100万人が犠牲になったと言われるルワンダ大虐殺から30年、ルワンダは奇跡的な成長を遂げています。それでも保健医療分野にはまだ課題が多く残っています。誰一人取り残さない保健医療、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に向けて、革新的なアイデアと技術で課題に取り組むルワンダについて、セーブ・ザ・チルドレンの髙木加代子さんが報告します。12月12日は「世界ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー」。髙木さんは、ルワンダの取り組みから多くのことを学ぶことができると言います。

ルワンダ東部、タンザニアとの国境にほど近いマハマに、ルワンダ国内で最大の難民キャンプがある。主に混乱が続く隣国ブルンジからの避難民ら6万人超が暮らしている。この難民キャンプでは、毎月平均で140人の新生児が生まれている。赤ちゃんの中には、低体重で生まれてくる子もいる。帝王切開が必要になることもあれば、出産にともなう合併症で母子の生命に危険が生じることもある。

難民キャンプ内であっても、医療センターの産科病棟があり、新しい命と母親を守るためサービスの提供が続けられている。だれもが、どこにいても、経済的な負担なく、質の高い保健医療サービスが受けられることを目指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)と呼ばれる取り組みだ。UHCは2005年に世界保健機関(WHO)が提唱した概念で、この20年間で保健・医療関係者や政策担当者らの間でゆっくりと浸透し、カバー率も上昇傾向にあった。しかし、コロナ禍を境に、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ地域)で、あるいはルワンダの地で、UHCを目指す取り組みは後退しかねない状況にある。

「アフリカの奇跡」

ルワンダの国名を聞いたとき、多くの人が思い出すのは、ルワンダ大虐殺ではないだろうか。社会的・政治的な緊張や分断が、暴力的な形で表面化した出来事である。1994年4月6日以降のおよそ100日間で、推計80万人から100万人が犠牲になり、また多数の避難民が発生した。

大虐殺の悲劇から2024年で30年になるが、同国は、その負のイメージを覆す勢いで復興を遂げてきた。コロナ禍で経済成長が一時的に停滞したものの、2021年には10.9%という高い経済成長率を達成し、2022年と2023年も8%台の成長を続けている。政治の安定、それに伴う治安の改善、高い経済成長率からルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれている。

政府は経済改革、インフラ整備、デジタル経済の推進、観光産業の振興といった取り組みを進め、国際社会は農村開発やインフラ整備、人材育成などの分野で同国を支援してきた。ルワンダの復興には、日本も大きな役割を果たしてきた。2021年のルワンダに対する経済協力をみると、日本は第4位にあたる。ルワンダ政府は現在、国家戦略「ビジョン2050」 を掲げ、2035年までの中所得国入りを目指し、あらゆる層の国民が質の高い生活の恩恵を受ける「誰も取り残さない社会」の実現を目指している。UHCの実現はその重要な政策の一つに位置づけられている。

一方で、冒頭で述べたように、UHCを目指す取り組みは後退しかねない状況にある。経済協力開発機構(OECD)によると、サブサハラ・アフリカ地域への政府の途上国援助(ODA)は、2020年こそ約662億1570万ドルと過去最高額に達したが、2021年は約587億2968万ドル、2022年には約578億3722万ドルと、2年で約12%減少した。この傾向はルワンダにも当てはまる。同国へのODA拠出額は、2020年の約16億6742万ドルから、2022年には約10億7549万ドルと約35.5%減少し、パンデミック以前の水準を下回った。

22人のうち1人は5歳を迎えられない

1990年以降、世界全体で5歳未満の子どもの死亡率は約60%減少した。しかし、サブサハラ・アフリカ諸国やアジアの一部地域では今も死亡率は高い。WHOや世界銀行による報告書「2023 UHC グローバルモニタリングリポート」によると、アフリカ地域では、必要な医療サービスを受けられているかを示すサービスカバレッジ指標は上昇しているが、他の地域と比較するとその改善率は低いままである。さらに、パンデミックの収束後も、医薬品や医療資材を確保する予算が不足し、保健医療サービスへのアクセスには格差が存在する。

