台湾・台北の台湾大学のほど近く。大通りから一本入った小道沿いのビルの2階に、「女書店」はあります。フェミニズムやLGBTQの本を置き、イベントも精力的に開いています。静かでゆったりくつろげる店内には、女性たちが集まってきます。2回の閉店を経てそのたびにラブコールがわき起こって再開、さらに地域を超えて熱い支持が広がっています。

女書店は1994年に開店した。女性の大学教授たちが、フェミニズムの本を扱う専門書店を海外で見て、台湾にもあったらいいと店を開いた。場所はずっと今と同じで変わらない。1階は「女坐店」(魔女の家)というライブハウスで、両側の壁にフェミニズムの本やイベントなどのポスターが貼られた急な狭い階段を上っていくと2階が書店だ。

路地裏のビルにある「女書店」の看板=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

2度の閉店を乗り越え

店内には余裕のあるディスプレーでフェミニズムや女性関係、男性学、LGBTQの本が置かれ、ゆっくりとした静かな時間が流れている。本を読めるようソファも置かれている。経営は楽ではなく、2003年に一度閉店。だが「やめないで」という熱い声が寄せられ再び開店。そして2017年にまたもや閉店。この時もまた、すぐにまた店を開けることになる。「メディアが閉店を一斉に取り上げて、で、『続けて』という要望が押し寄せて。みんなで1千台湾ドル(約4700円)ずつ本を買って店を継続させようという運動が起こりました」と、3度目の開店から代表を務める宋順蓮さん(63)。

女書店の代表、宋順蓮さん=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

宋さんはもともと薬剤師で、今は化粧品の輸入関係の会社を経営する。「ビジネスのバックグラウンドがあったため、前の代表だった大学教授に声をかけられたんです」

「社会の構造がおかしい」と経営者に

「私はあまり本を読むほうではなくて」という宋さんだったが、女書店の始まり当初から関わっている。女性の困りごと相談や政策推進を行うNPO、婦女新知基金会がボランティアの研修をこの書店で行っており、宋さんはそれに参加したのだ。「私は仕事が大好きで、順調に昇進もしていたんですが、結婚したら夫が女性は子育てに専念すべきだ、という人で。でも私は働きたかった。それで自分は悪い母親なのだとものすごくつらくて悩みました。でも半日だけのパートタイムならばということで働きはじめたころ、ボランティア募集の記事を新聞で見て来てみたんです。研修に参加して、私は生まれ変わりました」

宋さんはここで力をこめた。「悪いのは私ではない、社会の構造がおかしいんだと学んで、それから変わりました。法律事務所で働くようになり、そして現在の会社のもとになる起業をしたのです」

宋さんが代表になってから、書店はより「経営」を意識するようになった。「以前は理想だけを追い求めている感じでしたが、今は理想と現実のバランスをとるようになったと思います」

イベント開催や小中学校図書館への書籍寄付も

女性学や男性学のレクチャー、著者を招いてのシンポジウム、台湾の先住民族の女性たちについての勉強会、読書会や映画上映会イベントを年に100回ほど開催している。

ちょうどパンデミックの時期とも重なったために、オンラインでの開催にも力を入れた。「これはとても良くて、いろんな可能性が広がりました。ニューヨークから講師を招くこともできたし、参加者も日本やフランスなどあちこちから」。今はリアルのイベントも行い、70人ほどが店内に集まる時もある。スペースを活用してシェアオフィスも運営する。

書店を出ての活動も活発に行っている。たとえば、中学校や小学校の図書館にフェミニズムの本を寄付して棚を作ってもらい、生徒たちに本の説明もする。すでに20校を超えたという。あるいは、女書店の本をトラックに積んで台湾各地を回り、各地の書店に置いてもらい、専門家を招いてレクチャーをすることもある。

女書店の店内。フェミニズムやLGBTQ関連の書籍が並ぶ=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

書店にはさまざまな人たちが訪れ、思い思いの時間を過ごす。

「あるとき、女性が1人でやってきて、ここのソファに座ってずっと泣いていたとか。スタッフたちはあえて声をかけないでそっとしておいたそうです。男性の服装で来た若者が、店内のトイレで女性の服装に着替えて、その格好でずっと店内で本を見ていたこともありました。ここって居心地がいいでしょう? そういう場所をめざしているので、いろんな過ごし方をしてもらえるのはうれしいことです」と宋さん。

書店というだけではなくて、他の人とつながれる特別の場所

2回、ここでボランティアスタッフとして働いているのは台湾大学の学生、李貽安さん(22)だ。「同性愛文学についてのレクチャーを聞きにきて、ここが良い場所だとすっかり気に入って」スタッフになることに。「リラックスできて自分の部屋みたいですよね。いろんな本があって、他人の経験を読んで、それを通じて自分が何者かもわかってくる気がします。そして書店というだけではなくて、他の人とつながれる特別の場所でもあります」

女書店でボランティアスタッフとして働く李貽安さん。お薦めの本を手に=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

あるとき、台北で働いているというドイツ人女性が怒りながらやってきたことがあった。「台湾人のボーイフレンドとけんかしたっていうんです。『何か男にわかるフェミニストの本はある?』と相談されて」。李さんが薦めたのは、彼にプレゼントをするために、男性から見たフェミニズムの本と、彼女に読んでもらうために女性を差別する男性とどう闘うかについてコミカルに描いた漫画。彼女は大満足で2冊購入して帰っていったという。

記される熱いメッセージ

女書店には、大きなサイン帳のようなノートが置いてあり、来店した人がそこにメッセージを残していく。たくさんの人が熱い思いを寄せていた。中には英語や日本語、ハングル、イタリア語などもあった。「宝物です」と宋さんは言う。

女書店の顧客たちが思いを記したノート=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

メッセージは、たとえばこんなふうだ。

「ここを歩いていると、ある神秘的な力に打たれて、涙が流れ出します。ここの力は遠くて強大です。これは私がまだ読み続け、学び続けなければならないテーマです」

「メッセージブックを見ているうちに、涙がこぼれました。長い間、性別に興味を持ち、大学で性別に関連する多くのコースを受講しました。女書店とメッセージブックを見ることで、心の中の思いを実現する力がいかに大きいかを見ることができました」

「海外で生活する中国人女性として、しばしば分裂感を覚えます。『自由』な西洋で生活しながら、故郷の何百万という女性たちと異なる経験をしていることを常に意識しています。次に台北に来た時には女書店の活動に参加できることを願っています」

「とても安全で安心する場所ですね。台湾の女性も日本の女性もハッピーになれますように」

「ユニークで唯一無二の店。またきたいです」

熱い思い、わき上がる感情がこぼれだしてくるようだ。

シンボルマークに込められた思い

書店のシンボルマークは英国の作家バージニア・ウルフをモチーフにしている。「バージニア・ウルフの作品に『自分ひとりの部屋』があります。女性には『自分ひとりの部屋』が必要ですよね」と宋さんは言う。

路地裏のビルにある「女書店」の看板=2024年3月14日、台湾・台北、秋山訓子撮影

実はというか、私(筆者)も、この場所にひかれて再訪したいと願い、そして幸運にもそれがかなった一人だ。昨年、偶然女書店のシェアオフィスを使っている団体の取材に訪れ、この場所を知り、なんとも言えない居心地の良さを感じた。そして今回の取材へとつながった。ひとりでいる自由と自立を楽しみながら、みんなとつながっている安心感を得られる。女書店はそんな場所のように思う。