「脱ロシア」から「再エネ輸出国」へ リトアニアが描く未来予想図
気候変動対策として、世界各国で導入が進む風力や太陽光などの再生可能エネルギー。その再エネをバルト三国のリトアニアが急速に拡大しています。なぜでしょうか?

気候変動対策として、世界各国で導入が進む風力や太陽光などの再生可能エネルギー。その再エネをバルト三国のリトアニアが急速に拡大しています。なぜでしょうか?
旧ソ連から独立したバルト三国は長い間、電気やガスなどのエネルギーをロシアからの輸入に頼っていました。ロシアのウクライナ侵攻後、バルト三国にとってエネルギーの「ロシア依存」は、一刻も早く脱却しなければならない課題でした。そのカギとしてリトアニアが加速させたのが、再エネの導入です。どのように「脱ロシア」を果たしたのか。リトアニアで取材しました。
リトアニアの首都ビリニュスからバスで4時間ほどのクライペダは、バルト海に面した港湾都市だ。
そこに住むデイニス・マルティーシャスさん(57)は昨年、自宅の屋根に太陽光発電のパネルをとりつけた。2000年に建てた自宅には、暖房用にマキをたくための煙突がある。その煙突を囲んで屋根にパネルを敷いた。
「ずっと検討していたんですが、政府から補助金が半額出るので決めた。友人や知人もとりつける人が増えています」
同じ頃、自宅を新築した息子のエイメンタスさん(33)もパネルをとりつけた。
費用は約6千ユーロ(約100万円)で、自費でまかなったのは約半分だ。「3年もしないで元がとれそうだったので。実際、マキを使うのは4分の1になったし、電気料金も大幅に減った。自分たちが使うよりも多く発電すると、余剰分を太陽光が足りないときに充てることができるので大満足です」という。
エネルギー資源に乏しいリトアニアは、太陽光など再生可能エネルギーによる発電に力を入れている。このような国民参加型の施策もその一つだ。
1990年に独立した際、ソ連は経済制裁としてリトアニアへの石油や天然ガスなどのエネルギー輸出を大幅に削減した。
家庭ではお湯が出なくなり、公共交通機関は止まった。デイニスさんも「お湯が使えるのは週2回だけでした。でも、これで自由が得られるんだと思うと、その喜びで耐えられました」。
元エネルギー相で、国営の送電線企業で最高経営責任者(CEO)を務めるロカス・マスリスさんは「あれで私たちはエネルギー独立の必要性を思い知った。すごい衝撃だったけれど、良い経験になりました」。
その後、ロシアからの輸入に頼らないでもすむよう、北西部の都市ブティンゲに石油ターミナルを建設。他地域からの原油を輸入できるようにした。
だが、当面のエネルギーとしてリトアニアが頼ったのは原子力発電だった。ソ連時代の1980年代に建設されたイグナリナ原発は、大事故を起こしたチェルノブイリ原発と同じ黒鉛減速炉だったが、同国の電力供給の9割をまかなった時期もあった。
2004年の欧州連合(EU)加盟を前に、ソ連製原発の安全性に不安を抱いた加盟国は、閉鎖と解体をリトアニアに要求。原発は運転を停止した。2012年には新原発の建設を問う国民投票が行われたが、否決された。
結局、ロシアからのエネルギー輸入はその後も続いた。
リトアニア政府も手をこまぬいていたわけではない。2012年に「国家エネルギー独立戦略」を策定。ロシアへの依存度を減らすことを目標に掲げ、2014年には米国などから液化天然ガス(LNG)を輸入するために、クライペダ港沖にLNGターミナルを建設した。そのターミナルは「インディペンデンス」(独立)と名づけられた。
同じ2014年、脱ロシアの加速を迫られる事態が起きる。
ロシアがウクライナ・クリミア半島を一方的に併合したのだ。リトアニアはエストニア、ラトビアと共にロシアの送電系統に属していたが、2017年に改定した国家戦略では、2025年までにロシアからEU系統に切り替え、2050年までに電力需要のすべてを国内で発電することをめざした。
ロシアがウクライナに侵攻した2022年、ロシアからのエネルギー輸入を停止。同年にリトアニアで発電された電力のうち、再生可能エネルギーは6割を超えた。風力発電が31.6%、揚水発電は11.6%、水力発電は9.7%、太陽光発電は7.2%だ。
そして今年2月、バルト三国の送電網はEU系統に切り替わった。
「我々はついに真の意味での独立を果たしたのです」とエネルギー副大臣のアイリダス・ダウクシャスさん(31)は語る。
再エネによる発電量は順調に増えており、目標を大幅に前倒しして、2028年にはエネルギー輸出国へと転換できる見込みだという。「そのために多くの政策を進めている」とエネルギー副大臣のダウクシャスさんは胸を張る。
国民参加型として、自宅に太陽光パネルを取り付ける際の補助金のほか、政府が運営する太陽光発電の施設「ソーラーパーク」のパネルを、政府の補助金を得て個人が所有することもできる。
1枚や2枚の小口からオーナーになれて、発電した分の電気料金が安くなる仕組みだ。風力発電では、LNGターミナルがつくられたクライペダ港の近くに、大規模な洋上風力発電所が建設される予定だ。冬の暖房用には、ガスではなくてバイオマスの導入にも力を入れているという。
企業も再エネ関連の開発や売り込みに力を入れている。「SoliTek」は「50年の耐久性」をうたい、10キロの重さにも耐えられ、屋根や壁と一体となったパネルを製造している。
CEOのジュリアス・サカラウスカスさんは「私たちは高品質で50年と長く使え、リサイクル率も極めて高い製品で差別化している」と説明する。蓄電池の開発にも力を入れており、大型から家庭用まで実用化している。
別の企業「Solet」は、マンションのベランダに取り付けられるような小型のパネルにも力を入れる。ウクライナではオデーサなどで、リトアニア政府などから資金を得て病院に太陽光パネルを設置する構想がある。病院が送電を遮断されても自家発電できるようにするのだという。
ジョージアではリトアニア政府の資金で、国内避難民キャンプ数カ所で太陽光発電の設備をつくった。
CEOのアンドルス・カラジナスさんは「ジョージアやウクライナには、私たちと深いつながりを感じています。かつてはソ連の一部で、共通の歴史があります。ジョージアでは、太陽光パネルからのエネルギーで農場や工場ができ、そこから収入も得られていました。ウクライナは今は社会貢献の一環だが、いずれ市場とすることも視野に入れています」と語る。