菅義偉氏、グローバルヘルス推進へ「技術の活用は日本の強み生かす」
首相在任中、新型コロナウイルスの感染拡大の対応に追われた菅義偉氏。ワクチンの公平な供給のあり方や国際保健への貢献など、「ワクチンと途上国支援」と題して語った。

首相在任中、新型コロナウイルスの感染拡大の対応に追われた菅義偉氏。ワクチンの公平な供給のあり方や国際保健への貢献など、「ワクチンと途上国支援」と題して語った。
首相在任中、新型コロナウイルス感染症対策に追われた菅義偉氏が、「ワクチンと途上国支援」をテーマに講演した。日本政府の当時の対応を振り返った上で、国際保健(グローバルヘルス)分野への日本の貢献を強調。ワクチンを接種現場まで届けるための「ラストワンマイル」支援などにおいて、「新たなイノベーションの活躍を含め、官民の連携が極めて重要不可欠だ」と語った。
菅氏が語ったのは、「グローバルヘルスを応援するビジネスリーダー有志一同」が主催する会合「グローバルヘルス・アカデミー」。この日は第5回の開催で、11月20日に東京都内で開かれた。
「有志一同」は、コンサルティング会社「シブサワ・アンド・カンパニー」最高経営責任者(CEO)の渋沢健氏が代表を務め、世界の保健医療分野の課題への貢献を目指す日本企業の経営者らが参加している。
菅氏は冒頭、「新型コロナを過去のものにしてはならない」と述べ、将来のパンデミック(世界的大流行)への予防と備え、対応を強化するべきだと訴えた。
新型コロナワクチンをめぐっては、世界的な獲得競争が起き、日本国内でもワクチン不足が課題となった。首相だった菅氏が2021年4月、米ファイザー社CEOと電話協議し、ワクチンの追加供給を要請することもあった。一方、途上国にワクチンが行き届かない「ワクチン格差」の課題も浮き彫りとなった。
菅氏は、途上国などに新型コロナワクチンを分配するための国際的な枠組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」への拠出やワクチンの現物供与など、日本政府の貢献を強調。ラストワンマイル支援についても78カ国・地域に総額約185億円規模で実施したと述べた。
将来のパンデミックに備えるためにも、感染症危機への対応のための医薬品などを現場に確実に届ける方策が求められている。菅氏は、イノベーションや官民連携の重要性のほか、日本企業が持つ技術の活用について、「まさに日本の強みを生かした支援であり、その有用性は非常に高い」と期待を述べた。
この日の会合では、実際に「ラストワンマイル」に取り組む日本企業の紹介もあった。
大手商社「豊田通商」は、トヨタ自動車の大型SUV(スポーツ用多目的車)「ランドクルーザー」をベースに、ワクチン用冷蔵庫を搭載した「ワクチン専用保冷車両」を開発。2021年3月には、世界保健機関(WHO)が定める医療機材品質認証(PQS)を取得した。ワクチンの保冷輸送車としてのPQS取得は世界で初めてだという。
ワクチンは低温での温度管理が必要な上、ワクチンがあっても、途上国では悪路や未舗装路などにより、実際に接種を必要とする人々の元に配送できないという「輸送」の課題が指摘されている。豊田通商のシニアエグゼクティブアドバイザー、加留部淳氏は「これに対する我々の解決策が、ランドクルーザーの中に冷蔵庫を搭載して接種する場所までお届けする、ラストワンマイルをカバーすることだ」と述べた。1回の輸送で約14万4千回分のワクチンを搭載できるという。
船用外付けエンジン(船外機)の製造で国内最大手のヤマハ発動機は、保健医療支援活動のNGO「シェア=国際保健協力市民の会」と連携。病院へのアクセスが難しい東ティモールのアタウロ島で、船舶による移動診療のために、和船・船外機といった自社の製品の提供や操船・メンテナンスの講習などを実施した。2022年6月にはこれらの船を地元保健省に移譲したという。
ヤマハ発動機の渡部克明会長によると、アタウロ島では過去にも船舶での移動診療を試みたが、当時は他社の船舶や船外機が実情に合っておらず、船外機の故障や船底の摩耗などで短期間で運用できなくなったという経緯があった。渡部氏は「使用環境にあった船と船外機を選定し、岩やサンゴが多い海岸での係留に適した船底の改良などに取り組んだ」とした上で、「こうした海を使ったアウトリーチ(訪問支援)活動は、世界的には様々な地域が必要としている。色々な地域で活動が展開できたらいい」と語った。