テクノロジーで広がる女性の未来 つないだカメルーンとラトビアの絆
女性がSTEM(科学、技術、工学、数学)分野や起業家に少ないのは世界で共通していますが、増やすための取り組みも各地で始まっています。その様子を取材しました。

女性がSTEM(科学、技術、工学、数学)分野や起業家に少ないのは世界で共通していますが、増やすための取り組みも各地で始まっています。その様子を取材しました。
STEM分野に女性を増やすのは世界的な課題だが、カメルーンで、10代の女性にSTEMの楽しさを教えようとプログラムを始めた女性がいる。しかも、遠く離れたラトビアの支援を受けての試みだ。なぜこのプログラムが始まったのか。そしてどのような成果を生んでいるのだろうか。
アリス=エネケグベ・ムビ=エプス=オジョングさんはカメルーンで微生物学の研究をし、大学で教える研究者だった。2019年に米国国務省が、政治や経済、人権などの各分野のリーダー候補者を米国視察に招待する「IVLP」(インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム)に参加した。
テーマは「女性とSTEM教育」だった。世界から約50人が参加、3週間にわたって、米国数カ所の教育機関やNPO、企業などを回った。「ここでの経験と出会いがその後の私の人生を変えたんです」。オジョングさんは言う。
一緒に参加していたのが、ラトビアのアンナ・アンダーソンさんだった。アンダーソンさんはラトビアで、女性のためのデジタル教育やスタートアップ支援のNPO「リガ・テックガールズ」を始めていた。
「もともとは、自分も子育てをしながらウェブデザインのスタートアップをしていたんです。でも孤独で。忙しいし、相談に乗ってくれる人もおらず、燃え尽き症候群になってしまって。それで、気軽に相談できる相手やコミュニティーをつくりたいと思って、プロジェクトを始めました。そのなかで、女性がデジタルスキルを身につけ、スタートアップの運営についても教える活動が必要だと気づき、広げていったんです」
米国を一緒に回った2人はその後も自分たちの活動を展開しながら交流を続けた。オジョングさんはそれまでの大学での仕事を辞めて、2020年、カメルーン・バメンダ市に私立大学を立ち上げた。「もっと若い世代に焦点をあてたほうが、社会を変えていくのに効果的だと思ったんです」。コンピューター工学や経営学、教育学や看護などについて学べ、修士号も取れる。さまざまな助成金や寄付も得て、奨学金も用意した。
アンダーソンさんもラトビアで、女性のスタートアップ支援の活動を伸ばしていった。
「パンデミックでロックダウンになった時、これで私たちも終わりだと思いました。ワークショップや交流会など、全て対面で行っていたので。でも、逆でした。オンラインで始めると、何千人もの人が参加できて、どんどん広がっていきました。大規模な助成金も得ることができ、デジタル技術やキャリアについての研修やメンタリングのプログラムも始めたんです」。プログラムは基本的に全て無料で提供しているのだという。
カメルーンのオジョングさんは、大学運営が軌道に乗ると、アンダーソンさんの活動からアイデアを得て、ティーンの少女向けの短期のSTEMプログラムを立ち上げたいと考えた。
「私自身もそうでしたが、カメルーンではSTEM分野に興味はあっても、実際に学ぶ女性はまだまだ少ない。若い女性たちに、選択肢をもっと手にしてほしかった。若いときの方がその後の進路も考えやすいと思い、ローティーンを対象にすることにしました」
そのためにアンダーソンさんはラトビア外務省から助成金を得ることができた。1年に2回、春と秋に1週間ずつの集中プログラムを2023年秋にスタート。コーディングやプログラミング、ソフトウェア開発、ウェブデザインなどを、20~30人の少女たちが学ぶ。講師はラトビアから2人派遣してもらった。その中から4人の少女たちが選抜され、2024年には2週間、ラトビアでさらなる研修や、大学など教育機関、テクノロジー企業、研究所の見学などをした。
クリスタンジェル・マ=アレイさんは17歳の高校生。プログラムとラトビア研修に参加した。マ=アレイさんは言う。
「私は医学に関心があったけれど、STEMは伝統的に男子が多い分野なので、私にはできないと思っていました。ですが、プログラムに参加して女子でも活躍できると気がつき、私もやってみたいと思いました」
将来は海外に留学して医師となり、カメルーンに戻って地域医療に取り組みたいという。「カメルーンには、医師の治療を受けたくても受けられない子どもや女性たちがたくさんいるので、その人たちを診察して地域の役に立ちたい」
イレーネ・オジョングさんも、プログラムとラトビア研修に参加した15歳。「私はコンピューターエンジニアになりたいと思っています。数学や科学に興味を持つ女子は、私の住む地域では本当に少ないんです。プログラムに参加してこんなに仲間がいると知ってうれしかった。ラトビアではカメルーンではふれられない最新の技術を学ぶこともできました。科学を学び続ければ世界の技術の革新にふれられて、地域に貢献できる大きな可能性があると気づきました。大学のコンピューター学科は男性が多いけれど、女性でもこの分野で成功できることを証明したい」
サイバー犯罪の対策に関心があるという。カメルーンでもサイバー犯罪は大きな社会問題になっており、オンライン詐欺などの被害が増えているのだとか。「大学は海外に留学したいけれど、必ずカメルーンに帰って、地域のサイバー犯罪の対応に役立ちたいと思っています」
ラトビア外務省からの支援は終了したが、プログラムを企画したオジョングさんは少女たちの変化に手応えを感じ、今年は自力で開催する予定だ。
アンダーソンさんのリガ・テックガールズも順調に続いており、これまでに5万人以上の女性が参加した。起業をした女性も多くいる。「産休中に私たちのプログラムに参加して、起業する人も多いんです」とアンダーソンさん。
ローラ・ロクマネさんも、産休中にプログラムに参加。「プログラムでは多くを学びました。私は子どもや家族のためにより良い未来をつくりたくて。その後、起業のためのメンターシッププログラムにも続けて参加しました。最初は仲間を求めて交流会などでプレゼンをしても誰も来てくれなかったこともありました。へこんだけど、アンナが励ましてくれて、続けることに。起業仲間のランチ会もあって、お互いに励まし、アイデアを磨きあい、そしてチームができたのです」
開発したのは、AIやスマホを使って看護師の仕事を効率化するためのツール。その製品で起業をして、病院での導入も相次いでいるのだという。
米国からラトビア、そしてカメルーン。世界中で。そして世代を超えて女性がSTEMで可能性を広げている。