化石燃料に頼らない、新しい発電方法 国内外で広がる動きとは?
化石燃料に代わる、新しいエネルギー源を模索する動きが国内外で広がっています。その取り組みを取材しました。

化石燃料に代わる、新しいエネルギー源を模索する動きが国内外で広がっています。その取り組みを取材しました。
環境への影響が無視できなかったり、安全性に不安があったり。日本で主力とされる発電方法はどれも、持続可能性の懸念がつきまとう。それならば、と身近なもの、捨てられるものを電気に換えることで、地球温暖化対策になると期待される取り組みが国内外で進んでいる。広がりはまだまだ小さいが、着実に進む歩みを取材した。
JR渋谷駅(東京都渋谷区)直結の高層複合施設「渋谷ヒカリエ」。地下2階のスイーツ売り場を抜けた先に、トイレや授乳室などが入る一角がある。
入り口近くの床に目を向けると、こんなメッセージが。
「ここをふむと とりさん がでてくるよ!!」
約30センチ四方のパネルを踏む。すると、目の前の壁にある鳥かごのオブジェの中で、鳥の形をした二つの青白い光がふわっと浮かんだ。
トイレは待ち時間が生まれやすい。退屈しがちな子どもたちに楽しく過ごしてほしいと、ヒカリエ開業時から設けられている仕掛けだ。
ここで使われているのは、「発電床」という商品。床を踏むだけで電気を生み出し、ライトを点灯させる。
「グローバルエナジーハーベスト」(神奈川県藤沢市)が開発した。「捨てられているエネルギーを有効活用したい」という速水浩平社長(43)の思いが込められている。
「小さいころから発明家気質だった」と話す速水社長。慶応大在学中、小学生の時から書きためてきた「発明」の中から、特におもしろいと思う六つを選び、研究テーマに据えようと考えた。「絶対に盗まれない金庫」や「二度寝しない目覚まし時計」といった中に、「音力発電」があった。
文字どおり、音で発電させるというもの。小学生のころ、電気でモーターは回り、回ったモーターは電気を生み出す、という相互関係を学んだ。同じように、スピーカーが電気で音を鳴らすのであれば、音から電気をつくることもできるのではないか、と考えた。
目を付けたのは、圧力を加えると電気が発生する「圧電素子」。100円ライターやガスコンロの着火に使われる。これに音の振動を圧力として伝えることで、発電する仕組みを考案した。
しかし、音が持つエネルギーはとても小さい。耳障りに感じる騒音でも、「耳の感度が良いだけ」。試作品では、大声を出してようやく小さなランプがともった。「これでは実用化は難しい」
そこで「振動」そのものに着目して商品化に成功したのが、「発電床」だった。人の移動にともなって生じる圧力がもととなり、音に比べればはるかにエネルギーが大きい。
速水社長によれば、身の回りの様々なモノがインターネットにつながる「IoT」の進化に伴って必ず課題になるのが、電源の確保。電池でも発電は可能だが、設備によっては入れ替えに多くの人手が必要だ。速水社長は「『自己発電(エネルギーハーベスティング)+IoT』が今後、もっと大事になる」と踏むだけで電気をつくる発電床の意義を強調する。
発電床の使い道は様々だ。ヒカリエのようにライトを点灯させるだけでなく、ベランダに置いて警報器と接続すれば防犯ブザーにもなる。住宅や介護施設の室内に設置し、介護が必要なお年寄りが室内のどこにいるかを遠隔で把握するためにも使われている。
また、日本政府の途上国援助(ODA)事業の一環として、ブラジルのクリチバ市の交差点や歩道に発電床を設置。自転車の接近を知らせたり、夜間にLED誘導灯を発光させたりするシステムの導入に協力した。
それでも速水社長は音力発電にこだわる。「音くらいのエネルギーで効率良く発電することができれば、あらゆる振動から電気をつくることができる」
延長線上として、速水社長は波の振動を利用した「波力発電」の研究にも力を入れる。「開発が進み、日本全国に波力発電が広まれば、火力発電に替わるエネルギーにもなり得る。温室効果ガスの削減にもつなげられるかもしれない」と期待を寄せる。
見渡す限り農地が広がるなか、ぽつんと巨大な2棟の円柱形施設と発電装置が並ぶ。岡山県笠岡市の「かぶとバイオファーム発電所」だ。県内有数の酪農地帯を抱える笠岡湾干拓地に敷地面積約1ヘクタールの国内最大級のバイオガス発電所が2024年9月に完成した。
この干拓地では1万頭超の牛が飼育され、県内の牛乳の4割以上を生産している。しかし、飼育時に出る牛ふんの有効活用と臭気対策が長年にわたって課題となっていた。
そんな中、笠岡湾干拓地の7牧場と三和電気土木工事の関連会社が設立した「かぶとバイオマスプラント有限責任事業組合」が55億円を投じてバイオガス発電所の建設に着手。干拓地の民有地約3ヘクタールを取得し、約1ヘクタール分に整備した。毎日約4300頭分の250トンの牛ふんを活用する。
同所では一般家庭3500世帯分の発電が可能で、長年にわたって地域の課題とされた臭気の低減と環境に優しい循環型農業との両立を目指している。
発電の仕組みはこうだ。まず農場から運び込まれる牛ふんを、受け入れ棟と呼ばれる施設内の地下タンク(深さ6メートル)に貯留。その後、タンク内に加水して原料をポンプで容易に移動できるようにする。発酵槽と呼ばれる円柱状の施設に移送し、空気を遮断した状態で30日間以上発酵を促す。
発酵槽からメタンガスを送る際に不純物などを取り除いて1日11トンのバイオガスを生成。生成されたバイオガスは、炭化水素や窒化酸化物など有害物質の発生を抑える方法で燃焼され、エンジンを回して発電する。
ガス採集後の残液については肥料として再活用。蒸留水については1日約100トンを放流する。また発電所内では二酸化炭素の削減にも取り組み、年間約6千トン分の削減効果が見込まれるという。
年間発電量は、一般家庭約3500戸分の消費電力に相当する1230万キロワット時。全量を売電し、年4億8千万円の売り上げが見込まれるという。
発電所の井上篤・業務執行社員は「この地域では牛ふんの臭気は長年の課題でした。この施設ができることで、臭気を減らすとともに、持続可能な発電施設としても寄与していきたい」と話す。
バイオガス発電は化石燃料による発電に比べ、資源の循環や温室効果ガスの排出抑制につながるとされる。経済産業省によると、国内では2024年3月時点で7.5ギガワット分が導入されているという。海外でも導入が進められており、日本のメーカーも参加している。
10月には、自動車メーカー「スズキ」がインドで、地元の乳業組合とともに、牛ふんを原料とした自動車用燃料を製造販売する五つのバイオガス生産プラントの設置に向けた協定を結んだ。同社は今後もインド国内でバイオガス発電事業を進めていくことを表明した。
同様に自動車メーカー「トヨタ自動車」は2023年にバイオガスから水素を製造する装置をタイで初めて導入。鶏ふんや廃棄食料由来のバイオガスから水素を製造する取り組みを進めるなど、それぞれ活動を実施している。