがあります。グローバルファンドで働く稲岡恵美さんが解説します。

持続可能な開発への取り組みが求められる中、被援助国では、援助依存から脱しようとする動きがあります。グローバルファンドで働く稲岡恵美さんが解説します。
世界の誰もが保健医療サービスを受けられることは、個人のみならず社会の安定や成長に重要であることを新型コロナのパンデミックは示しました。一方、私たちは、紛争、気候変動、物価高、債務など、医療以外の難しい課題にも直面しています。どうすれば、自国の保健医療サービスを持続可能なものとし、社会的経済的に脆弱(ぜいじゃく)な人々の健康を守ることができるのでしょうか。感染症対策を世界的に支援しているグローバルファンドに出向してこの課題に取り組んでいる外務省の稲岡恵美さんが解説します。
2023年11月、ルワンダ政府の呼びかけにより、首都キガリで、ルワンダ保健相や財務相、市民社会、グローバルファンドや世界保健機関(WHO)などのドナー機関、企業、研究機関などから200人以上が集まり、保健関係者と財務当局との対話が行われました。2日間の会合では、ルワンダの保健医療の資金調達について議論が行われ、国民が必要とする保健医療サービスに不足している資金を、どのように捻出していくかを話し合いました。ルワンダのサンジマナ保健相は、「これは歴史的な会合だ。国内の保健医療資金をどのように効率的に調達するかを議論し、全ての人が医療を受けられるようにする」と意欲を述べています。
この会合は、国内資金動員(domestic resource mobilization、DRM)を推進する取り組みのワンステップです。会合に先立って、医療サービスを、支払い可能な価格で持続的に提供できるようにするための課題や提言が報告書としてまとめられました。そしてこの会合では、財政当局から市民社会までを含むあらゆる関係者が議論し、具体的な活動計画を決めていきます。会合では、関連する多様な論点、例えば誰が医療にアクセスできていないか、診療費用の支払い方法や価格、医療人材の確保方法や給与水準、デジタル化を通じた医療の質や量の効率化などが議論されました。
今、各国は、ドナー機関からの支援に加えて、自国の国家予算を保健分野に充てることを重視し始めており、今年は、アフリカだけでもザンビア、モザンビーク他計7カ国で同様の会合が行われました。なぜこのような動きが進んでいるのでしょうか。この背景には、人口の増加、疾病の多様化、医療の高度化によるニーズの高まりなどに伴い保健医療の必要資金が増えていることがあります。またその一方で、国内的にも国際的にも厳しい経済状況のため、資金を維持あるいは増大することが必ずしも現実的ではないという危機感があります。これは、ドナーにとっても被援助国にとっても共通する課題です。このため、今私たちが重視しているのは、国内資金動員です。つまり、援助を受ける側の国が、自国内で資金を確保して、医療サービスを継続させていく、その過程をドナーが側面支援する取り組みです。
ご紹介したルワンダでの会合は、グローバルファンドが、ドナー機関やアフリカ連合(AU)などと共に国に働きかけて開催にこぎつけました。その大きな鍵は財務当局の参加です。舞台裏では、ドナーが、ルワンダの保健相のみならず財務相に対しても働きかけを行い、持続可能な保健予算に関する対策を提案しました。「魚を与えるのではなく釣り方を教えよ」です。
国内資金の動員にはいくつかの意義があります。まず、ドナー機関が援助するプログラムに国内資金が入ることを通じて、被援助側がそのプログラムに対して、よりオーナーシップを持ち、「対等なパートナー」としてのドナーとの関係性が強化される点です。また、国内資金が組み合わさることにより、政府が自国の資金の使途や成果について「説明責任を果たす」ことを促すきっかけになります。さらに、国際協力の質の観点について、当該国の保健分野に出資する多数のドナーの間で、資金の流れが透明化され、情報共有や協力が促進され、重複を回避し支援の効果・効率が高まることにつなげることができます。
このように国内資金の動員の動きは、被援助国が、保健の歳入や支出を把握し、国家の政策や戦略に沿って資金を配分することを促します。そのような国では、ドナーが連携して、保健予算の会計の仕組みや予算編成といった公共財政管理の能力強化を支援するなど、これまで無償資金協力に際してはあまり行われなかった重要な作業が始まっています。今後は、無償の協力であっても、被支援国の政策や予算と一貫させて組み込むことが期待されています。
グローバルファンドでは、こうした保健関係者と財務当局との対話の他にも、国内資金を動員するために効果的なアプローチを模索しています。
たとえば、「コ・ファイナンス」と呼ばれるものがあります。これはドナーが資金支援するにあたって、被支援国はその一定割合を自国予算として予算措置することを要件にするもので、市民社会も含めた枠組みで要件が順守されているか相互確認することを目指しています。
また、国の政策への資金支援(例えば世界銀行などの開発銀行から財務省への資金支援)と共同で投資することを推進しています。これは、どのような共同の形を取るかによって異なるものの、開発銀行の借款プログラムの中に、国やグローバルファンドが希望する支援内容を加えることができれば支援規模が大きくなりますし、それができなくとも、グローバルファンドの支援を借款(つまり保健省ではなく財務省への資金支援)と関連付けることによって、被支援国の予算の中に組み込むことができ、これは将来的に国が予算を措置しやすくなり、つまり国内資金動員につながります。
全ての人々が適切な費用で保健医療サービスを受けられるようにするには、その活動を支える持続的な資金が不可欠です。ここで説明したような、被援助国の保健予算を増やそうとする取り組みは今後ますます重要になります。一方、各国や地域の保健医療提供体制や健康保険制度を併せて考える必要があり、また、国の政治や経済に直結する難しいものです。確立した解決策はないので、被援助国の関係者や世界の専門家と協力しながら、効果的な方法を試行錯誤しています。
コロナ後、保健分野を取り巻く状況は変化しました。人々の健康を、国際社会の安定と繁栄を維持するためのグローバルな公共財と捉えて、各国が協力して対応することが求められています。情報を共有し、共同で投資していかなければ、相互依存が深まる世界で人々の健康を維持することはできないと指摘されています。いわゆるグローバル・ノースとサウスが、対等なパートナーとしての関係性を構築すること、これが、日本の国際協力が目指すオーナーシップや持続性につながります。
(このコラムは、私個人の見解であり、組織を代表するものではありません)