高度経済成長を続けるルワンダであっても、保健医療分野には多くの課題がある。子どもを含む人々の健康を守るため、ルワンダ政府はUHCを推進し、「mutuelle de santé(健康のための相互扶助)」と呼ばれる地域密着型の健康保険制度を1999年から導入した。この制度は日本の国民皆保険制度に似た仕組みで、住民が保険料を地域の健康基金に支払い、必要な時に医療費を基金から補塡(ほてん)する。保険料は収入に応じて設定され、最貧困層は無料や低額でサービスを受けられる。現在、この制度にはルワンダ国民の84%以上が加入し、医療アクセスの改善に貢献している。また、政府はすべての地域に、簡易的な診療所であるヘルスポストを設置する取り組みを進めており、小児疾患を含む基礎保健サービスに、より身近にアクセスできることを目指している。

こうした取り組みにより、乳幼児の死亡率は減少傾向にあるが、それでも22人に1人の子どもが、5歳の誕生日を迎える前に亡くなる現実がある。主な原因は、肺炎、下痢症、栄養不良、マラリアなどだ。こうした疾患は、ワクチン接種、衛生環境の改善、適切な栄養摂取、そして基礎医療へのアクセスの向上で予防・治療できる。

マハマ難民キャンプ内で生まれた生後1日の赤ちゃん=2024年4月、ルワンダ・マハマ

加えて、都市部には比較的多くの保健医療施設が整備されている一方で、農村部では施設整備が追いついておらず、アクセスに時間がかかるという課題がある。特に妊産婦や新生児ケアの分野では農村部で医療インフラや医療従事者が顕著に不足し、医療サービスの質やアクセスに悪影響を与えている

3人に1人の子どもが慢性的な栄養不良

ルワンダでは、子どもの栄養をめぐる課題も深刻である。妊娠開始から2歳までの期間は「人生最初の千日」と呼ばれ、子どもの成長と発達に重大な影響がある。この期間に十分な栄養が提供されることで、子どもは健全に成長し、免疫力が強化され、病気にかかりにくくなる。逆にこの千日に栄養不良が生じると、慢性的な栄養不良である発育阻害や、急性栄養不良である消耗症といった健康にかかわる深刻な問題を引き起こす。さらに、脳や身体の健康な発達を妨げ、その後の就学や就労に大きな影響を及ぼすなど、将来にわたって子どもたちに負の影響を与える。

現在、ルワンダでは5歳未満の子どものおよそ3人に1人(約33.1%)が発育阻害の状態にあり、特に農村部でその割合が高い。子どもたちに必要な栄養を与えることは、子どもたちの命を守り、彼らが持つ可能性を最大限に引き出すための重要な要素であり、さらなる取り組みが必要とされている。

また、ルワンダは、国全体で13万人以上の難民を受け入れており、その多くが隣国のコンゴ民主共和国とブルンジからの避難民だ。キャンプ内ではNGOや国際機関によって医療サービスが提供されているが、難民キャンプ内の医療施設は対応しきれない状態にあり、二次・三次医療への紹介も困難になっている。持続可能で費用対効果の高い医療サービスの提供が急務となっている。

看護師が民間クリニックを起業する「ナースプレナー」

国民皆保険制度に類似する公的サービスが導入されたことで、新たな課題も生じている。公的サービスに低所得者が無料または安価な料金でアクセスできる制度ができ、医療サービスへのアクセスが向上した半面、ヘルスポストでは人々が長蛇の列をつくり、診察を受けるまでの待ち時間が数時間におよぶこともある。公共の医療施設への負荷が高くなっている現状への対策として、低コストの民間クリニックの設立が進められている。

低コストモデルの民間クリニックでは、地域の看護師を、看護師兼起業家の「ナースプレナー」(「ナース〈看護師〉」と「アントレプレナー〈起業家〉」を組み合わせた造語)として育成し、クリニックの経営を担ってもらうことで、低コストで地域に根ざした医療サービスの提供を目指している。

