クオータ制導入でかわる政治のジェンダー 台湾の専門家に聞く
台湾は女性を政治の世界に増やすため、クオータ制をとっています。その結果、政策や政治にも変化が起きているといいます。ジェンダー政策に詳しい専門家に聞きました。

台湾は女性を政治の世界に増やすため、クオータ制をとっています。その結果、政策や政治にも変化が起きているといいます。ジェンダー政策に詳しい専門家に聞きました。
日本は政治の世界に女性が非常に少ない国です。2022年の男女共同参画白書によれば、2021年の衆院選で当選者に占める割合は9.7%、参議院は2022年10月現在で25.8% 。地方議員は、2021年12月末現在で市議会16.8%、都道府県議会11.8%、町村議会11.7%です。
台湾は、女性議員を増やすために、議席の一定数を割り当てる「クオータ制」をとっています。地方議員は4人に1人が「女性枠」として、必ず女性が当選するようになっています。たとえば、男性4人、女性1人の5人の候補者がいて、女性の得票数が5位だったとしても、4位の男性は落選となり、女性が当選できる。この結果、地方議会で女性が占める割合は1998年に約18%でしたが、2022年の統一地方選後には約38%に増えました。台湾の政治制度やクオータ制に詳しい、台湾大学の黄長玲教授に、クオータ制の役割や意義を聞きました。
――日本では、クオータ制で当選した女性議員の質は低くなるのではという根強い批判があります。
非常にばかばかしい考え方だと思います。クオータ制のもとでも女性候補同士の競い合いはありますし、クオータ制を使わずに上位で当選する女性や、1回目はクオータ制で当選しても、その後自力で当選していく人たちもいます。なぜ女性議員の質ばかり問われて、男性議員の質を問わないのかと言いたいですね。
明らかに腐敗し、無能だけれども当選し続けている男性議員はいませんか? 男性の質を問わないから、日本の国会では男性が9割も占めるような状態が続いているのではないでしょうか。
G20の国のなかで、日本は女性政治家の割合が一番低いでしょう。日本の政治は、女性に挑戦する機会を十分与えてこなかったのです。私は、クオータと政治家の質を結びつけるのは、たちの悪い議論だと思っています。
もし有能ではない女性がクオータ制により当選してくる、と誰かに言われたら、私は「その女性政治家の具体名を挙げてください。そうしたら私は即座に、質に疑問のある男性政治家の名前を挙げます。コンテストをしましょう」と反論するでしょう。
――しかし、クオータ制に対する批判は国会議員の中でも強いです。
クオータ制は、政党による自主的なものも含めると100以上の国や地域が採用していて、世界のトレンドといえます。率直に言って、日本の政治家の男性、特にクオータ制に反対の強い与党の自民党の議員は「日本は特別な国であり、他の国の例はあてはまらない」と主張しているように私には思えます。
――クオータ制の議論で必ず出てくるのが、「クオータ制は男性への逆差別になる」という意見です。
全くそう思いません。クオータ制は、家父長制的な社会構造での、女性への不公正や不平等な扱いを修正する機能なのです。今の社会構造が男性に有利にできていて、システムが男性の利益を実現するようにできている。政治の世界で言うと、女性が立候補しにくくなっているのです。
女性は政治に向かないという根深い無意識の偏見があって、ジェンダーステレオタイプな見方が、女性が立候補する際のバリアーになってきたのです。クオータ制はこのバリアーを少しだけ取り除いて、女性が立候補しやすくします。
――社会の構造自体が、女性の立候補を阻んでいたというわけですね。
社会全体が男性に有利で優位性を与えるクオータ制度だったといえるのではないでしょうか。政治に限らず、女性が責任ある立場になろうとするときには、男性よりもいろいろと精査される。失敗した場合も厳しく扱われませんか?
――女性政治家が当選したら政治や政策は変わるのでしょうか。
変わります。たとえば、1990年代には台湾でも「裏庭交渉」といわれる、非公式な会合で折衝して意思決定をしてしまうことがみられました。でも本当に少なくなりました。政策も変わります。たとえば、アジアで同性婚を合法化しているところに、台湾とネパールがあります。ネパールもクオータ制をとっていて、国会での女性の割合は3割を超えています。相関関係があるのではないでしょうか。
――台湾のさらなる課題はありますか?
まだまだやるべきことはたくさんあります。今は4人に1人が「女性枠」ですが、定数が3人以下の選挙区では女性枠はなく、女性もなかなか立候補しません。なので、3人に1人を、「女性枠」ではなくて、「もう一つの性」にするべきです。女性が多数の場合は「男性枠」となります。
――若い人のジェンダーと政治に関する意識は変わっているのでしょうか。
私は「ジェンダーと政治」という授業を20年以上やっていますが、最初はこの授業をとる学生はほとんどが女性でした。ですが、今は4分の1から3分の1が男性です。また、学生の専攻も、社会学や政治学、法学だけでなく、科学や医学などより多様になっていますし、学生のジェンダーに対する意識は高まっているのです。