ミニ四駆に輝く元少年兵の目 日本人教師が伝えたいこと:アフリカと私
第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を前に、アフリカ大陸に情熱を傾ける人たちに思いをつづっていただきます。第8回はユニークな教育支援を続ける中村雄一さんです。

第9回アフリカ開発会議(TICAD9)を前に、アフリカ大陸に情熱を傾ける人たちに思いをつづっていただきます。第8回はユニークな教育支援を続ける中村雄一さんです。
今年8月、アフリカの開発課題をテーマにした国際会議「第9回アフリカ開発会議」(TICAD9)が横浜で開かれます。アフリカに魅せられ、起業や支援、交流などの活動を重ねている人たちが、世代を超えて交流や協働を進める企業「GENERYS」。その分科会であるアフリカワーキンググループ(AWG)のメンバーに「アフリカと私」というテーマでアフリカとの関わりや寄せる思い、将来の夢などを書いていただきます。第8回は、ルワンダやコンゴ民主共和国で教育支援活動を展開するNPO法人「なかよし学園プロジェクト」の中村雄一さんです。
幼い頃、私は貧しい家庭で育ちました。海外に行くなど夢にも思わず、ましてやアフリカへ行くことなど一生ないだろうと考えていました。しかしそんな私が今、アフリカの人々と共に生き、平和活動を続けています。
私のキャリアの出発点は、通信制高校の教師でした。藤沢とおる先生の漫画「GTO」に憧れ、サラリーマンを辞めて教育の道へ進み、不登校やいじめ、鑑別所や少年院を経験した生徒たちが、社会に再び踏み出せるように支援することが私の使命でした。「がんばりたくてもがんばることが難しい生徒を応援する」——。この思いを胸に、多くの生徒と向き合ってきました。
その後、私は東日本大震災での教育ボランティアをきっかけに国際的な教育支援活動を始めました。2013年にはカンボジアで活動を開始し、「なかよし学園プロジェクト」というNGO(2019年にNPO法人化)を設立しました。
そんな中、アフリカ・ルワンダからオファーを受け、現地で授業を行う機会を得ました。私は、わたあめを使って物質の状態変化を教えたり、かつお節を使って密度の概念を伝えたり、日本で培ったユニークな教育手法を駆使しながら、子どもたちに「学ぶ喜び」を届けました。
2019年、そんな私に新たな挑戦の機会が舞い込みました。「元少年兵たちに授業をしてほしい」。私はこれまで日本の授業の中で何度もストリートチルドレンや少年兵の話を取り上げてきました。しかし、実際に彼らに授業を行うことになるとは思いもしませんでした。「私は彼らに何を教えられるのだろうか?」と自問自答しました。
私は「モノを壊すことを教えられてきた子どもたちに、ものづくりの楽しさを伝えよう」と決意しました。プラスチックモデルなどで有名な「タミヤ」から提供を受けた60台のミニ四駆を携えて、コンゴ民主共和国北キブ州ゴマへ向かいました。授業は大成功。少年兵だった子どもたちが、ミニ四駆を作り、走らせる楽しさに夢中になっていく姿を目の当たりにし、彼らの心に新たな希望の種をまくことができたと感じました。
その後も活動は続きました。新型コロナウイルスのパンデミックが世界を襲い、誰もが活動を停止する中で、私は13回にわたりアフリカへ渡航し、計5万3288枚のマスクを届け、ウイルス予防の授業を実施しました。その支援はウガンダのルワムワンジャ難民キャンプにも及びました。この頃から私たちの団体「なかよし学園」はアフリカを対象とした教育支援の専門性を高め、紛争地など活動が困難とされる地域でも支援を続け多くの現地の人の大きな力になっていきました。
2021年5月、コンゴ民主共和国でニーラゴンゴ火山が噴火した際には、日本企業と協力し、被災者の命を支えるための災害支援活動を行いました。東洋水産の「マルちゃん赤いきつね」や、長期保存可能でカロリー補給ができる井村屋の「えいようかん」を、企業側と協力して届け食料支援を行いました。また、テレビ朝日の人気番組「アメトーーク!」と連携し、難民キャンプの子どもたちに笑顔を届けるプロジェクトも実施しました。