医師ではなく看護師が運営することで人件費を削減するほか、民間パートナーシップの活用で費用を抑えて医療器材を調達する、ITを活用してサービスを効率化するなど、コスト削減の工夫をする。クリニックでは、母子保健や小児疾患の治療、予防接種、栄養管理、家族計画など、質の高い基礎保健サービスを低価格で提供する。利用者として想定されるのは、難民キャンプや周辺地域の住民であり、こうした地域での医療格差の解消を目指している。

この取り組みは、南アフリカ共和国の事例を参考に、社会的企業との連携によるフランチャイズ型の運営モデルを採用している。看護師は訓練を受けた上でクリニックの運営を担い、クリニックが安定した収益を上げることで持続可能性を確保する仕組みである。この仕組みにより、ナースプレナーは単なる支援の受益者としてではなく、地域医療の主体となる力を持つ人材となることが期待される。このモデルはルワンダ政府によっても推進されており、クリニックに必要な土地や既存の施設を政府が提供するなど、強力な官民連携が行われている。

現在、こうした民間の立ち上げに必要な資金は支援や寄付に依存しており、持続可能なビジネスモデルの確立が大きな課題だ。低コストモデルの民間クリニックが、自立的に運営を継続し、その収益で新たな診療所の設置に必要な資金が再投資されるようになれば、ルワンダの社会全体で、官民の連携を柱として自立的に医療サービスを広げるモデルが構築できるかもしれない。将来的には、ルワンダ近隣の他国への展開にもつながる可能性がある。

新しく開設された低コストプライベートクリニック=2024年4月、ルワンダ・マハマ

血液パックのドローン配送で妊産婦死亡が減少

冒頭で紹介したマハマ難民キャンプでは、ドローン配送を手がけるアメリカ企業ジップラインとNGOの提携が、難民キャンプの医療サービスに大きな変化をもたらしている。

ジップラインはルワンダ保健省と提携し、4年ほど前から薬品や血液の配送サービスを展開している。ジップラインは、必要な医療物資を迅速に届けることを目指し、緊急時には30分以内で配送を完了することができる。ジップラインの医療物資の配送拠点は、マハマの難民キャンプから車で約1時間離れたカヨンザの医療倉庫に隣接しており、医師がテキストメッセージや電話で注文すると、ドローンが5分以内に自動で飛び立つ。

ドローンは、500ミリリットルの血液パッグ3個分に相当する1.6キロまでの医療物資を運搬できる。最高時速113キロで飛行し、到着2分前には受取人に通知が届くため、すばやく受け取りの準備もできる。

ジップラインのサービス開始後、ルワンダ国内の病院では血液製品の廃棄率が67%減少し、産後出血による母親の死亡率が51%減少したとされる。これらの成果は、特にリソースが限られた地域における母子の健康に大きな影響を与えている。

こうした取り組みに加え、難民キャンプ内に医療センターを新設し、帝王切開や輸血を含む包括的な産科および新生児ケアが提供可能となった。それ以前は、高リスク出産の場合、約2時間かけて隣町の病院に移送していたが、現在ではキャンプ内での対応が可能となり、母子の死亡率および産後合併症が大幅に減少した。

配送拠点から飛び立つ医療用品や血液を積んだドローン=2024年4月、ルワンダ・カヨンザ

ドローンで配送された荷物を開封し、血液パックを確認する検査技師=2024年4月、ルワンダ・マハマ

すべての子どもの命が守られる世界を

世界では毎日約6500人の新生児が生後28日以内に命を落としており、その45.5%はサブサハラ・アフリカ地域に集中している。子どもたちが健康に成長できる世界を実現するためには、誰もが必要な保健医療サービスを受けられる環境が必要だ。コロナ禍以降、国際的な支援額は減少傾向にあるが、ルワンダでは革新的な方法で課題に取り組む事例が生まれている。「奇跡」と呼ばれるルワンダの、復興を成し遂げた力と、新たな課題に対する型にとらわれない取り組みから学び、これからもその挑戦を積極的に後押ししたい。

マハマ難民キャンプの医療施設で助産師が新生児をケアする様子=2024年4月、ルワンダ・マハマ