救急車と患者をマッチング ベンチャー企業が国家的な社会課題に挑戦
日本のような救急搬送のインフラが不十分なケニア。配車アプリ「ウーバー」のような技術を使って、患者と救急車をマッチングするサービスをするベンチャー企業があります。

日本のような救急搬送のインフラが不十分なケニア。配車アプリ「ウーバー」のような技術を使って、患者と救急車をマッチングするサービスをするベンチャー企業があります。
万一のときに119番にかければ、救急車が速やかに駆けつけてくれて、適切な医療機関に搬送してくれる。日本では当たり前だと思っているサービスは、世界では必ずしもそうではありません。ケニアでは、救急車を行政だけでなく病院などが保有していて、どの救急車が空いていて、どこにあるのか、誰にも分からない状況でした。そんな課題を配車アプリの「ウーバー」のようなテクノロジーを使って解決しようとするベンチャー企業があります。
ケニアの首都・ナイロビの高級住宅地にオフィスを構える2016年創業のベンチャー企業「rescue.co(レスキュー・ドット・コー)」。利用者と空車をマッチングする配車アプリ「ウーバー」のようなテクノロジーを使って、傷病人を速やかに病院に運んでいる。
ガラス張りの部屋にあるモニターの前には、Tシャツやカットソー姿のオペレーターが4人座っていた。電話がかかってくると、ヘッドホンをつけてしゃべり出し、場所やけが人の容体などを聞き取る。
地名を入力すると、その一帯の地図が表示され、近くにいる救急車のアイコンが出てくる。地図には道路の渋滞情報も反映される。空いている救急車の位置と照らし合わせて、近くの病院への搬送につなげる。ウーバーの救急車版といったイメージだ。
オペレーターは24時間態勢で対応している。救急車の所有者に協力を求め、それぞれの車両に発信器と通信端末を配備し、救急車の状況や位置を把握できるようにする仕組みを整えた。
ケニアでは救急車を所有するのが行政だけでなく、数台だけ所有する起業家や病院などバラバラで、日本のように行政による一括管理がされていない。そのため、救急搬送が必要なケースでも、今、どの救急車が空いていて、どこにあるのかを把握するのが難しく、通報から搬送まで数時間かかることも多かった。
レスキューが2017年9月に始めたサービスには、今ではケニア全土で800台の救急車が登録されている。ナイロビ市内では通報から15分以内の救急車の到着を目標に掲げる。
救急車の「質」を保つためにも、レスキューでは出動回数に応じて最低でも1年に1回、設備の点検をする仕組みも整える。取材に行った日も、オフィス前には2台の救急車が並び、スタッフ数人が数十分かけて点検していた。
プロバイダー・パートナーシップ・マネジャーで救急救命士でもあるジューン・エヴァ・キティヴォさんは「地方にある救急車も、スタッフが現地まで出向いて集中的に点検している」と話す。
レスキューの共同創業者のケイトリーン・ドルカートさんは、米国のシカゴ出身。もともとは医師を志していたが、東アフリカでマラリア治療薬へのアクセスの問題に関わる中で、医療サービスを受けられない問題のネックになっているのが救命救急だと気がついたという。「より早く治療を受ければ、それだけ助かる可能性が高くなる。それをケニアでどう実現できるかを考えた」
サービスを利用するには、原則として会員登録が必要。緊急時の支払いは不要だが、月々の会費を支払う必要がある。大きなNGOなどが費用を一部助成するケースや、企業や大使館、学校などが契約して、従業員や大使館員、生徒らが万一の時にサービスを受けられるようにするケースも多い。
ドルカートさんは「政府とも緊密に連携し、お金持ちでも貧しい人でも、都会でも田舎でも、どんな人でも質の高い救急サービスを受けられるようにすることを目指す。どの国でも、効率的な運用は官民のパートナーシップによることが多い。最も持続可能な方法はビジネスであることだと信じています」と力を込めた。