こうした活動が評価され、2023年11月にはイギリス・ウィンザー城でInternational Council for Caring Communities(ICCC)が主催する国際会議に招待され、故エリザベス女王の居城に宿泊しながら私たち「なかよし学園」の活動について報告する機会を得ました。その後、2024年には国際連合経済社会理事会(ECOSOC)、国連システム学術評議会(ACUNS)、ユネスコ協会が主催する会議などでスピーチを行い、世界の片隅で苦しむ人々の実情を広く伝えました。
2024年9月、私たちは南スーダンでの活動に従事し、現地NGOや国連機関と協力し、北部のマナジャン難民居住区で教育支援活動を実施しました。その際、日本側パートナーとして日本郵便や長崎県壱岐市と提携し、壱岐島の小学生たちと共同開発した「なかよしふりかけ」を持参しました。難民居住区の人々に、日本の小学生が開発したふりかけを通じて「おいしい幸せ」を届けました。現地は日本人がこれまで訪れたことのないほど危険な地域。私自身もマラリアにかかり、ナイル川の増水による洪水で命の危険にも直面しながらやっとの思いでたどり着きました。そこで人々に振る舞ったふりかけご飯は、まさに奇跡のひと匙(さじ)となり、難民の人々に希望を与えたと信じています。
このように私たちは、「NGO総合商社」として日本の優れたサービスや商品を届けたり、「教材」として活用したりして世界中で教育支援活動を行っています。
多岐にわたるコラボレーションを通じて、日本の皆さんにアフリカの国々を知ってもらいたい、アフリカに対する心の敷居を低くしたいと思っているのです。正直に言うと、初めてルワンダを訪れた時、私自身も不安や怖さを感じました。アフリカというと、まだまだ日本にとっては遠い世界で、どうしても構えてしまう人も多いと思います。
でも、だからこそ私は伝えたいのです。アフリカは決して特別な人だけが行ける場所ではありません。誰でも行くことができます。アフリカに限らずどの国でも、心を開いて向き合えば、現地の人々と自然に友達になることができます。実際に出会った人たちは、皆とても温かく、私を家族のように迎えてくれました。
この世界では、想像もしていなかった出来事が次々と起こります。ある日突然始まる戦争や、気候変動によって家を失う人々が現れます。私自身、2021年にはコンゴ民主共和国で戦争に巻き込まれ、2024年には南スーダンで気候変動による大規模な洪水に遭い、命の危険を経験しました。ウクライナやガザなど、日々伝えられる戦争のニュースは、どこか遠い世界の話のように思えるかもしれません。でも、私が現地で見てきたのは、「当たり前の毎日」が一瞬で壊れてしまう現実です。
災害リスクや戦争リスクは世界のどこにいても避けられないものになっています。そしてそれは、日本に住む私たちにとっても、決して無関係な話ではありません。私たちの暮らしもまた、ある日突然、同じような危機に直面する可能性があるのです。
それに、もはやアフリカはかつてのような途上国ではありません。経済開発が進み、いつか日本がピンチの時には助けてくれる未来のパートナーだと思います。私はいつも「困った時はお互い様」という日本の心を教えています。だからみなさんにも今、自分にできることでアフリカを応援してほしいと思います。
アフリカに行くなんて想像もしなかった私が、今では専門家としてアフリカと日本をつなぐ架け橋になっています。「アフリカ」は一つの国ではなく、54カ国を抱える大陸です。アフリカ各国の歴史や文化を知ることから始めませんか。アフリカと共に生きる世界をつくりましょう。私もこれからもずっと彼らと共に、平和の礎を築き続けます。アフリカで待っています。